2種類ある新幹線のチケットレスサービス

東海道・山陽新幹線では「EX-IC」、東北・上越・長野・山形・秋田新幹線では「モバイルSuica特急券」といったチケットレスサービスがある。このサービスは、Webサイト経由で指定席の予約を行い、改札では携帯電話やICカードをタッチして通るというものだ。

もっとも、指定席に対応する列車や席番がわからないと困るので、モバイルSuica特急券なら携帯電話の画面で、EX-ICなら自動改札機を通る際に出力する「ICご利用票」で確認する仕組みになっている。それぞれ確認方法が異なるのは動作原理に違いがあるためだが、その話は本論から外れるので置いておく。

こうしたチケットレスサービスは、通常の方法で乗車券・特急券を購入するよりも安価に購入できるようにしたり、ポイント制を導入してリピーターを優遇したりと、さまざまなメリットを用意している。さらにモバイルSuica特急券では、区間や席数を限定して特に安価な「スーパーモバトク」も設定している。

こうした低価格化は、チケットレス化によるコスト低減効果だけでなく、戦略的にリピーターを確保する狙いもあるのだろう。ただし、この「安価」にはちょっとした注意点がある。

「東京都区内発」VS「東京発」

JRの乗車券は、基本的には発駅と着駅の間の距離(正確には営業キロ)をベースに運賃を計算するが、片道201kmを超える場合は例外が発生することがある。例えば、「東京都区内」に分類される駅を発地とする場合、実際に乗車する駅に関係なく「東京都区内発」になる。その場合の運賃は、東京駅(「東京都区内」の中心駅に指定されている)を起点として計算する。

赤羽から京浜東北線で東京駅まで、そこから東海道新幹線で浜松まで行く場合、実際に乗車する区間は「赤羽→東京→浜松」だが、乗車券は「東京都区内→浜松」となるというわけだ。

「東京都区内発」の乗車券は、東京を起点として運賃を計算するが、東京都区内に属するどの駅からでも乗車できる

この「東京都区内発」の設定が、モバイルSuica特急券やEX-ICには存在しない。東京駅から新幹線に乗るなら、乗車券は「東京駅から」となる。したがって、JRの利用を開始する駅が東京駅ではない場合、例えば前述した赤羽発なら「赤羽→東京」の乗車券は別途、単独で支払う形になる。

ということは、新幹線の駅までタクシー・バス・地下鉄を利用すると、チケットレスサービスで安価になる分がまるまる得になる。

EX-ICを利用する場合、乗車券は距離に関係なく「東京発」になり、その前後の在来線は別立てで支払う

モバイルSuica特急券の場合、改札口を通るたびに携帯電話を改札機にタッチすれば在来線の運賃を精算できる。EX-ICの場合、在来線に乗る際にSuicaやTOICAで入場しておき、新幹線乗り換え改札を通る際にSuicaやTOICAとEX-ICカードをまとめてタッチする。

つまり、利用に際して煩わしいことは特にないが、乗車券が新幹線と在来線で分断されるので、在来線を利用する比率が高まると金額的なメリットが減殺される点には注意が必要だ。

在来線の比率が高くなるほど要注意

赤羽から東京駅まで京浜東北線、そこから東海道新幹線で浜松まで移動する場合の運賃を計算すると、赤羽-東京間の在来線を別立てにしても500円の得になる。こうした計算を行う際には、「EX-IC運賃ナビ」を活用してみよう。

「EX-IC運賃ナビ」

しかし新幹線と在来線を乗り継いで、しかも在来線の乗車距離が長くなってくると、新幹線の前後で乗車券が分断される影響が大きくなる。JRの乗車券は遠距離逓減制といって、距離が長くなるほど1km当たりの賃率が低くなるから、細切れに買うと割高になってしまうのだ。

「赤羽を起点として東京-名古屋間で新幹線、さらに在来線の特急に乗り継いで米原経由で福井まで」というケースを試算してみたところ、EX-ICを利用するほうが高くなってしまった。乗車券が分断される影響に加えて、通常なら新幹線から乗り継ぐ在来線の特急料金に乗継割引が適用されるためだ。

新幹線と在来線を乗り継ぐ場合、通常なら乗車券を通しで買うことができ、さらに新幹線と在来線の特急を乗り継ぐときには乗継割引の適用も受けられる

ところが、新幹線の区間でEX-ICを利用すると、乗車券が分断されるだけでなく、在来線特急の特急券も別立てで購入することになり、場合によっては割高

こういうこともあるので、自分が利用する区間でどれくらいの差になるか、念のために比較してみたほうが良い。新幹線以外のJR線が占める比率が高くなるほど、要注意だ。