世の中には複数のタスクを同時にこなしてプロダクティビティを上げられるスーパータスカーと呼ばれる人たちがいるそうだ。しかし、スーパータスカーはわずか2%。残りの98%の私でも工夫したらマルチタスクをこなせるようになるんじゃないかと思ったこともあった。でも、結果は推して知るべし。今では集中すること、シングルタスクを乱さないことだけに力を注いでいる。

スタンフォード大学の研究者の調査によると、マルチタスカーは注意力が散漫になり、タスクに使う記憶や情報の取捨選択で非マルチタスカーに劣る。HPがスポンサーになって行われた調査では、メールや電話を気にすることで、その人のIQが10ポイント減退してしまうことが明らかになった。それはマリファナよりも大きな影響だという。しかし、1,100人の回答者の過半数がメールにすぐに返事をすると回答していた。

ついメールやTwitterなどをチェックしてしまうという点では、スマートフォンやタブレットはPC以上にプロダクティビティを危うくする存在かもしれない。フルスクリーンで基本的に1つのアプリに集中するようになっているものの、手軽にアプリを切り替えられるので、ついついやらなくてもいいことに没頭していまう。

そこでポモドーロを採り入れたり、いろんなプロダクティビティツールやプロダクティビティハックを試してみた。ところが灯台下暗しというか、意外なほどシンプルな方法が私には最も効果があった。同じような悩みを持つ人が少なくないと思うので、ご紹介しようと思う。

必要なのはiOSやAndroidのホーム画面のフォルダ機能、それだけ。私はフォルダ機能をあまり便利だと思っていなかった。ホーム画面に並べるアプリのアイコンを整理できるけど、フォルダに入れてしまうとフォルダを開くのがひと手間でアクセスしづらくなる。だから、あまり使わないアプリをひとまとめにしておくぐらいにしか使っていなかった。そのフォルダのアクセスしづらさを逆手にとって、つい使ってしまうアプリをフォルダに入れてしまうのだ。たとえば、Twitterアプリは「1日に2回」または「仕事中厳禁」といったフォルダに入れてしまう。フォルダの名前はルールを表す。フォルダにどのようなルールを設けるかは、それぞれに合わせて工夫する。私の場合、メールを「仕事中厳禁」にするわけにはいかない。でも、頻繁にチェックしたくはないから「朝・昼・夜」1回ずつのフォルダを作って入れている。

仕事中に触れてはいけない「仕事中厳禁」フォルダ。最初は「常に使用OK」というフォルダも作っていたが、すぐに意味がないことに気づき、ホーム画面に並ぶアプリを常に使っても良いアプリにした

大事なのは通知を必要最小限に絞り込むこと。私の場合はメールの通知もオフにしている。代わりに、朝・昼・夜のメールチェックの時間が通知されるようにリマインダーを設定している。これらの結果、ネットを完全にオフにしたり、使いたいアプリを削除するというような半ば強制的なプロダクティビティハックをすることなく、仕事に集中する時間を維持できるようになった。ちなみに今でもポモドーロを使うことがあるが、集中する時間を作るというよりも、適度に休憩を入れながら集中していくためのペースメーカーのように使っている。

予想外に、仕事だけではなく、普段の生活にも好影響があった。Twitterアプリが「1日2回」だと、空いた時間に「ついTwitter」ではなく、Kindleを開いたり、Mediumで「あとで読む」にしていた記事などを読むようになる。「つい使ってしまう」アプリではなく、「つい後回しにしていまう」アプリをよく開くようになった。

スマートフォンのホーム画面のフォルダを工夫するようになったのと同時期にTo Doアプリの使い方も変わった。私はGTD (Getting Things Done)信奉者のようなところがあって、これまで「OmniFocus」や「Things」「Todoist」、自作ノートを使う「Bullet Journal」など色んな方法を試してきた。そんな私がiOS/ macOS標準の「リマインダー」に落ち着いてしまっている。理由は、Siriで簡単にリマインダーを追加できるからだ。仕事中にはiPadまたはMacで、それ以外の時はiPhoneかApple Watchで「Hey Siri, Remind me~ (~を覚えておいて)」と言ってSiriに頼む。OmniFocusなどサードパーティのアプリもSiriをサポートしているが、標準アプリの方がプラットフォーム全体に密に統合されていて便利かつ安定して使える。音声ですぐにリマインダーを設定できるのがポイントなので、他のプラットフォームならGoogle AssistantやCortanaで使いやすいTo Doアプリがベストということになる。

以前はTo Doアプリケーションを開きっぱなしにして、キーボード・ショートカットで新規To Doなどを追加していたが、iOSとMacの両方でSiriが使えるようになってからは音声アシスタントに頼りっぱなし

やるべきことに頭を占領されると余裕がなくなってしまう。それを全部書き出し、頭を空っぽにして平静になるのがGTDの基本である。そして書き出したものを後で整理し、定期的に達成具合をチェックする。GTDやTo Doで最も大事なのは、やらなければならないことをすぐに書きとめておくこと。後回しにしたら忘れてしまうかもしれないし、メモしてもメモを紛失してしまうかもしれない。中途半端な状態だと落ち着かないので、次のアクションを起こせる状態(To Doアプリやカレンダーに書き込む)までやってしまう。そのためにいちいちTo Doアプリなどを立ち上げるのがひと手間だったけど、音声デジタルアシスタントに頼めば簡単である。スマートウォッチをはめていたらなおさらだ。

To DoアプリやGTDツールとして「リマインダー」がシンプル過ぎると感じることは度々だ。それでも、To Doやリマインダーを書き込むという雑用をさっさと済ませて仕事に集中できることに軍配を上げてしまう。そこに音声デジタルアシスタントの可能性を感じている。そのうち「朝・昼・夜」というようなフォルダを作らなくても、仕事に集中している時を避けて、ひと仕事終わった頃合いを見計らって音声アシスタントが新着メールを読み上げてくれるようになってくれはしないか……、個人的にはAIアシスタントによるプロダクティビティの向上を期待せずにはいられない。