僕はこうやって拙い文章を書くお仕事もさせていただいておるのですが、基本マンガとか、絵を描くことを生業とさせていただいております。そうすると、一日の大半は部屋で仕事することになります。当然、運動不足の危険に晒されます。眼精疲労、肩腰の痛み、過去二回ほど、ギックリ腰をやりました、あれは大変です、イスにも座れないし歩いてトイレにも行けなくなる、大人のおむつ生活。床に落ちた消しゴムを拾おうとして全身がツッてそのまましばらく硬直してたこともあります。身体の健康にはとにかく、いつも、気を張ってなきゃいけないリスクの高い仕事です。

体だけじゃない、心の健康も元気に維持しなければいけません。でも、あれなんです、マンガを描いてると、なかなか、そこが難しいんです。

例えば、マンガの中に悪いヤツが登場してきます。悪いヤツが悪いことをして、何かをしゃべろうとするとき、ふきだしの中にセリフ、そこに現実味あるセリフを入れようとすれば、悪いヤツが悪いことをした気持ちがわかっていないとダメです。だから作り手は悪いヤツの気持ちをシミュレーションしながら物語を進めることになります。悪いヤツが、凶悪な殺人魔のような極端な場合は別にして、微妙に性格が歪んでいるとか、そんなどこにでもいそうな人物の場合、作者の心労はえらいレベルに達します。作者は歪んでる人物の気持ちになって、そいつを自分に憑依させて何かをしゃべらせます。そうしないと、気持ちの入ったセリフにならないし、そうするしか方法がないんですよね。メンタルシミュレーション。

現実味のある悪いヤツがたくさん登場するようなマンガや小説、物語の作者は強靭は精神の持ち主ということになります。

一日の大半を部屋にこもり、デブでブスになる。ヘトヘト……。でもこんなことで、へばっててはダメ! 一流とはいえない! 一流の作家は……。

犬の気持ちにもチャネリング! 一流作家の精神力は凄まじいのです。いくつもの人格を渡り歩き、途中、人格崩壊してはダメです。強くて健康な心身がなければ、そのような状況を乗り越え生き残ることはできません。クリエィティブはサバイバル。創造的な室内労働はこのような危険を孕みながら、それでも心身とも良い状態を維持していくというのは、そうとうな高等テクニックなんだということができます。この連載はそのテクニック、ちょっとしたことから、かなり大事なことまでの心のチップスを拾ってみようということで始まったのでした。あらためてテーマを確認したところで、次回はさらに、室内労働の未来を考えてみます。

タナカカツキ


1966年、大阪府出身。18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。キリンジのアルバム『BUOYANCY』など、CDのアートディレクションも手掛ける。