この8月に発表されたデザインフィルの新ブランド「PLOTTER」は、同社のKNOXBRAINブランドから受け継いだアイテムを先行商品としつつも、新しいブランドとしての存在感を強く打ち出しています。

デザインフィル社内の発表ブース

さてでは、ビジネスシーンではどう使えばいいのかを、先行して発表されたアイテムを中心に紹介しましょう。あわせて、このブランド全体についてもおさらいしていきます。

PLOTTERのイメージボード

新ブランドが生まれた事情

PLOTTERのメーカーであるデザインフィルは、文具のユーザーには「トラベラーズノート」や「MDノート」などで知られています。

「PLOTTER」は、先行して登場したアイテムこそ文具ですが、今後は旅行用品やカバン、レザー小物、地図といったアイテムの登場も予告されています。いわば総合ライフスタイルブランドを指向しており、文具アイテムは、現時点では同社のユーザーにブランドを認知してもらうための先兵的な役目が持たされていると解釈できます。

PLOTTERのイメージアイコン。時計や日の丸などをイメージしているとのこと

PLOTTERが生まれるきっかけとなったのは、KNOXBRAINのバインダー「LUFT」だそうです。

特にここ数年、システム手帳ブランドを擁する文具メーカー各社は、試行錯誤を続けてきました。それは例えば若年層を想定したエントリーユーザー向けに、手頃な価格でバインダーとリフィル、アクセサリーのセットを提供することであったり、あるいは、バインダー自体の構造を見直すことであったりもしました。

PLOTTERブランド登場のきっかけとなったLUFT。筆者私物を入手直後に撮影

LUFTも、当初はそういった試みの中の一つだったのですが、市場への受け入れられ方は既存のシステム手帳とはやや異なりました。それまでのユーザー層とは違った人たちに受け入れられたそうです。しかも手帳としてでなく、メモのリフィルをセットして利用するバインダー型のノートとして使われたりしていたそうです。

これはLUFTが薄型のシンプルなバインダーこととも無関係ではないでしょう。それまでのシステム手帳とは異なり、ポケットもペンホルダーも附属していませんでした(※この特徴はPLOTTERのバインダーにも受け継がれています)。これがユーザーには新鮮に映ったのでしょう。

PLOTTERのバインダー。内側の金文字がまぶしい。上はバイブルサイズ。下はナローサイズ

新しいけれどオーソドックス

これが、第一弾のステーショナリーラインに踏襲されました。まずLUFTから移行したバインダーは、『6穴リングレザーバインダー』。そして各種のリフィルには、予定管理用もあるもののその中心は、"アイデア創出用"を標ぼうしています。ブランド名「PLOTTER」には、「計画する人、主催する人、構想する人」という意味が強く込められ、クリエイター、プランナー、アーティスト、起業家、経営者、研究者、職人などのナレッジワーカーのアイデア創出をアシストすることを目的としていることが反映されているわけです。

PLOTTERブランドの利用イメージ。AppleWatch以外は、アナログなアイテムの集合。手作業で、アイデアを形にするシーンを想定していることがわかる

例えば中核アイテムであるリフィルメモパッドは、ノートやToDoリストなどが用意されています。これを「プロジェクトマネージャー」と呼ばれる専用のフォルダーにまとめ、更にバインダーに保持するという運用が想定されています。

リフィルメモパッド。これは「To Do List」だが、これ以外に無地や横罫のノートもあった。いずれも普通のノートと同じように綴じられた構造だがリフィル1枚単位に切り取ることもできる

アイデアや情報を紙にキャプチャー・クリップし、収集し保存する

文具のブランドではないとは言いながら、ここには、『知的生産の技術』(梅棹忠夫/岩波書店/1969)以来の知的生産システムのワークフローが強く意識されているように思えます。

リフィルメモパッド(横罫タイプ)の上部内側。さりげなく引かれた斜線が日付記入欄として利用できるようになっている

また、プロジェクトマネージャーの内側はガントチャートが用意されており、進行管理アイテムとしての役割も持たされています。さらに、利用が終わったリフィルも専用の保存フォルダー「リフィルストッカー」で保管ができます。

リフィルのフォルダー「プロジェクトマネージャー」にリフィルを収納したところ。リフィルをこういうスタイルでまとめるアイテムは珍しい

プロジェクトマネージャーは、6色展開。これはA5サイズ

リフィルメモパッドの内側の部分。行表示番号がある。PC用エディターソフトのようでもあり、アナログな工夫にも思える

とはいいながらも、そのデザインは洗練されており、ディテールはとても凝っています。詳しくは写真を見ていただくとしても、既存のシステム手帳用アイテムとは一線を画した雰囲気はかなり狙っている感じです。

リフィルストッカー。リフィルやプロジェクトマネージャーをまとめて保管できる。しっかりしたハードな表紙を持つ

予定管理用の月間リフィル。月の数字はペンで記入しくい内側にある。システム手帳のリフィルとしての使い勝手が考えられている。これはナローサイズ。ナローサイズはデザインフィルオリジナルのシステム手帳のサイズ

筆者の印象を一言で言えば、"ハードルが高い"。この過剰なまでにスタイリッシュな印象の文具を使って、ユーザーは一体どんなアイデアを生み出すのか。PLOTTERの各アイテムのそこここからは、そんな挑発的なニュアンスすら感じられます。

専用のペンホルダー。左側にセットすることが想定されたデザイン

そしてそれは、システム手帳ブランドの元祖であるファイロファックス(Filofax)が、1980年代に初めて日本にもたらされたときに醸し出していた感じに近いと感じています。

ある雑誌編集者は、「これも一つのシステム手帳アイテムとして受け入れられ消費されるのではないか」と語っていました。確かに価格としては絶対的に高価というわけではなさそうです。

下敷き。ルーラーやフォントサイズ比較、罫線の太さ比較、分度器、インデックスなどの役目を持たされているが、いずれも視覚的にうるさすぎないデザインだ

ともあれ、このPLOTTERを使い、手なずけ、使い倒すほどのどれだけのアイデアが出せるか、こういう挑戦的な雰囲気を持った文具は久しぶりではないか。それが筆者の感想です。

正式なアイテムの発売などは公式サイトから発表されます。その第一弾は9月23日が予定されています。

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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