Appleが11月3日に発売した「iPhone X」は、米国では999ドルから。ティーンエイジャーや大学生には高嶺の花になりそうな価格であり、まして小学生が関心を持つようなスマートフォンではない。ところが、USA Todayが8~9歳の女の子が集まったピザパーティで子供たちに話しを聞いたところ、米国の小学生はiPhone Xのことをよく知っていて、しかも強い関心を持っている。

M11月3日に発売開始になった「iPhone X」

USA Todayの記者が話を聞いた子供たちの中でスマートフォンを持っているのは1人だけ。ほとんどが両親が使っているiPhoneを触らせてもらっているだけである。だから、iPhone Xについても「大きいんだよね (おそらく画面こと)」「色がぐるぐるしているのが小さい子供には人気」等々、iPhone Xのことを技術的にしっかりと理解しているわけではなさそう。でも、誤解しているわけでもない。大ざっぱだけど、iPhone Xの魅力をちゃんと把握している。記者が「iPhone 8とiPhone Xのどっちが欲しい?」と聞いたところ、「絶対にX (10)、だって数字が大きいもん」「新しいからXの方がいい、新しい方が新機能がついていて古いテクノロジより良いんだよ」と即答。「iPhone 8だって1カ月前に発売されたばかりだよ」と言うと、「いやいや、それでも新しい方がいい」と譲らない。

子供達がなぜiPhone Xのことをよく知っているかというと、「いつもテレビで (広告を)見ているから」、または学校に行く途中の高速道路脇にあるビルボードで毎日見ているから。記者が「大きくなったらiPhoneを使って過ごしたい?」と聞くと、一斉に「もちろん!」と大きな返事が返ってきた。

iPhone X発売に際して、Marques Brownlee (MKBHD)HighsnobietyBooredatwork.comUrAvgConsumerといったユーチューバーや若いレビュワー、VogueTeen Vogue、The Ellen DeGeneres Showといった女性向けのメディアに広くiPhone Xのレビュー機が提供されたのが話題になった。もちろんWIREDやEngadget、Recode、The Vergeといったテクノロジー分野の媒体にも提供されたが、かつてのようにテクノロジー分野にフォーカスしたレビュー機提供にはなっていない。

考えてみたら、テクノロジー分野の媒体だけにレビューが載っていたのは奇妙なことである。テクノロジー好きの多くがスマートフォンに興味を持っているし、テクノロジー好きの人たちは新しい技術や機能を真っ先に試すアーリーアダプターになってくれる。でも、今やスマートフォンは車やテレビなどと同じぐらい人々の生活に浸透したコンシューマ製品になっている。テクノロジー好きに限らず、多くの人たちがスマートフォンに興味を持って毎日使っている。

テクノロジー分野の媒体は専門知識を必要とするようなことを分かりやすく解説してくれる。だが、それが一般的な消費者へのマーケティングに効果的かというと、それだけでは偏った知識や誤解を生む可能性もある。Matt Alexander氏は、iPhone 4のアンテナゲート問題やApple Watch Series 3のデータ接続問題からAppleは学んだと指摘している。それらは使い方を気をつけたり、OSアップデートで修正できるような問題だったが、製品発売直後に報じられたことで、製品の立ち上げに少なからず影響があった。そうした問題を隠すわけではないが、発売直後の製品の様々なことについて知ってもらう時期に、テクノロジー分野にレビューが偏ってしまうと、テクノロジー媒体からの視点のレビューに必要以上の注目が集まり、Appleが求める製品のポイントがちゃんと評価されなくなる。

もちろんテクノロジー分野に偏るのがダメというわけではなく、女性向けの媒体に偏ってしまったら女性の意見に必要以上の反応が起こってしまうだろう。テクノロジー好きも、未来のユーザー候補である子供たちも、iPhoneのターゲットになる人たちをあまねくカバーできるように、広い分野で様々な視点から製品をレビューしてもらうことで製品の良いところも悪いところもきちんと伝わる。

Mバス停、ビルや高速道路のビルボード、YouTube広告、テレビCMなど、「iPhone X」の広告は様々

Slice Analyticsの調査によると、2014年に米国でApple製品の購入額の平均が最も高かったのは65歳以上の男性 (976ドル)だった。男性は、35~44歳 (941ドル)、45~54歳 (956ドル)、55~64歳 (905ドル)と35歳以上の全ての年齢層が900ドルを超えており、また全ての年齢層で男性が女性を約200ドル~300ドル上回っていた。最も少なかったのは25~34歳の女性 (562ドル)。しかし、米コンシューマ市場において購入総額の70~85%を占めるのは女性である。

成熟した米国市場においてAppleがユーザーを増やすなら、ミレニアルズと女性に働きかけなければならない。WIREDやThe Vergeといったテクノロジー媒体の主な読者層である30代以上の男性は、Appleから働きかけなくても、多くの人たちが進んでApple製品について自ら調べてくれる。都市部の高速道路を走っていると、よくApple製品のビルボードを見かける。iPhone Xを広告する手段として、古典的なビルボードはミスマッチな感じがするが、それは中年男性の見方である。ビルボードは子供達や女性など、自動車の後部座席や助手席で退屈な時間を過ごしている人たちとの接点であり、そんな全方位的なマーケティング戦略が、2015年のiPhone減速からAppleが回復を果たせた原動力の1つである。