【コラム】

あの素晴しいトイをもう一度

3 せんせい(1) - あの魔法のスクリーンの種明かし

野口智弘  [2006/08/31]

3/12

数十年ぶりにせんせいに再会した。せんせいにはずいぶん落書きをした。字の読み書きを教えてくれた恩師でもある。

再会した場所は、東京・東日本橋にあるタカラトミーの会議室。机の上には知育玩具「せんせい」が所狭しと並べられている。磁石の力を使ってスクリーンに絵や文字が書けるこの「せんせい」シリーズは、子供たちはもちろん、落書きに頭を悩ませるお母さん方にも大きく支持されている知育玩具の代表的商品で、1977年の発売以来、現在までの29年間で約2,000万台を販売している。

「せんせい」シリーズの現行製品で最もスタンダードなモデルの「おえかきせんせい」(3,675円)

今回はタカラトミーのベビープリスクール事業部でせんせいを担当している、企画主任の門間利佳さんと、同事業部マーケティング担当の石橋ケンタロウさんに、せんせいのロングセラーの秘密をうかがった。せんせいの担当者だから、というわけでもないだろうが、柔和な笑顔が印象的な門間さんと、いかにもスポーツが得意そうな石橋さんは、どことなく幼稚園の保母さんと保父さんのように見える。

タカラトミー フロンティア事業本部 ベビープリスクール事業部 プリスクール企画チーム主任 門間利佳さん

同事業部 マーケティングチーム 石橋ケンタロウさん

30年近い歴史を持つシリーズだけあって、歴代の商品と資料だけでもかなりの量になる。古いものまで出していただいたことについてこちらが恐縮していると、門間さんから「ちょうどいいタイミングでした」と言われた。聞けばここ東日本橋から、立石の新社屋へと引越しをする直前で、ちょうど荷物の整理をしている最中だったとのこと。3月にタカラとトミーが合併して以来、再編が着実に進んでいることをうかがわせる(この取材は8月上旬に行われ、現在はすでに移転が完了している)。机に置かれた商品のなかには、今年の夏に発売されたばかりの最新機種「2(ツー)カラーせんせい」なども見えるが、はやる気持ちを抑えて、まずは長年の謎だった、せんせいの基本的な仕組みから教えてもらうことにする。

なぜスクリーンに何度も書いたり消したりできるのか? 「砂鉄にようなものが入っているらしい」というところまでは子供心に気付いていたが、それ以上のことがわからない。するとさっそく門間さんが手元のせんせいに模式図を描き込みながら説明してくれた。ビジュアルな説明を簡単に受けられるのも、せんせいならではと言える。

「これがスクリーンの断面だと思ってください。スクリーンには乳白色の液体が入っていて……」

――中身は液体なんですか?

「液体なんです。そのなかにミクロン単位の大きさの磁石の粉――『磁性粉』と呼ばれるものが沈んでいるんですね。ペンにも磁石がついているので、それを表面から当てると、沈んでいた磁性粉は表面に引き寄せられます。磁性粉は黒いので、なぞった部分は黒い線に見える、というのがせんせいの基本的な仕組みです」

せんせいの基本構造を図で示したもの。上側がスクリーンの表面、下側が底を示す。表面を磁石のついたペンでなぞると、底の磁性粉が表面に引き寄せられて黒い点となる

――消すときは?

「スクリーンを外すとわかるんですが、本体の底にも磁石のバーが入っているんです。レバーで磁石のバーを左右に動かすと、上がってきた磁性粉は底の磁石のほうに引っ張られますから、今度は下がるんですね。液体のなかを磁性粉が上がったり下がったりすることで、書いたり消したりということが可能になるんです」

スクリーンを取り外してもらった。本体の底に磁石のバーが仕込まれており、手前のレバーを左右に動かすことで再び磁性粉は底に沈む。表面の黒い部分が「消えた」ように見える

真っ白なスクリーンを裏返すと、このように真っ黒。種明かしをされるとその仕組みのシンプルさに驚かされる

――表面に上がった磁性粉がはがれて、底に沈んでしまうことはないんですか?

「中身の液体はサラサラしたものではなくて、粘り気のあるゲル状のものなので、磁性粉が表面に上がったときに定着して、底に沈まないようになっています」

スクリーンの表面に線を描いてみる。黒くなった部分を裏返してみると白くなっている。磁性粉の浮き沈みがよくわかる

――スクリーンが細かくハニカム(蜂の巣)状に区分けされていますが?

「区分けをしないと液体と磁性粉が偏ってしまうんですね。形については試行錯誤の末にハニカム状に落ち着いたと当時の開発者から聞いています」

スクリーンを別角度から。内部の液体や磁性粉が均一になるよう、細かくハニカム状の区分けがなされている。厚さは1ミリ以下だという

……と、説明をされると単純な仕組みだとわかるが、言われなければまるでわからない。まさに手品の種明かしのようだ。これほど完成された仕組みで、しかも定番おもちゃとしてのブランド力があれば、毎年コンスタントに売れ続けているような気がするが、実際のところはどうなのだろうか? そのことを聞いてみると、マーケティング担当の石橋さんは笑顔とも苦笑とも取れない顔つきで、

「じつは意外と波乱万丈なんです」

と言う。次回はその、せんせいが歩んできた歴史について迫ってみたい。

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インデックス

連載目次
第12回 ジグソーパズル(3) - 定番を作り出した日本のジグソーパズルの父
第11回 ジグソーパズル(2) - 球体、世界最小、妖怪? 広がる新機軸
第10回 ジグソーパズル(1) - いまも人気の「富士山・桜・金閣寺」
第9回 オセロ(3) - 発売から34年、オセロは変わらない
第8回 オセロ(2) - 最初はたった3,000個、オイルショックを乗り越え世界へ
第7回 オセロ(1) - パッケージにタバコ? 大人向けだったオセロ
第6回 せんせい(4) - 驚きの新製品の舞台裏と、これからの「せんせい」
第5回 せんせい(3) - 主力となった「カラフル」、そして「2カラー」へ
第4回 せんせい(2) - パズル、両面、コンピュータ? 知られざる幻の商品
第3回 せんせい(1) - あの魔法のスクリーンの種明かし
第2回 博品館TOY PARK(2) - 大人が自分のためにおもちゃを買いに来れる場所
第1回 博品館TOY PARK(1) - 銀座のおもちゃ屋さんの意外なお得意様とは?

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