【コラム】

表千家茶道講師の水上繭子が教える「ビジネス茶道」の極意

1 ビジネス茶道の極意

水上繭子
 
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以前マイナビニュースで、ビジネスパーソンにとって茶道が、脳の疲れを癒し、教養や知性を磨き、信頼できる人間関係を築いていく、人間力を鍛える道場として役立つというお話をしました。本連載でビジネス茶道をより深く、紹介していきたいと考えています。

さて、ビジネス茶道には、茶道がビジネスパーソンにもたらす効果のほかに、茶道や工芸の世界と経済活動と市井の人々の暮らしを繋ぎ、イノベーションを生み出す役割もあります。

私たちは組織の中で働いていると、業界のことや関係先のことへの専門性が深まる一方で、視野や興味が狭くなってしまいがちです。茶道に触れることで、禅宗の教え、宗教観、伝統工芸品から見える日本各地の自然や歴史、和歌の彩りある美しい日本語、歳時記や季節の移り変わりを味わう感性など、日常の暮らしに発見や気づきが生まれます。

量販店の便利で安価な日用品や道具が広がり、手入れをしながら長く使う陶器や漆器、竹細工などは影をひそめるようになってきました。後継者がなく絶えてしまう職人の技、消費者が敬遠することで作り手が減っている漆器や鋳物、着る機会や場所がなくなってしまった着物、地方と都会の暮らしの違い。こうした問題を、茶道という窓から多くのビジネスパーソンに覗いてほしいのです。

茶道の祖である千利休が、権力を持つ武士でもなく、職人でもなく、堺の商人であったことは、茶の湯のブランディングを成立させたことに大きく影響しています。文化も経済も、作り手と受け取り手がつながることで発展していきます。ビジネスパーソンや経営者、指導者が、茶道や工芸の世界とつながることで、作り手の存在価値を大きく変えるはずです。ビジネス茶道には、そうした役割も併せ持っています。

中川政七商店13代の中川政七氏の著書『日本の工芸を元気にする! 』には、こう書かれています。

「日本の工芸に携わるメーカーと産地が補助金などに依存せず、経済的に自立してプライドを持ってものづくりに取り組める状況を取り戻すことが、そのまま中川政七商店の生きる道にも通じる」

私も似たような感覚なのです。工芸に携わるメーカーや職人や産地が補助金などに依存せずに、経済的に自立してプライドを持ってものづくりに取り組める状況、それは、そのまま茶道の発展にも通じ、さらには、世界に注目されるべき、日本の暮らしの美意識、モノづくり、経済活動を生み出すと感じています。

また安岡正篤氏はこう言っています。

「人間は何事によらず新鮮でなければならない。新鮮であるためには、真理を学んで、真理に従って生活しなければならない。人間としての深い道を学ぶ。正しい歴史伝統に従った深い哲理、真理を学び、それに根差さなければ常に魅力ある、生命のみずみずしさを維持してゆくことはできない」

既存知と別の既存知が新しく組み合わさることで、イノベーション(技術革新)が起こると言われています。日本の歴史文化を包括している茶道と、様々な分野のビジネス界が、広い裾野で交流することは、両者に無限の可能性が広がるのではないでしょうか。

■ 一華開五葉(いっけごようをひらく)

これは、禅宗の開祖である菩提達磨の著作とされる「少室六門集」にある「一華開五葉 結果自然成」に拠り、ひとつの花が5つの葉を開き、その実りは自ずと成就するという意味です。心の中に悟りの花が一輪咲けば、仏の五つの知恵が働きだすことを教える禅語です。

ひとたび、茶道というひとつの花が一輪咲くと、そこからはたくさんの世界が広がります。茶道という一輪の花を心に抱く人を日本中、世界中に増やすことで、異国文化を融合させて築いてきた日本の伝統文化や匠の技術全体が、みずみずしく生き続けると思うのです。

プロフィール : 水上 繭子(みずかみ まゆこ)


大学時代に表千家茶道の師と出会い、入門。京都家元での短期講習会に参加し、茶道の奥深さに惹かれ、政府系金融機関OECF(海外経済協力基金)勤務や結婚、子育ての中で、茶の湯の稽古を継続する。その後、茶道の豊かさ、楽しさ、奥深さを伝えるべく、茶道教室を主宰。近年はコミュニケーション力や新しい発想力を養う人間力道場としての茶道を提案している。
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インデックス

連載目次
第2回 禅語『茶禅一味』
第1回 ビジネス茶道の極意

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