いっこく堂の音声が遅れて聞こえる芸を、はじめてテレビでみたときはびっくりした。なるほど、腹話術の応用でそういうこともできるのかって、みなさんも驚かれたと思います。あるインタビューでいっこく堂が「毎日8時間練習しました」というようなことを言ってて、それも驚いた。8時間も腹話術の練習……。8時間というのはすごい! 1日8時間というのは睡眠や食事以外はほとんどの時間それをやっていることになりますよね。受験生が家で8時間勉強するというのはわかるけど、いや、もちろんそれもすごいんだけど、腹話術に8時間っていうのは人生の大博打! 自分の将来のことを親や親戚にどう説明したんだろうか?

いっこく堂が独学で腹話術をはじめたのは20代後半。20代後半の男が定職も持たず、毎日、鏡の前で8時間も腹話術の練習をしている図は凄まじいものがありますね。唇を切って血まみれになっていたというエピソードもあって、怖い……。どれほど孤独な時間を味わったのだろう……。もし自分の子供が鏡の前で口元から血を滴らせながら腹話術を毎日8時間やり始めて「ぼく将来腹話術師になるんだ!」と腹話術でしゃべりだしたら、わが息子はとうとう気がふれてしまったのかと残念に思うでしょう。とにかく凄いことですね。あと、もうひとつ、彼の技芸がそういう『修練』によって体得したものだということに注目したいです。センスや才能とかそういう目に見えない、なんだか怪しいものではなく、スポーツ選手の筋トレの如く、毎日の継続の中で養ったもので、猛特訓により作られた芸だということ。「続けることが才能なんです」なんていう言い方も聞いたことあるけど、毎日練習さえすればいっこく堂のようにできるようになるのだろうか。できるんだとすればセンスや才能のない人にとって希望の光です。

あの芸をぼくもできるようになりたい。8時間の覚悟はないけど、10分くらいの練習なら毎日できるかもしれない。希望の光をうけて、毎日風呂の時間に、鏡に向かってやってみることにしました。

まずは論理的に、音声と口の形がどのようになっているのかを分解、整理してみます。

1週間続けてみて、まったく出来そうになかったら、やめようかと思ってたけど、5日目くらいから、徐々に出来始めた! 出来始めたら楽しくなってきて10分じゃ物足りなくて、自分が満足できるまでずっと練習してしまう。だんだんほんとに上手くなってきたので、友人に見せたところ、凄いびっくりされた。よし! できる! 手応えを感じたし、違う言葉にも挑戦するぞ! と、そんな必要以上の意欲も湧いてくる。応用していろんな言葉を発するにはまだ時間がかかりそうだけど、練習すれば出来ることがわかりました。スポーツやゲーム、車の運転と似てる。「修練を積む」次回もこのテーマで、さらに掘り下げてゆきたいと思います。「では、また、じかい!」(音声をおくらせながら)。

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タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。