2007年の日経MJヒット商品番付が発表され、東の大関に「顔認識技術」が選ばれました。たしかに、各メーカーのデジカメに顔認識機能が搭載され、デジタル一眼レフでも「LUMIX DMC-L10」などに搭載され始めています。さらに驚いたことには、プリンターにも顔認識が搭載されました。こちらは「顔を明るく」などという生やさしいレベルでなく、「美白」や「小顔」でプリントするという、感動的な手法まで現実にしています。今回はこの顔認識を搭載したプリンターを試してみました。

気軽に使えるコンパクトプリンター

顔認識機能を含め、プリンターの自動補正機能はずいぶん前から存在していました。しかし2007年下半期プリンターは強力に進化したようです。キヤノンの新しいプリンターは、従来の色かぶり補正、階調補正、彩度補正、顔検出などを統合し、画像ごとに適正な補正を行う「自動写真補正」機能を搭載しました。また、セイコーエプソンの最新モデルは、自動補正に加え、顔の輪郭を検出してあごの周辺をスリムに見せる「小顔補正」と肌の白さを調整する「美白補正」を行う「ナチュラルフェイス機能」を搭載しました。このことからもわかるように、写真の被写体として重要な「顔」をいかにキレイに再現するかを、カメラだけでなく、プリンターも追求し始めたのです。

私が気になったのは、なんといってもセイコーエプソンの「ナチュラルフェイス機能」です。逆光補正や色かぶり補正などは、言ったらなんですが、よく耳にした機能です。ですが、"小顔"や"美白"という、女性の本音部分をくすぐる言葉を持ってきたのがスゴイと思います。プリンターなんてどれでもいいと思っている女性たちも、つい足を止めてしまうのではないでしょうか。

また、"小顔"や"美白"と聞くと、かなり高度にレタッチしている印象を受けます。実際、広告やグラビアなどの写真でも、撮影時にライティングなどをしっかりするのはもちろんですが、それに加えてレタッチ作業も行なわれています(たぶん)。女性の肌や顔のレタッチはとてもデリケートで時間のかかる作業なのですが、それがパソコンや画像ソフトを持っていない人でもできてしまうわけです。ダイレクトプリント機能が増えているのもパソコンを使わずプリントする人が増えているためと聞いたことがありますが、そういった人でもレタッチができるのですから、これはすごいと思います。

今回はプリンターだけでどこまでキレイにプリントできるかを試すために、セイコーエプソンのコンパクトプリンター「E-520」を使ってみました。E-520は持ち運びしやすく、操作も簡単。これでどこまでできるのでしょうか。また、今回は試していませんが、赤外線通信やBluetoothにも対応し、携帯電話の画像をワイヤレスでプリントできます。

セイコーエプソン「カラリオ ミー E-520」。顔認識機能を利用した小顔や美白などの補正をする「ナチュラルフェイス機能」や、赤外線通信機能を搭載

キヤノン「PIXUS mini360」。顔認識機能を搭載し、赤外線通信機能やBluetoothにも対応している(対応ユニットが必要)。2L判まで対応

富士フィルム「FinePix Printer QS-70」。赤外線通信機能と顔認識機能を搭載。プリントサイズはL判のみ

お店プリントに負けない簡単さ!

まずは実際にE-520でプリントをしてみました。スロットにメディアを挿し込んで、プリントボタンを押すだけで印刷はスタート! とても簡単です。作業手順もモニターに出てくるので、DPEショップの機械でプリントするのと変わりません。マニュアルを読まなくてもまず失敗することはないと思います。

はじめに逆光で顔が黒く潰れてしまった写真(写真1)を選んで、何も設定しないでプリントしてみましたが、それでも自動で補正されて、明るくなってプリントされました。写真用紙は、セイコーエプソンの「クリスピア」を使用し、それをスキャンしたものが写真2です。やはり顔を認識しているようで、暗くつぶれた顔に合わせて明るくした印象を受けました。

逆光写真を、レタッチして顔をキレイに明るくしようとすると、かなりの手間と時間がかかります。しかも、慣れないうちは不自然な仕上がりになることもあるでしょう。そう考えると、何もせずにきちんと表情がわかるまで明るくしているのですから、たいしたものです。

それと、最初は印刷物にスジが入っていたのでヘッドクリーニングを行なったのですが、この時も親切なガイドが出て感心しました。メニュー画面から「困ったときは」を選ぶと、「印刷結果がおかしい」→「印刷がかすれる/スジが入る」→「ヘッドクリーニングの実行を推奨します」といったインフォメーションが出てきます。初心者にはありがたいはずです。

プリンターヘッドがキレイになったところで、今回の目的である「ナチュラルフェイス機能」を試しました。ガイドに従って設定していくと、「補正値を設定」してプリントするか、実際に補正値を変えたサムネイル印刷の「フェイスシート」から選んでプリントするかを選べます。ひと目で様々な効果の違いがわかるので「フェイスシート」はとてもいいと思いました。

E-520には持ち運びしやすいように取っ手が付いている

メモリーカードスロットは、コンパクトフラッシュ、SDメモリーカード、メモリースティックPRO、xD-Pictureカードなどに対応

【写真1】元画像。逆光で撮影したため、顔が黒く潰れてしまっている

【写真2】自動補正で顔が明るくプリントされた(印刷物をスキャン)

【ナチュラルフェイス機能 手順(1)】メニュー画面から「便利な機能」を選ぶ。下にガイドが表示されるのでわかりやすい

【ナチュラルフェイス機能 手順(2)】写真を選ぶと顔が検出される(1~3)。検出されないときは写真を選び直す(4)

【ナチュラルフェイス機能 手順(3)】 ナチュラルフェイス補正値設定は自分で強弱を選択。フェイスシート印刷は効果をサムネイル印刷で確認できる

【ナチュラルフェイス機能 手順(4)】 美白補正の設定は「なし」「弱」「強」から選ぶ。強はかなり効く

【ナチュラルフェイス機能 手順(5)】補正値を設定した後、モニターで効果の確認ができる

【ナチュラルフェイス機能】効果の違いをサムネイル印刷するフェイスシート

【補正モード】ナチュラルフェイス機能の他にも、カメラのシーンモードのように、被写体ごとに補正するモードを搭載している

【編集】赤目補正や鮮やかさ(彩度)の調整など、これもカメラの撮影機能のよう

パソコンから印刷するときの設定画面。付属ソフト「EPSON Easy Photo Print」を使用する。元画像と補整イメージを並べてモニター上に表示できる

「EPSON Easy Photo Print」を使えば、「モノクロ」「くっきりあざやか」「明るさ」「美肌モード」など細かな設定が可能

気になるプリント効果は……

日陰で撮影したので青く色がかぶってしまった写真をサンプルに使いました(写真3)。通常の自動補正でプリントしたものと、「ナチュラルフェイス機能」の「小顔」と「美白」をプリントし、比較しました。「ナチュラルフェイス機能」の補正値は「強」と「弱」が選べるので、今回はどちらも強でプリントしています。

自動補正(写真4)は、色かぶりが補正され画面のヌケもよくなり、肌も健康的な色味になりました。「ナチュラルフェイス機能」の小顔補正が強の画像(写真5)は、確かにあごの辺りが引き締まったように縮小されています。しかも、首と体は自然に繋がっています。はじめは"体と首がバラバラな合成写真のようになるのでは?"と思いましたが、自動でここまで自然な仕上がりになるのはちょっと驚きです。この補正を、フォトショップで行うと、新しいレイヤーを作るなどかなりの手間が必要なはずです。しかも、失敗する可能性が高いと思います。

対して「美白補正」の「強」はちょっとやりすぎかな、と思いました。女性はメークではチークやシェードカラー(陰影をつける化粧品)を使用して立体感を作ります。ファンデーションは、自分の肌に合う色を選んで素肌感を重視しています。美白補正を「強」にすると(写真6)、確かに顔が明るくなりますが、明るくなったことで顔の陰影が薄れて立体感がなくなっていました。厚化粧に見えなくもありません。「人物」モード(写真7)では肌のきめが細かく、吹き出物がカバーされていますが、肌の色味は変わっていません。肌の再現を重視するなら、「人物」モードにするか、美白補正を「弱」に止めたほうが好印象でした。

それにしても、パソコンを使わず元画像をここまでキレイにプリントできるのには正直驚きました。写真のプリントというのは、多くの場合、思い出を共有するためだったり、年賀状やグリーティングカードで人に見せるためだと思います。写真は本当の姿を写し出しますが、「ナチュラルフェイス機能」は"人にはよりキレイな姿で見られたい"と思う女性心に応えてくれるもので、かなり有効な機能だとも思いました。私は免許を書き換えるとき、免許写真用にダイエットをして、前日は早めに寝て肌の調子を整えるようにしています。この「ナチュラルフェイス機能」が免許写真でも使えたらいいのに……と思ってしまいました。

【写真3】オリジナル画像。日陰で撮影したため青かぶりをしている

【写真4】自動補正。適正な色補正が行われ、肌も正しい色になった

【写真5】 小顔補正:強、美白:オフ。あごのラインが引き締まるような補正。目の大きさはあまり変わっていない

【写真6】 美白:強、小顔補正:オフ。顔は明るくなったが、陰影が弱まって平らな印象

【写真7】 人物美肌補正。全体に滑らかな肌になり、好印象

撮影協力:新井るみ子 撮影・レポート:加藤真貴子(WINDY Co.)