前々から不思議だったのが、お笑い芸人の新人さんが、テレビに出はじめの頃はさほど面白くなかったのに、何年かしたらいつのまにかレギュラーの仕事を何本も抱えて面白くなってたりすること。もちろんそのまま消えてゆく人の方がほとんどなのかもしれないけど、芸人の芸は成長するんだなあと思う。毎日、稽古や舞台、テレビの本番で自分の芸が試される緊張感の中で、その芸は鍛えられ「修練の賜物」となって開花してゆく。受け手であるこちら側の受け取り方も変化する、見慣れてしまうというのもあるかもしれない。タモリやビートたけし、所ジョージ、もテレビに出てきた時は主婦が最も嫌いなタレントだったと記憶しているけど、なんだか知らない怪しげな人がなんだかわからないことをテレビでやってても、見慣れてしまえば受け入れるようになって、怪しさがじわじわと好感度に変化していく。怪しかった分だけ好感度に腐らない粘りもでるように思う(こちら側がかたくなに、受け入れないぞと気張らない限りは)。そんな中でテレビの芸は洗練されて、さらに磨きがかかってゆく。

我が身を振り返ったとき、マンガ家としてデビューして四半世紀、どこにも連載してないマンガ家として、何を修練し、何を習得できたのだろうと思ったらゾっとする。しかし確かに、周りのクリエイターといわれる人たちを見ていると、それを続けてきた人たち、ヘタな絵でもイラストレーターですと言い続けてやり続けてきた友人は、今では名のあるイラストレータになってるし、君の性格では向いてないね、なんて言われてたけど舞台に上がり続けてきた友人は今では立派な俳優だし、続けた人しかの残ってないという現状を知る限り、それはそうなんだろうと思う。続ければ磨かれてゆく、続けたことしか残らない。

では、なぜ、彼らが「続ける」ことができたのかなあと言えば、その前に「覚悟が」あったんじゃないかなあと思う。イラストレーターになるという覚悟、俳優になるという覚悟、芸人になるという覚悟。ぼくの場合、マンガ家になるという覚悟は希薄だったけど、そのかわり、一生楽しく暮らしたいという覚悟、嫌な仕事はしたくないという強い覚悟は子供の頃からあった。そんな勝手で我侭な覚悟が習得したことはつまり、好奇心に忠実になることだったり、友人たちとの遊びを仕事に応用していくことだったり、嫌なことには近づかず面白そうなことを嗅ぎ分ける勘、先の予定が立たなくても不安にならない精神力。だったりしたんじゃないかと思う。

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タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。