iPhoneの新製品が登場する秋到来。購入した製品をAppleリテールストアで受け取った時に、製品を入れてもらった紙バッグがとてもしっかりしていて持ちやすかった。「ぜいたくな紙バッグだなぁ」と思っていたら、その紙バッグの特許をAppleが申請していたことが明らかになった。

US特許申請番号20160264304「Bag」

申請特許のタイトルはずばり「Bag」、リサイクルされた材料を60%以上含む漂白セルロース板紙(SBS)を用いた紙バッグである。Appleの説明によると、白い紙またはSBS紙は、リサイクルされた原料を多く含むほどに破れやすくなり、紙バッグの場合、多くが40%以下、50%を超えることはないそうだ。Appleのバッグは再生原料を使っているが、ラフでざらついた触感のクラフト紙のバッグではなく、真っ白なSBS紙で構成されるハイエンドリテールショッピング向けの紙バッグである。バッグの袋部分と同じ紙を使ったインサートで、まちや折り曲がる部分、角などを補強することでバッグの強度を高めている。バッグの持ち手の部分にはペーパーファイバーを編んで作った紐を用いており、布のハンドルのような柔軟性と丈夫さを実現している。

Apple Storeで使われている紙バッグ

紙バッグの紙で作られたハンドルは持ちにくいものだが、Appleのバッグのハンドルはペーパーファイバーを編んだ布のような紐でとても持ちやすい

もしAppleの紙バッグに触れる機会があったら、ぜひとも特許申請のことを思い出して品質や使い勝手をチェックした上で、バッグの裏側の説明を確認して欲しい。私の手元にあるバッグはリサイクル材料が80%も使用されている。

森林を破壊せずぜいたくな紙バッグを実現

Washington Postは、Appleの紙バッグの特許を報じる記事を「なぜコピーキャットからバッグのデザインを保護する必要性をAppleが感じているのか不明だ」と結んでいる。他にも、どこか面白ニュースというニュアンスで伝える記事が少なくないが、理由は明らかだ。Appleの紙バッグ一つ一つの背景に、同社の持続可能な森林管理(SFM:Sustainable Forest Management)の取り組みがあるからだ。

Appleは今年の春に、米国で36,000エーカーの森林を購入したことを公表し、同じタイミングでプラスチック製だったAppleリテールストアのバッグを紙製に変え始めた。森林の購入は環境保護団体「The Conservation Fund」と提携して取り組むSFMプログラムの一環である。Appleが使用する紙やパルプに必要な木材を自分たちで育てて、森林資源を減らさないように計画的に伐採する。

アップルのLisa Jackson氏は「Why Apple Is Permanently Protecting Working Forests」というMedium記事の中で次のように指摘している。

過去15年間で、私たちが使用する製品向けのパルプ、紙、木材で2300万エーカーもの森林が失われました。これはメイン州とほぼ同じ大きさです。森林は今も驚くようなペースで売買され続けており、さらに4500万エーカーの開発が進んでいます

持続可能な森林管理から生産される木材を超える量の紙やパルプが必要であれば、Appleはそれらをリサイクルを活用して補わなければならない。リサイクル材料を増やせば、紙の質や強度は落ちる。一方でAppleは、Appleユーザーが同社に期待する体験も提供しなければならない。環境保護を言い訳に、ざらついて破れやすいクラフト紙のバッグに製品を包んで渡しては、体験を重んじる同社のポリシーに反する。

Appleリテールストアで渡される真っ白で美しく、頑丈で使いやすい紙バッグは、森林破壊という犠牲の上でもたらされるぜいたくではない。持続可能な森林管理という厳しい条件をクリアしたイノベーションだ。それもAppleユーザーがApple製品を選ぶ理由の1つであり、Appleが紙バッグのデザインを保護するのは当然だと思う。

バッグのデザインを共有した方が社会全体のためになるという人もいる。だが、Appleは営利企業である。MacやiPhoneがそうであったように、先を行く取り組みで競争を仕掛け、引いては社会を変えるのがAppleらしい社会貢献ではないだろうか。

ちなみに紙バッグは特許の世界では有名なアイテムである。19世紀に紙バッグは封筒のような形をしていて、扱いにくいものだった。底があると床や地面に置けて便利と考えたMargaret Knight氏が角底の紙バッグの製造方法を考案。ところが、量産機械を開発している最中に、ある男性にデザインを盗用され特許を申請されてしまった。Knight氏は自身の発明を主張して提訴。時代が時代だっただけに、相手の男性は女性が複雑な機械を考えられるはずがないというような差別的な主張を展開した。しかし、Knight氏が開発ノートを提出し、開発に協力した人たちの証言もあって勝訴。米国で初めて特許訴訟で勝った女性になった。