手帳活用を指南する書籍によく出てくるフレーズがあります。それは、「学校では手帳の使い方を教えてくれない」というものです。

これは確かにその通りで、特に公立の小中学校では、そもそも手帳の授業科目はありません。また中学校で配られる生徒手帳も、校則は載っていても使い方のページはなかったはずです。

この事情が最近変化しつつあります。

具体的には学生層をターゲットにした手帳が登場し、使い方のプログラムとともに手帳を作るメーカーの新たな商品として定着しています。既に複数の手帳メーカー、出版社などがこの市場に参入し、学校(中学・高校)単位で導入が進むことで、市場が確立されつつあるのです。その目的は、学習と生活習慣です。手帳を使うことで時間管理を無理なく身につけさせ、学習効率の向上、ひいては受験にも役立てようという意図で作られた手帳です。

学生向け手帳からビジネスパーソンが学ぶべき点

今回紹介する教育ツールデザイン研究所の「ACTIO(アクティオ)手帳」もその一つで、先月のISOTにも出展されていました。

「ACTIO(アクティオ)手帳」。サイズは2種類。中身は細部が異なる

学生向けというやや特殊なジャンルに思えます。ですが、各所に盛り込まれた工夫は、ビジネスパーソンにとっても学ぶべき点が多々あります。また手帳としても新しいアイデアがいろいろ盛り込まれています。今回はこのACTIO手帳の紹介を通じて、ビジネスパーソンにも不可欠な手帳の工夫について見てみましょう。

「『自立した個人』への成長」というコンセプトに合致した内容

ACTIO手帳のコンセプトは「『自立した個人』への成長」で、そのために各種ページが用意されています。

中を開いて最初にあるのが、時間割と生活習慣のページです。前者は学校の時間割が3期分書けるようになっています。対向面は、習慣を記入するページです。24時間の時計型の記入欄には、いつ何をやったか、またどう過ごすべきかが記入できます。併せて「最適な睡眠時間」や「勉強中の禁止ルール」などの記入欄があります。前者はそのまま、後者は「PC作業中の禁止ルール」などに置き換えることでビジネスパーソンにも応用できそうです。

時間割記入ページと習慣のページ。勉強中のルールや最低勉強時間、娯楽の合計時間などの記入欄があり、それぞれを管理すべきであるという考え方がわかる

横罫のメモページ。ページ数が上部に記されている

方眼のページ。左端部分はやや横長になっており、各種記録のための一覧表としても使えるようになっている

また、自分の強みを書き込むページや年間計画のページもあります。

これらのページ群がトータルで提供しているのは、自らの強みを知り、それをより磨き、計画を立てて実行するという考え方です。これはビジネスパーソンにもそのまま当てはまるやり方でしょう。

強みと弱み、年間目標とそのためにやるべきことの記入ページ。あらかじめ記入して1年をスタートさせる

予定記入欄にも工夫がたくさん盛り込まれています。まず月間予定ページは見開き2カ月のブロック型です。上部には「生活面」「部活動」「学習面」の3つの記入欄があり、それぞれの目標が記入できます。

月間ページは見開き2カ月。生活、部活、学習のそれぞれについて目標記入欄がある。1日の欄は4分割されており、さながらビジネス手帳

また、見開き左下には「反転インデックス」があります。これを使うと各月のページに一発でアクセスできます。またすべてのページの上部には、ミシン目の切り込みがあります。この2つを併用することで、月ページと週ページを楽に交互に見られるというわけです。この仕組みは特許出願中だそうです。

左下に用意された反転インデックス。ページ上部のミシン目カットと併せて月、週の見直しが素速くできる

見開き1週間のページはバーチカル式です。時間軸は15分おき。また時間軸には幅があり、マーカーでぬりわけることで、勉強や遊びの実時間を把握しやすくなっています。

見開き1週間のページ。バーチカル式。毎日の評価(☆マーク5つを塗りつぶす)欄が一番下にある

学生用の特徴がもっとも出ているのが、時間割に対応していることです。授業時間に対応して1から7までの数字があり、科目を書けるようになっているのです。

授業の時間帯は科目が記入できる。また時間軸は横方法に幅があり、塗りつぶして学習の時間帯の確保がしやすい

毎週の目標勉強時間とその結果などの記入欄が用意されており、1週間をどのように過ごしたのか、客観的に把握しやすくなっている

巻末には具体的な記入例や使い方の解説がとても丁寧になされています。

詳細な使い方説明のページ。自分を知り、年間計画を立て、それを月、週それぞれの時間に落とし込む考え方が説明されている

目標設定と生活習慣のページの解説。なぜ記入すべきかがきちんと解説してある

最後のページ。その年の成果と、振り返りを記入できる

欄外の言葉。手帳を通じて人生を作っていこうという制作者のメッセージが感じられる

学生だけに使わせておくにはもったいない手帳

このACTIO手帳、学生向けの製品であり、その目的も上述のことではありますが、ビジネスパーソンにも十分応用可能な製品といえます。というより、この手帳自体が、ビジネスパーソン向け手帳の考え方を学生向けにアレンジしたものととらえることができます。だから当然といえば当然なのですが、わかりやすさや丁寧さにおいて、ビジネスパーソン向け手帳に同じようなものがないのもまた事実なのです。

また、反転インデックスとミシン目の2つのインデックス(プラス2本のしおり)を持つ手帳も市販のものにはないはずです。学生だけに使わせておくにはもったいない。筆者はそう感じました。

ISOT出展時に取材したところによれば、このACTIO手帳は今のところ直販のみですが、ネット通販を計画中だそうです。

また、ビジネスパーソン向け手帳も計画中です。これもISOTのブースに参考出品されていましたが、こちらも既存の手帳にはない工夫がいろいろありました。

ISOTでの展示の様子。見開き1週間の欄の利用例。これは勉強時間を毎日グラフとして記入するやり方の例

製造販売会社の教育デザインツール研究所は設立3年目の小さな会社で、細部にこだわっているそうです。ちなみに2017年版は500回もの見直しの末にようやくできたものだとのこと。今後、学生向け、またビジネスパーソン向けにどんな手帳を販売してくれるのかとても楽しみです。

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

twitter :@tategamit
facebook :「手帳オフ」
Blog :「舘神Blog」