毎日、自宅と会社の間を往復するだけで、通勤に使用する区間が一定しているのであれば、利用する区間に対応する定期券を購入すればよい。これは簡単である。ところが、すべての人がこのパターンに該当するとは限らない。そこで、今回は定期券と回数券の損得勘定という話を。

1ヵ月に満たない「通勤」は定期券、回数券どちらを買うべき?

筆者は会社勤めではなくてフリーランスだから、基本的には自宅が仕事場である。したがって「通勤」というものは発生せず、通勤にかかる交通費はゼロである。実際には打ち合わせ・買い物・その他の用事で電車に乗る機会は多いのだが、毎日のように同じ区間を行き来するわけではないので、定期券を購入するわけにはいかない。

ところが1度だけ、クライアントの会社に常駐する仕事をしたことがある。会社勤めをしている人と同様に、朝、電車に乗って都心のオフィスに出勤して、夕方に仕事が終わると帰宅する。これを確か、3週間ぐらいやった。週休2日だったから、出勤日数は15日ぐらいになる。

そこで考え込んでしまったのが、交通費だった。最初は「毎日、同じ場所に通うのだから定期券にすれば」と思ったのだが、完全に1ヵ月に及ぶわけではなかったので、はたして定期券で元がとれるかどうかわからない。そこで念のために計算してみたら、定期券を買うよりも回数券を購入するほうが得だと判明した次第だ。しかも、回数券なら有効期限に余裕があるから、余らせても別の機会に利用できる。

具体的に書いてしまうと、対象となった区間は調布(京王線)と大手町(東京メトロ)の間である。単一事業者にはならないので、調布-新宿間は京王線、新宿-大手町間は東京メトロ丸ノ内線ということにした。本稿執筆時点の数字で、通常運賃と定期券と回数券の数字を並べてみよう。

区間 通常運賃(往復) 回数券(11枚綴り) 通勤定期券
京王線 調布-新宿 2460円 2,300円 8,620円
東京メトロ 丸ノ内線 新宿-大手町 380円 1,900円 7,310円

それぞれについて、通勤定期券を通常運賃の往復で割ると、以下のようになる。

  • 京王線 調布-新宿→8,620÷480=18.73日
  • 丸ノ内線 新宿-大手町→7,310÷380=19.23日

つまり、1ヵ月間の利用日数が19~20日を超えないと、通常運賃よりも通勤定期券のほうが得にならないのだ。だから、「通勤」する日数が15日かそこらでは、ギリギリで赤字となってしまう。

回数券は基本的に「運賃×10倍の金額で11枚綴り」だから、1割かそこらの差になる。通学定期券と比べると通勤定期券の割引率は低いから、使用する日数次第では、定期券よりも回数券のほうが安上がりになる。そこで回数券を購入する作戦に出たわけだ。

つまり、「毎日、同じ場所に通うから定期券を買えばいい」とは限らないという話である。このケース以外でも、実際に電車を利用する日数次第では、定期券より回数券のほうが安いかもしれない。念のために計算してみることをオススメする。

この手の話は、会社勤めをしていても意外とあるかもしれない。パッと考えてみたのは、一定の期間だけ別のオフィスや事業所に出張、あるいは出向するケースだろうか。ただ、何しろ会社勤めをしなくなってから10年以上が経過した人間が考えることなので、いささかリアリティを欠くのは致し方ない。実際のところ、どうだろうか?

出張でも回数券をチェックしてみるべき

最近は鉄道でも飛行機でも高速バスでも、チケット類の購入チャネルが多様化しており、なかにはさまざまな割引を設定しているケースもある。特にネット購入系のチャネルではそういった傾向が強く、飛行機では早期購入による割引が(場合によっては)深度化している。

とはいえ、常にそうした割引を活用できるとは限らない。同じ人が同じ区間を何回も利用するとか、複数の人が立て続けに同じ区間を往来するとかいった場面では、普通にチケット類を購入するよりも、(もしも設定があれば)回数券を利用するほうが安上がり、ということはあり得る。

仕事の話ではなくて恐縮だが、岩手県内のスキー場に頻繁に通う筆者の場合、盛岡まで新幹線の回数券を買ってしまおうかと真剣に考えたことが一度ならずある。それを実行に移さなかったのは、6枚綴り(つまり3往復分)の新幹線回数券を購入したとして、それを有効期限内に使い切れるかどうか確信が持てなかったから。確信があれば買っているだろう。

長距離移動でも、都市部の短距離移動でも、複数の交通機関が競合しているところでは特に、通常以上に安価な運賃を設定した回数券を用意して価格競争力を高めようとしている場合がある。この手の情報は各社のWebサイトや紙の時刻表でチェックできるので、騙されたと思って調べてみてほしい。思いがけない発見があるかも知れないから(保証はできないけど)。