米Googleが10月4日に新しいスマートフォンの発表を行う。どのような製品が登場するかというと、ヒントとして、同社は公式YouTubeで「Funny you should ask...」というティザー動画を公開している。Google検索でユーザーがスマートフォンの問題を調べるという内容で、以下のような質問が検索ボックスに打ち込まれる。

  • 私の電話のバッテリーは何が問題なの?
  • どうして私の電話のストレージはいつも不足しているの?
  • なぜ私の携帯で撮る写真はピントがボケるの?
  • どうして私の電話は私のことを理解してくれないの?
  • なぜ私の携帯は自動アップデートされないの?
  • なぜ私の携帯はこんなに遅いの?
  • どうして私の携帯はこんなに壊れやすいの?

これらへの答えがGoogleの新しい製品だとしたら、バッテリーが長持ちして、クラウドストレージとの組み合わせでローカルストレージが不足せず、デジタルアシスタントがユーザーのことを深く理解し、管理しやすく、そして頑丈なスマートフォンが登場することになりそうだ。

しかし、これら全てを形にしたスマートフォンが登場したとしても、Googleはスマートフォン・ハードウエア市場でAppleやSamsungと競争できるような存在にはなれない。それらよりも先にクリアしなければならない課題を同社は抱えている。

「ホリデーシーズンに買いたいのに、なぜ買えないの ?」だ。

昨年秋にGoogleが投入した初の”Made by Google”スマートフォン、5.0インチの「Pixel」と5.5インチの「Pixel XL」

昨年の秋から私はiPhone 7 PlusとPixel XLを使っている。実際に使い込んでみないと分からないことが多いから、iPhoneとAndroid端末を交代で日常使いにしているのだが、どちらを使っている時も満足できる1年だった。完成度という点ではiPhoneに一日の長があるものの、Pixelも使い勝手が良く、エフェクトにGoogleらしさが発揮される写真機能、Googleのサービスとの連動、Daydream Viewなど、iPhoneにはない魅力も備える。

それなら米国にはPixelユーザーがたくさんいるかというと、Pixelシリーズを使っている人を見かけることは少ない。原因は明らかだ。人々がPixelに興味を持った時期に十分な供給を行えなかったからだ。

昨年GoogleはPixelシリーズを発表した直後に予約販売をスタートし、出荷開始予定時期の分をアッという間に売り切った。それからホリデーシーズンが終わるまで、すぐには入手できない時期が続いた ……と、書くと、Pixelシリーズが爆発的に売れたような印象になる。だが、PlayStoreの統計などでPixelシリーズのシェアは伸びていない。今年の春の時点でようやく100万台に到達したかどうかというペースである。

ちなみにAppleは昨年の10月~12月期だけで7829万台のiPhoneを販売した。iPhone 7 Plusのジェットブラックを中心にiPhone 7シリーズも発売直後には品薄状態になった。それでも欲しい人がガンバって探せば、なんとかゲットできるぐらいの供給ペースをAppleは維持した。むしろ適度な品薄によって、高い需要が保たれた。Pixelは逆のケースになった。発表時に需要を喚起できたのに十分な数を用意できなかったから、良い端末を作ったにも関わらず口コミの評判が広がらなかった。品薄もあまりひどいと、今は別の選択肢がたくさんある。ホリデーシーズンに新しい携帯を考えていた人たちが、Pixelを待つのをあきらめてiPhoneやGalaxyに流れてしまう。その結果、せっかく高まった需要がすぼんでしまった。

Googleが本気でiPhoneやGalaxyと競争しようとしているのなら、良いスマートフォンを開発するだけでは不十分。iPhoneやGalaxyの市場規模とは言わないが、それらに対して存在感を示せるだけのマスユーザーに供給できる態勢は整えなければならない。そこを軽んじ過ぎていた感がある。

マスへの供給は、ここ数年Appleを悩ませている課題でもあるが、プロダクトマーケティングに対するAppleの取り組みはGoogleとは対照的だ。昨年デザインを大きく変えずに3年目になったiPhone 7シリーズが好調に売れたのに驚いた人も少なくなかったが、製品そのもの魅力に加えて、Appleのマスに提供する力に寄るところが大きかった。2016年のiPhoneの販売台数は2億1000万台を超えた。その規模で需要を呼び起こし、そして売れるタイミングを逃さない供給を実現してこそ、ホリデーシーズンだけで7800万台超という結果を生み出せる。

さらに今年、Appleは新たな手を打ってきた。年間2億1000万台超も製造する態勢を整えるのも大変だが、その製造規模が前提になると、安定して大量生産できないテクノロジーを採用できなくなる。たとえば、有機ELディスプレイを採用したくても、iPhoneの販売台数規模を満たせるだけの数を確保できなければ採用できない。だから、これからの技術をいち早く採用して普及させるというような冒険ができなくなって進化が穏やかになる。そして「サプライズがない」と言われてしまう。成長のジレンマだ。

そこでAppleは今年、新しいテクノロジーを採用した「iPhone X」と、これまでのiPhoneを成熟させた「iPhone 8」シリーズを用意した。iPhone Xは、有機ELディスプレイや高精度な顔認識を実現するシステムを搭載するなど、新しい技術や機能を試したいアーリーアダプターを引き付けるモデルである。ただし、製造の困難さから供給は限られる。一方「iPhone 8」シリーズは、既存のiPhoneユーザーが期待するiPhoneの体験をさらに成熟させたものを比較的手頃な価格で提供する。多くのiPhoneユーザーを満足させられる新モデルである。そのように需要を分散させることで、iPhone Xという攻めの提案も行いながら、巨大なiPhone市場を満たす供給も実現する。

Googleは昨年PixelシリーズでiPhoneやGalaxyと競争できるようなスマートフォンを開発できる力を証明してみせた。しかしながら、それをマスに浸透させる術を疎かにしたから、せっかくのチャンスを台無しにしてしまった。おそらく4日にGoogleはスマートフォンとして完成度の高い製品を発表するだろう。でも、注目すべきはプロダクトマーケティングの改善であり、それがPixel事業の成否を左右するポイントになる。