日本の国民皆保険が脅かされている。こう聞いて「それが何か、大変なことなの?」と、ポカンとしてしまう人は、多いかもしれない。なぜなら、日本では、保険証があれば、誰もが、どの医療機関でも診察を受けられるのが当たり前だから。「でも、その『当たり前』が脅かされているんです」と言うのは、主に生命保険の分野で活躍されてきたファイナンシャルプランナー、小野瑛子さんだ。小野さんに詳しい内容を伺った。

日本の国民皆保険制度は、WHOが絶賛する制度

――私たちにとって健康保険制度は、空気のように当たり前の存在ですが。

日本の国民皆保険制度は、世界保健機関(WHO)から総合点で世界一と評価を受けたこともある、世界に誇れる制度です。先進国の中でも、今なお民間保険中心の国や、無保険の国民が多くいる国もあるんですよ。こうお話ししたところで、比較の対象がないと、具体的に日本の医療制度の良さは、実感しづらいかもしれませんね。アメリカを例にとりましょうか。アメリカの自己破産理由のトップは、「医療費」です。

――「医療費」が破産理由?

そうです。アメリカは自由診療が基本なので、そこには市場原理が働き、医療費や薬の値段が高騰しています。病気を一度しただけで、多額の借金を抱えたり、それが原因で自己破産してしまうケースも多いのです。

アメリカ発国民皆保険(オバマケア法)の問題点

――どうして、そんなことに?

日本のように、国が医療制度の主導権を握っていないからです。4年あまり前に、アメリカでも国民皆保険制度「オバマケア」が導入されましたが、こちらの法案は民間の医療保険会社が中心となって書いた法律です。いわばアメリカの皆保険制度の主導権は、利益最優先の民間の保険会社が握っています。日本のように厚生労働省、医師会、有識者によって守られてきた国民皆保険制度とは、根本的に違うんです。

日本で国民皆保険制度は厚生労働省、医師会、有識者によって守られてきた

――オバマケアの最大の問題点は、何でしょう?

医療制度を民間の保険会社の支配下に置いてしまっている点です。この図式だと、患者の治療も薬の処方も、まずは保険会社にお伺いを立てなければなりません。現場の医師は、こういった事務作業に膨大な時間がとられるようになりました。また、保険会社にお伺いを立てなければ治療できないいう現実は、医師のプロ意識やモチベーションを著しく低下させています。一方でアメリカ国民のほとんどは、この医療保険のシステムを理解していませんから、医師は保険会社と患者(医療現場)の間で板挟みになっています。アメリカの自殺率トップの職業は、医師なんです。

小野さんが心配する日本の医療制度崩壊

私が最も危惧していることは、アメリカの現状が対岸の火事ではないという点です。TPPによって、日本の国民皆保険制度もオバマケアの二の舞になる危険があるのです。

――TPPによって、日本の国民皆保険制度がオバマケアの二の舞になるとは?

あくまで私が描いている「医療制度崩壊のシナリオ」ですが……。まず、TPPによって外国の医療保険が入っています。企業というのは、最初は甘い汁を吸わせてお客を取り込みますから、きっと、安価な保険料で医療費を実費補填してくれる保険を提供するでしょう。実費を補填してくれるとなったら、今、健康保険料を払っている人達は、どう思うでしょうか?

――毎月、国民健康保険料を払っている意味があるのかな? と、思うかもしれません。

そうです。国民健康保険は、税金と違って、支払い義務がありません。だから、民間の保険会社の保険料の方が安ければ、そちらを選び、保険料を支払わない人が増えていく。そういう人達が増えていけば、日本の国民皆保険制度は立ち行かなくなってしまいます。

国民ひとり、ひとりが「医療皆保険を守る」という意識を!

――それは恐ろしいことですね。

大切なことは、今の日本の国民皆保険制度を、空気のように当たり前にあるものと思わないことです。日本の医療制度の問題点に文句を言う人は多いですが、文句を言えるのは、その制度があってこそ。制度というのは、一度なくなると、取り戻すのは大変ですから、今、日本が置かれている現状を知り、「日本の国民皆保険の制度をみんなで守っていこう!」という方向に、国民ひとり、ひとりの意識が向いて欲しいですね。

そのためには、今、アメリカで何が起きているのか? それが日本にどう関係があるのか? という最低限の知識を持っておくことが必要です。それを学ぶのに、とてもわかりやすい本として、アメリカのオバマケアの問題点を指摘した「沈みゆく大国アメリカ(堤未果氏/集英社新書)」「沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ! 日本の医療〉 (堤未果氏/集英社新書)」を私はおすすめしています。一読の価値のある良書です。是非、手にとってみて下さい。

筆者プロフィール: 楢戸 ひかる(ならと ひかる)

1969年生まれ 丸紅勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。メルマガ「主婦が始める長期投資」(メルマガ申し込みは、「主婦er」より)を書き始めて、視野の狭さを痛感。新聞を真面目に読もうと決意し、疑問点は取材に行く所存。