【コラム】

元国税芸人さんきゅう倉田の「役に立ちそうで立たない少し役に立つ金知識」

20 ひとりで裁判やってみた

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元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな裁判所は「最高裁判所」です。

今年の6月、住んでいたアパートを退去しました。2カ月後、「退去に関する届出書」が大家さんから届き、そこには以下のような文言が……。

「退去に当たり、リフォーム負担について承諾を致しました。よって、後日の一切の異議申し立ては致しません。賃借人負担4万1,000円」

別紙には「『退去に関する届出書』に署名捺印いただき、返送ください」との一文だけが書いてあります。つまり、入居時に支払った敷金から退去後に行ったルームクリーニング費用を差し引いて残額を返金するから、名前書いて判子押して、郵送してこい、そしたら、敷金のうち9,000円だけ返してやる、ということなのです。

ぼくが、他人を疑うことを知らないピュアボーイだったなら、署名捺印して返送し、9,000円を季節外れのボーナスと考えて、大好きなコムデギャルソンの服を買う原資にしたでしょう。

でも、そういう一方的な請求が、借主の知識不足に漬け込んだ不当なやり方だと知っていました。一般的な取引であれば、クリーニングの内容や外注先、所要時間を説明し、納得した上で書類の返送を願います。「一切の異議申し立ては致しません」と予め書いて署名捺印させるだけでは、知識のない借主は拒否や説明を求めるなどの選択肢がないと誤認してしまいます。ぼくは憤り、リフォーム代金4万1,000円が妥当であるか裁判所の判断を仰ぐことにしました。

和解を勧める裁判官

弁護士に依頼せず、一人で全てを準備して、2カ月後に裁判当日を迎えました。当日までの準備や手続きは、また改めて記事にします。

10月13日、東京簡易裁判所(民事)の403号法廷に11時出廷です。5分前に入ると、ひとつ前の裁判が和解の話を進めていました。傍聴席に座り、終わるのを待っていると、書記官に名前を呼ばれ、法廷に入ります。原告なので、傍聴席から見て左側に座ります。

被告の席に座ったのは、大家さん(株式会社○○)の退去の担当者金村さん(仮名)でした。裁判官は50歳くらいの背広も着ず、ネクタイもしていないやせ細った男性、書記官は25歳くらいの中肉中背の男の子で、ぼくを含む4人で裁判は行われます。はじめに裁判官から今回の争点となったルームクリーニング費用について説明がありました。

ぼくを含む4人で裁判は行われます

裁判官「契約書に特約事項がありますね。『ルームクリーニング費用は借り主の負担とする』これはさんきゅうさん理解してますね? 問題はルームクリーニング費用が敷金から差し引けるかってことですよね? では、和解で話を進めます」

なぜか、和解にする流れになってしまいました。和解にはしたくなかったぼくは、やんわりと断ります。すると、「どうして? 」と不思議そうに裁判官は言うのです。ぼくは、和解にすると、訴訟費用が各自負担になることを知っていました。訴訟費用は、今回の訴訟を起こすために必要だった印紙代と切手代5、000円です。これは、ぼくが一人で払っています。4万1,000円のクリーニング費用というミクロな金額で争っている中、5,000円の負担は大きい。

ぼくは、粘り強く和解に持ち込もうとしてくる裁判官を、粘り強く拒否しました。裁判官は、とにかく和解を勧めてきます。訴状を提出したときも、裁判所の事務の方が和解を勧めてきました。きっとその方が、仕事が速く終わるのでしょう。

強引な裁判官に絆(ほだ)され、一旦、和解で話を進めることにしました。一度和解で話を進めても、双方の合意がなければ判決に持ち込むことができるそうです。ぼくは、一旦部屋から出され、裁判官と被告による話し合いが行われました。5分ほど廊下で待ち、書記官に呼ばれて再び法廷へ。裁判官の意見を聞かされました。

裁判官「ルームクリーニング費用、普通、裁判する人は無効だって主張します。さんきゅうさんは無効だって言ってないけれど、私としては無効だと考えてません。賃貸借契約書に書かれていて、契約自由の原則ってのがあって、無効にはならない。特約があるので通常損耗も賃借人負担だと思ってます。ただ、金額は高いと思う。彼ら(被告)はルームクリーニング費用を2万円までなら下げられると言っています」

裁判官は「どう? 」と、和解させようとしてきました。しかし、ルームクリーニングの内容が全く分からないので、2万円が高いのか妥当なのか分かりません。ぼくは、誰が、どのように、どのくらいの時間、どんな道具を使って、どんな気持ちでクリーニングを行ったのか確認したいと伝えました。

すると、裁判官は「私は分かんないから」と言って、被告を呼び、ぼくにたのしいたのしい質問の時間を与えてくれたのです。これが、今回の裁判の中で最もスペクタクルでわくわくする、ドラマのシナリオのような時間となりました。つづく

執筆者プロフィール : さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら

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インデックス

連載目次
第25回 ゴジラによって家を破壊された場合に受けられる税金の免除
第24回 ラブホテルと宿泊税
第23回 ひとりで裁判やってみた4~手続きと注意~
第22回 ひとりで裁判やってみた3~和解の危険性~
第21回 ひとりで裁判やってみた2~大家さんへの尋問~
第20回 ひとりで裁判やってみた
第19回 課長にバレないように副業しよう~もしバレても これさえ読めば~
第18回 意外と知らない福利厚生費の世界~旅行、記念品、食事の取り扱い~
第17回 社長・CEO・代表取締役は、業績が良くてもボーナスがもらえない?
第16回 M-1グランプリの賞金に税金はいくらかかるのか
第15回 図解! 新しい源泉徴収票と扶養控除等申告書
第14回 お年玉とサンタさんと誕生日、贈与税がかかるのは?
第13回 マルサならたやすく暴く - 議員さんの"かそう・いんぺい"
第12回 サングリア お店で作ると 捕まるよ
第11回 ティファニーで免税を
第10回 交際費の世界
第9回 会社員の会社員による会社員のための確定申告
第8回 ボノボでもわかる減価償却と耐用年数
第7回 部屋とワイシャツと印紙
第6回 贈与税ちゃんと相続税ちゃん
第5回 あきらめないで、会社員でも経費が認められる!
第4回 「103万円以内で働く」意義と130万円の壁
第3回 脱税なんて大嫌いっ! - 国税局査察部・マルサ
第2回 三種の神器は、贈与税がかからない?
第1回 上司も唸る「酒税法改正」

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