米Amazonが4月1日からハワイ州、アイダホ州、メイン州、ニューメキシコ州の顧客の買い物に、それぞれの州の売上税(Sales Tax、消費税)を加算し始める。これによってオレゴン州やニューハンプシャー州など売上税のない州を除いて全ての州でAmazonが売上税を徴収し始める。

日本ではほとんど関心を持たれなかったニュースだが、Eコマースの歴史においてエポックメーキングと呼べる出来事である。というのも、オンラインストアの歴史を築いてきたAmazonは、売上税フリーだったことで「Get Big Fast」を実現してきたからだ。

米国の消費税は州の税収である。お店で何かを買ったら料金に売上税が加算される。最も高い地域だと売上税は10%弱である。だが、オンラインストアの場合、購入者の住む州に拠点がなかったら州外での買い物と見なされて売上税がかからなかった。当然、高い買い物は「州外のオンラインストアから」になる。Amazonは早くから全米に利用者を抱えていたにも関わらず、ほとんどの州で売上税がかからなかった。早晩トラブルになるのは明らか。でも、Eコマースの成長を促すために据え置かれ、Amazonは優遇措置を享受した。さすがに2000年代後半になるとローカル小売店の我慢が限界に達し、オンラインストアにも売上税の徹底を求める声が高まり始めた。カリフォルニア州では、2012年からAmazonでの買い物にも売上税がかかるようになった。それが全ての州に広がったというのは、「ようやく」という感じもするが、オンラインストアはもう保護される存在ではなくなったということだ。

Amazonは売上税徴収に強く反発していたが、同時に売上税フリーという武器を失う将来を見通して、それまで拠点を置いていなかった州に配送センターや倉庫を置き始めた。配送センターの密なネットワークを構築し、豊富なPrime対象製品を迅速に届ける態勢を整えた。価格ではなく、サービスでローカル小売店に対抗し始めた。そして、Prime MusicやPrime Videoなどデジタルコンテンツを絡めたPrimeサービスの強化、クラウドサービス、食料品や日用品の即日配達プログラム「Amazon Fresh」、「Amazon Books」「Amazon Go」「AmazonFresh Pickup」といった実店舗の展開など、オンラインストアを超えた次世代コマースを目指し始めた。

先週Amazonはカリフォルニア州パームスプリングでロボットとAIのカンファレンスを開催、「エイリアン2」に出てくるパワーローダーのようなロボットに乗ってCEOのJeff Bezos氏が登場(出典:@JeffBezos)

先週New York Timesが公開した「Amazon’s Ambitions Unboxed: Stores for Furniture, Appliances and More」というレポートが大きな話題になった。レジのないコンビニ「Amazon Go」、スマートフォンで注文した商品をドライブスルー型の店舗で受け取る"クリック&コレクト"サービス「AmazonFresh Pickup」に続いて、Amazonは様々な実店舗を計画しているという。たとえば、冷蔵庫やキッチンオーブンのようなオンラインストアでは扱いにくい商品を紹介する店舗。実際の商品を置くのではなく、VRやARを用いて仮想的に体験してもらう。個人的には、野菜や肉など生鮮食品だけを店頭に並べる食料品スーパーに興味を引かれた。シリアルや冷凍食品、洗剤のようなパッケージ商品は全て壁の向こう側。買い物客がアプリで注文すると、スタッフが商品をまとめ、それを受け取る。

「野心的で実験的な取り組みをいくつも進めている。それらが成功する保証はないが、もし機能したら他の小売店のオペレーションに多大な影響を与えそうだ。新たな形のオートメーションの導入は、従来の小売りの職に危機をもたらす可能性もある。また、そうしたストアを顧客の近くに置くことは、オンライン注文の商品を短時間で届けるというAmazonの野心をかなえるものにもなり得る」(New York Times)

スマホで注文・購入、車で受け取りに行くとAmazonのスタッフが駐車場に購入した商品を持ってきてくれる"クリック&コレクト"サービス「AmazonFresh Pickup」

Amazonがこれからどこに向かおうとしているのか、同社の取り組みは広範かつ複雑で、その先を見通すのは難しい。だが、1つキーワードを挙げるとしたら「Direct To Consumer (DTC)」である。Bloombergが30日に「Amazon Wants Cheerios, Oreos and Other Brands to Bypass Wal-Mart」というスクープを報じている。General Mills (シリアルなど)やMondelez (ナビスコ、オレオなどブランド多数)など食品大手のエグゼクティブを集めた3日間におよぶ会合を開き、製品を消費者に直接届けるための改革を求めたそうだ。今日のパッケージ商品はスーパーの棚にフィットする形状で、そして棚で目立つようにデザインされている。だが、グローサリー配達やオンラインショッピング、注文した商品を受け取るだけのクリック&コレクトなら、カラフルなパッケージである必要はない。中身をしっかりと保護して開けやすく、リサイクルしやすかったり、または使う上での機能を備えたパッケージの方が望ましい。製品の宣伝はパッケージではなく、Webサイトやソーシャルネットワークで十分。パッケージ商品は棚に並べるもの、という常識を変えようとしている。そして、なぜ変える必要があるのかというところに、Amazonが考える小売りの未来がある。

「Direct To Consumerビジネスのためにデザインされたサプライチェーンの力によって、顧客の体験と全体の効率性を向上させられるとAmazonは強く信じている」(Bloomberg)

2012年、つまりAmazonがカリフォルニア州で売上税の徴収を開始した年、CEOのJeff Bezos氏がThe Charlie Rose Showに出演し、すでに存在するローカル小売店が実現していることには興味がないと明言した。そして「Amazonは独自性を求める。今はまだアイディアを見いだせていないが、そのアイディアに至ったら実店舗のオープンにも乗り出したい」と続けた。あれから5年、全ての州で売上税を徴収し始め、実店舗展開を本格的に始動させようとしている。いずれも実験的な取り組みばかりである。だが、ニューヨーク大学のScott Galloway教授曰く「(Amazonは)核エネルギーのような力を備えて、それを機能させる方法を見いだそうとしている」。