【コラム】

あの素晴しいトイをもう一度

10 ジグソーパズル(1) - いまも人気の「富士山・桜・金閣寺」

    野口智弘  [2007/03/14]

    18世紀に生まれ、当初はヨーロッパの複雑な国境を覚える教材として使われていたおもちゃをご存知だろうか? それは「ジグソーパズル」。普段ありふれているだけに見過ごしがちだが、根強い人気を誇る定番商品だ。折しも「2007年問題」で団塊の世代の余暇が増えることなどから、アナログトイの再評価は高まっている。そこで今回はジグソーパズルを初めて国産化し、現在も代表的メーカーである老舗・やのまんで、企画開発課長を務める王子健一郎氏にお話をうかがった。

    2006年はモナ・リザブーム

    ――最近の話題からお聞きしたいのですが、"脳トレ"ブームや2007年問題は業界の追い風となっていますか?

    やのまん本社の一角から。名画や風景、右下の『エヴァンゲリオン』のようなキャラクターものまで幅広い。人気キャラクターはディズニー、サンリオ、ポケモンなど

    「それはあると思います。元々ジグソーパズルは40代~60代の方に親しまれてきたホビーですし。ただウチでは『これで脳がよくなります!』みたいな過激なうたい方はしていないですけどね(笑)。最近の話題としてはそれよりもモナ・リザがよく売れました」

    ――その理由は?

    「やっぱり映画の影響です。名画は毎年コンスタントに売れる部類なんですけど、それでも絵柄のトレンドは時代に反映されますね」

    ――ホビーと同時にポスターとしての要素も大きいというか。

    「そうなんですよね。欧米では組んでは壊して、また楽しむというスタイルが多いそうなんですが、日本の場合はやっぱり完成して飾れるというお得感が喜ばれています」

    ――主流はどういったものですか?

    「なにはともあれ富士山です。富士山・桜・金閣寺は昔から人気がありますね。全体の傾向としては緻密な絵柄が好まれます。サイズで言うと1,000ピース前後。価格帯では2,500円~3,000円のものが中心です。正確な数字はないのですが、ユーザーの8~9割は女性の方だと考えています。手芸とかパッチワークのように、1個1個の達成感を積み重ねる過程が喜ばれていますね。逆に男性は完成品で遊ぶホビーが多いですから、ジグソーパズルは地味に見えてしまうのかもしれないですね」

    「忍野村より富士(山梨)」(108ピース・1,050円)。富士山をどのアングルから撮影するか? という大問題についてはメーカー間で開発競争があるという

    青のコントラストが美しすぎて困る? 「ソリチュード(アメリカ・ハワイ)」(1,000ピース・3,150円)。高い難易度を誇るが、非常に人気があるとのこと

    ――男性にも人気の商品はありますか?

    「10年ほど前には競走馬のジグソーパズルが非常によく売れました。オグリキャップとかですね。それからいまも取り扱ってますが、アニメの『新世紀エヴァンゲリオン』。当時私は営業だったんですが、注文を取りに行く必要がなかったぐらい人気が出ましたね」

    ――人気の波はあるんでしょうか?

    「一番よかったのはバブルの時代です。有名なアーティストの作品を部屋に飾ることが非常におしゃれとされたんですね。トレンディドラマにも登場したりして、ギフト需要で500億円市場にまで拡大しました。ただ、現在の規模は全盛期の何分の一かになっていますね」

    ジグソーパズルの基本の「キ」

    ――ジグソーパズルの基本的な作り方を教えてください。

    「まずチップボードと言われる台紙に、印刷物を張り合わせまして、厚さ約2ミリの合紙と呼ばれるものを作ります。それにタテの歯、ヨコの歯と機械で2回切り込みを入れまして、最後にそれをバラバラにして梱包する、というのが基本的な流れですね」

    ――こういう形だとこうなる、という規則性はありますか?

    「ピースが正方形に近いほど難易度は上がります。例えば3方向に出っ張ったピースを作ると、面白い形になりますけど、向きがある程度決まるのでヒントが多くなります。ピースの形のデザインは、デザイナーと金型職人による目に見えないノウハウですね。ジグソーパズル自体は難しい製法ではないので、機械さえあれば作れるんですけど、そこまで細かく考えているところはウチぐらいしかないと思います」

    ――例えば「キ」の字型のピースがありますね。絵柄のズレを気にしなければ、別の場所の「キ」の字型のピースと入れ替えできるものなのですか?

    「ウチのは形が似ていてもはまりません。こっちにもはまる、あっちにもはまる、というものは我々はパズルと呼んでないですね」

    ――それは緻密な調整の賜物ですね。ところでジグソーパズルで久々に遊んでみたい、という方はどこに気をつけるとよいでしょう?

    「まずジグソーパズルを選ぶ目安ですが、写真のほうが難易度は高いです。コントラストの部分での見分けはイラストのほうがしやすいですね。あと作る際に最初にやっていただくといいのは、肌色のピースや背景のピースなど、まず色分けをしてしまう。端を埋めていくのはその次がいいですね」

    ――ジグソーパズル作りでこだわられている点は?

    「こだわりと言うか、やのまんは他社さんがやれないことをやるだけなんですよね。ジグソーパズルはアフターサービスの面などで意外と非効率的な部分が多いホビーなんです。そういう大手さんでは難しい、お客さんへの細かいケアはウチならではだと思います」

    ――アフターサービスと言うと?

    「ピース請求ハガキというのが入っていて『このピースがなくなりました』と送っていただければ、それに対して無償でピースをお送りしています。当然それはこちらでストックを持っておかないといけない。製造日によって歯型も微妙に変わってくるので、同じ商品でも製造年月日によってそれぞれストックしています。ジグソーパズルは1ピースが足りなかったからって我慢するわけにいかないですもんね」

    ――なるほど。

    次回はおもちゃ売り場の風景を変えた最新のヒット商品を中心に、さらにジグソーパズルとやのまんの秘密に迫っていきたい。

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