Amazonによる買収に合意して大きな話題を呼んだWhole Foods Marketの銘柄レーティングを、Oppenheimer Holdingsが「outperform」から「perform」に引き下げた。

これは「outperform」から「perform」に戻ったと言うべきだろう。Whole Foodsは同社の株式を1株42ドルで買収することでAmazonと合意したが、その買収提案を「低すぎる評価」と見るアナリストが少なくなかった。合意発表後、Whole Foods株は約43ドルで推移し、Wal-MartやCostcoといったAmazonと競合する企業がより良い条件を提示する可能性が指摘されていたのだ。しかし、AmazonとWhole Foodsの合意発表から2週間が経ち、ライバルによる介入が起こる可能性は低いと見てOppenheimerは判断を改めた。

Amazonと競争してでも奪い取る価値がWhole Foodsにはないというわけではない。むしろ逆である。AmazonとWhole Foodsの買収合意発表後のグローサリー株の動きを見たら一目瞭然だ。Costcoは180ドル前後から160ドル前後に、Wal-Martは79ドル前後から75ドル前後に、Dollar Generalは75ドル前後から71ドル前後に株価を落とした。

6月のWal-Mart株の推移、AmazonによるWhole Foods買収が発表された後に下落したまま

6月のCostco株の推移、AmazonとWhole Foodsのグローサリーに関わる既存の企業全体に影響

上場企業だけではない。独自レシピの食材を宅配するサービス「Blue Apron」が6月29日に株式上場を果たしたが、同社は15ドル~17ドルに設定していたIPO価格を直前になって10ドルに引き下げた。それでも取引初日に株価は上がらず、緩やかな下落を続けている。食のスタイルを変える企業として、Blue Apronの上場は期待されていた。しかし、Whole FoodsがAmazonと合併したら食材宅配に事業を拡大するのが必至であり、上場直前にその影響を受けた形だ。またグローサリー以外にも目を向けると、Whole Foodsが健康・美容の販売セクションを持つことから、WalgreensやCVS、AmerisourceBergenといったドラッグストアの株価も下落した。

独自のレシピに必要な食材と調味料をパッケージして宅配する「Blue Apron」

これだけはっきりと影響が現れたら、AmazonとWhole Foodsの合併を潰せるものなら潰したいはずである。2016年に不振に陥ったとはいえ、Whole Foodsブランドは健在で、2015年までのWhole Foodsの株価を考慮したら1株42ドルは適正と呼べる価格帯に収まっている。合意を潰すために、大枚をはたくライバルが現れても不思議ではない。

ところが、現れなかった。「より高く」では勝負にならないという判断だろう。Wal-Martは誰よりも"店を知る"と言われるが、同じ実店舗型のWal-Martと合併してもWhole Foodsは大きな変化を生み出せない。成長が頭打ちになってきた従来のオーガニック・自然食事業を新たな成長フェーズへと導くパートナーとして、Whole Foodsは誰よりも”人を知る”と言われるAmazonを選択した。その判断からは、さらにプレミアを上乗せする提案があったとしても、長期的な成長を実現できないパートナーには身売りしないという意志が透けて見える。

この数カ月の間だけでも、Wal-Martがオンラインメンズアパレル・ブランド「Bonobos」を買収、Targetがオンラインマットレス・ブランド「Casper」に投資するなど、Amazonのライバルである実店舗型小売り大手がオンラインで成長している会社を取り込んでオンライン事業を強化している。だが、それらはレガシーな小売り事業がオンラインの駒を取り合っているに過ぎない。実店舗型小売り大手は、今も既存のビジネスを土俵に戦っている。しかし、AmazonとWhole Foodsが合併したら、ライバルはAmazonが思い描いているオンラインと実店舗が融合した未来の小売りと競争せざるを得なくなる。

Whole Foodsのレーティングが「outperform」から「perform」に引き下げられたのは、AmazonとWhole Foodsの合併に対する抵抗勢力が出てこないまま、グローサリー産業の戦いの場が新たな土俵に移る可能性が高まったことを意味する。

CNBCのMatthew Yglesias氏は、AmazonのWhole Foods買収の本当の狙いは「競合を恐れさせること」と指摘している。それが「本当の狙い」というのには同意しかねるが、長期的な展望から利益のほとんどを将来のサービスや技術への投資に注ぎ込んできたAmazonに対して、市場が以前ほど懐疑的ではなくなってきた。それどころか、Amazonを中心に置いて市場が反応するようになっている。たとえば、29日にNikeがAmazonで商品の直販を開始すると発表、53ドル前後を推移していたNike株が59ドルに跳ね上がった。直営店や契約店舗での販売の伸び悩みを補うAmazonでの直販であり、またAmazonを通じて商品の人気分析や消費者の動向の調査をより広範に行えるメリットも指摘している。それによってNikeのライバルのUnder Armourの株価が29日に下落した。

Amazonの目的というより、結果として、Amazonの存在に影響を受ける既存ビジネスがディスラプションの可能性を意識せざるを得なくなっている。グローサリーではまだ小さな存在でしかないAmazonがWhole Foodsを買収してもグローサリー市場が変わるのには時間がかかると見る向きが少なくない。でも、Amazonが目指す方向でライバルたちも競争し始めたら、変化のスピードは速く、破壊的イノベーションが現実味を帯びてくる。