本連載の第3回で、座席のシートピッチ(前後方向の中心線間隔)について取り上げた。座席の構造に左右される部分もあるので、シートピッチの絶対的な数字だけを基準として前後方向の空間的余裕を論じることはできないのだが、数字が大きいに越したことはない。

ところが、シートピッチに代表されるような前後方向の余裕、あるいは座面の幅に代表されるような左右方向の余裕だけでは、座席の良し悪しは語れない。そして、座席の良し悪しは移動の快適性に直結する、実は重大な問題なのである。

柔らかい = 上等?

座席でもクルマのサスペンションでも、「上等なモノ = ふんわりと柔らかいモノ」と考えてしまうことがあるが、必ずしもそうとはいいきれない。柔らかすぎて疲れるということもあるのだ。支えるべきところはきちんと支えてくれないと、たとえば腰がぐんにゃりしてしまって具合が悪い。

もちろん、座面や背ズリのクッションが固すぎるのは論外である。首都圏でおなじみの某通勤電車が典型例で、短時間の乗車なら大して問題にならないものの、1時間ないしは2時間も乗車していると、お尻が痛くなってしまう。さすがに当事者も「これではまずい」と考えたのか、現時点で増備が進んでいる後継車両では、もっと改良された座席を備えるようになった。

では、上級クラスになると応接間のソファみたいに柔らかくなるのかというと、決してそうでもない。東北新幹線のE5系で「グランクラス」を利用したことがある方なら御存じかと思うが、あの座席は意外と固い。しかし、お尻が痛くなるような固さではなくて、身体をきちんと支えつつ、それでいて疲れないように配慮した固さである。安くはない追加料金を払って3時間以上も利用するのだから、そうでなければ困るけれども。

そういう、「固すぎず、柔らかすぎず、きちんと身体を支えてくれて疲れない」という条件に加えて、軽量化、コスト、保守性など、さまざまな要因が絡み合う中で、鉄道や飛行機やバスの座席を設計している。どこにバランスを置くかで、良し悪しに違いが出てくる。

そういう意味では、東海道新幹線における「300系→700系→N700系」という進化の歴史は、速度性能や省エネ性能の進化だけでなく、座席改善の歴史でもある。N700系の良さは決して電源コンセントだけにあるわけではなくて(失礼!)、300系あたりと比較すると、座席も大きく改良されているのである。実際に利用したことがある方にとっては、いうまでもないことかと思うが。

また、テーブルを初めとする各種の付帯設備についても、車種や座席によって意外と違いがある。テーブルの設置位置(前席の背中から出てくるタイプがあれば、肘掛けに内蔵するタイプもある)、テーブルそのもののサイズ、落下防止のための凸凹の有無や形状など、意外とバラエティが豊かだ。このほか、カップホルダーの有無やフック類の有無・設置場所など、意外といろいろなところで差異がある。

ちなみに、もっとも一般的なタイプのテーブルは前席の背面に設置するタイプだと思うが、これには意外な問題がある。前席に座っている人の挙動が、もろに影響するのだ。

背ズリをリクライニングさせるのに、「なにをそんな仇みたいに」と思うほど盛大に倒してきて、そのせいで背面のテーブルを使いづらい状態にしてしまうのが典型例。背ズリを盛大に倒して寝そべらないと「元を取った気がしない」というものでもないと思うのだが。そもそも、背ズリを倒し過ぎると、だんだんとお尻が前方にズリ出してきてしまわないだろうか? これは座席表面の素材にもよるのだが。

また、椅子に座る際にわざわざ「ドシン」と威勢良く座り、座席全体をブルブルと振動させる人もいる。筆者のような超軽量級ならともかく、特に体格がよくて重たい人だと問題は大きい。リクライニングの件にしてもこの件にしても、背面に設置したテーブルの使い勝手には影響が出る。

だから、自分が後ろの列の人に迷惑をかけないようにするため、こういったところで気を遣うことも必要ではないだろうか。互いに快適に移動するためのマナーである。

座席の違いは、基本的に車種や機材の違い

こうした座席や接客設備の違いは、基本的には車種や機材の違いと直結している。つまり、鉄道であれば「○○系と△△系では座席が違う」といった類の話になる。時刻表に「○○系で運転」「新型車両で運転」といった注があれば、それを参考にした指名買いが可能だ。もちろん、自分の移動スケジュールにおいて選択可能な範囲内でのことではあるが。

ややこしいことに、同じ車種や機材でも導入した時期、あるいはリニューアル改造の有無によって、座席や接客設備に違いが生じることもある。

たとえば、日本航空のボーイング777には、日本航空として導入した機材に加えて、経営統合前に日本エアシステムで導入した機材も含まれており、同じボーイング777でも座席が違う(確か、背面に小さな液晶TVが付いているのが、元・日本エアシステムの機材だったはず)。

機材繰りの都合があるから、フライトを選択する際に機体の出自まで考慮に入れるのは難しいが、「こんな違いもある」という一例。陸上では、秋田新幹線のE3系が、導入時期によって座席が違う一例となる。

リニューアルの場合、座席そのものを取り替えてしまう場合と、付帯設備の改造や表面の張り替えだけで済ませてしまう場合があるのだが、どちらにしても利用する側にとっては影響がある。表面の張り替えだけで済ませると、「お、新しくなってラッキー」と思ったら座ってがっかり、なんてことになりかねないのだが。

すでに利用したことがあって違いが分かっており、かつ、事前に選択が可能であれば、快適な座席、あるいは接客設備を備えた列車・飛行機・バスを選ぶことで、料金が同じままでも、より快適な移動が可能になる。このことを頭に入れておくだけでも、ずいぶんと違いが生じるはずだ。