全国紙が白人至上主義者のプロパガンダを紙面に載せないのを「表現の自由の侵害」という人はいないだろう。では、インターネットの場合はどうだろう? New York TimesやWashington Postのような主要紙がコンテンツ掲載を拒否するのは同じだとして、ホスティングサービスやコンテンツデリバリーネットワーク (CDN)などが白人至上主義者のサイトとの契約を拒否することは「適正手続き」と呼べるのか。「表現の自由」の侵害にならないのだろうか?

米バージニア州シャーロッツビルで12日、米南北戦争で奴隷制維持のために戦った南部諸州軍のRobert E. Lee将軍の像を撤去する計画に抗議する右派の集会が開かれた。その際に、白人至上主義集会に抗議した人たちとの衝突が起こり、抗議する人たちの中に右派集会の参加者が車で突入して、1人が死亡、多数の負傷者が出た。この問題に関して、ドナルド・トランプ大統領が暴力行為を非難しながらも、白人至上主義者に言及しなかったことから騒動が拡大。「白人至上主義者と抗議者を同じように扱うのか」という非難の声が上がった。

そんな大統領の過失もあったが、この問題が大騒動になっている原因は、集会の様子を伝えた報道の映像の影響だろう。映画などに出てくる白覆面のクークラックスクラン (KKK)のように、正体を見せない地下的な活動とはかけ離れて、白日の下で白人至上主義者が堂々と活動していた。そうした主義主張が大っぴらにできるようになったという空気を報道から感じ取ってショックを受けた人が少なくなかった。

ネットでは、白人至上主義者のWebサイト「The Daily Stormer」が、シャーロッツビル事件の被害者や白人至上主義に反対する人たちを非難する主張を繰り返した。Daily Stormerにとっては、いつもと変わらない主義・主張だったのだろう。だが、白人至上主義者の活動を知り、ネットで調べてみた人たちが、そうした主義・主張がネットで普通に広まっていることに再びショックを受けた。

そしてDaily Stormerの排除を求める声が高まり、それを受けて、Daily Stormerのドメインを管理していたドメイン登録事業者GoDaddyがサービス規約違反を理由に契約を解除、Daily StormerはすぐにGoogle Domainに移ったがGoogleも拒否。さらにPaypal、Reddit、Twitter、Facebookなども白人至上主義者のプロパガンダの場になるのを拒否する姿勢を明確にした。こうした措置に対して多くの人々が称賛の拍手を送っている。

コンテンツ中立を守ったCloudflareに批判殺到

一方で、Daily Stormerを排除しないサービスもあった。CDNサービスのCloudflareだ。理由は、誰もが自由に情報を発信して共有できるというネットの原則である。それは「表現の自由」の保護でもある。

誰かが作成したコンテンツがエンドユーザーに届くまでには、たくさんの組織が関わっている。パブリッシングプラットフォーム、ホスティングサービス、通信キャリア、CDN、DNSプロバイダー、ISP、ドメイン登録事業者、ICANN、ブラウザやOS/プラットフォームのメーカー、検索サービス等々。オンラインコンテンツを意図的に規制しようと考えたら、影響力や手段の違いはあれど、これらのいずれも可能である。その判断と責任はそれぞれに委ねられている。

だからこそ適正なポリシーでの運用が重要であり、Cloudflareでは継続的な議論を続けてきたという。現在のポリシーは「中立」である。「多くの人たちがそうであるように、私たちもヘイトに怒りを覚えてきたが、我々は法に従い、ネットワークとしてコンテンツ中立を貫いている」(Cloudflare CEOのCEOのMatthew Prince氏)。

CDNサービスがなくても、Daily Stormerがコンテンツを提供できなくなるわけではないから、Cloudflareの影響は小さいと思うかもしれない。だが、騒動の後、Daily Stormerに反対するハッカー達がDDoS攻撃を仕掛けており、「公正なサービス提供」に基づいてCloudflareがサービスを提供しなかったらDaily Stormerは成り立たなかった。だから、サービスを提供し続けたCloudflareに批判の声が殺到し、社員が身の危険を感じるほどだったという。

「だった」というのは、16日 (米国時間)にCloudflareがDaily Stormerとの契約を解除し、そして今後Daily Stormerと契約しない意向を明らかにしたからだ。なぜ変心したかというと、その理由を「Why We Terminated Daily Stormer」というブログ投稿を通じてPrince氏が説明している。圧力に屈したからではない。「Daily StormerのイデオロギーをCloudflareが密かにサポートしている」と、Daily Stormerの背後にあるグループが主張し始めたからだ。「公正なサービス提供」を実行していたのに、そんな事実と異なる風説を流されたら、ネットワークとして中立ではいられなくなる。

本当にDayly Stormerがそのように主張していたのなら、彼らは表現の自由の保護で守られながら、それを自分たちに都合よく利用しようとしたことで自分の首を絞めたことになる。

「オンラインから排除すべきかどうかという問題はよく"表現の自由" (Freedom of Speech)に関連付けられるが、我々は”適正手続き” (Due Process)が最も重要な原則だと考えている」(Prince氏)

あるシステムに参加するなら、そのシステムのルールを知り、従わなければならない。それが「適正手続き」である。「個人的に私は"表現の自由"の保護を強く信じているが、それはとても米国的な考え方であり、必ずしもグローバルで共有されるものではない。一方で"適正手続き"はユニバーサルに近いコンセプトである」(Prince氏)。

サービス提供者と顧客の関係を維持できないような虚偽を広められては、サービス契約を履行できない。その上で、Prince氏は「政治的な理由で顧客との契約を解除したり、コンテンツを取り下げたりしない」といったCloudflareの基本ポリシーを再確認している。

非営利団体EFFは、サードパーティからの圧力でCDNが顧客のWebサイトを検閲する初のケースとしてCloudflareの契約解除を「観察」ステータスに

本当にCloudflareへの圧力が影響しなかったのか疑わしいところだが、「白人至上主義の排除」というだけで誰もが納得する中で、「表現の自由」の原則について考え、安易にルールを曲げなかったことは評価されるべきではないいだろうか。コンテンツ中立をひたすら貫くのが正しい対処なのかは分からない。でも、例外的にDayly Stormeを排除した他のサービスも、ポリシーとの矛盾があるなら、そこに踏み込んで問題点を議論し、正していかないと、今度はDayly Stormerのような存在に「表現の自由」を盾に「適正手続き」を実行される可能性だってあるのだ。