iOS 9が登場してから1年近いが、今でも「~に戻る」ボタンを使うたびにとても便利になったなぁ、と思う。「~に戻る」はアプリ間リンクのボタンだ。メールでURLリンクが送られてきた時に、リンクをタップするとブラウザ(Safari)でWebページが開き、そして左上に「メールに戻る」ボタンが現れる。それをタップするとブラウザから直接メールに戻れる。iOS 8の頃はブラウザからマルチタスク画面を呼び出してメールに切り替えなければならなかったし、マルチタスク導入前は一度ホーム画面に戻ってメールを起ち上げ直さなければならなかったので、とても面倒だった。

メールのURLリンクから開いたWebページ、左上にメールに直接戻れる「メールに戻る」ボタン

アプリ間のリンクは、アプリを切り替える手間を省いてくれるだけではない。ユーザーがアプリの枠に縛られることなく、より直接的にコンテンツやデータ、情報に触れられるようになる。アプリ提供者にしてみたら自分たちのアプリにユーザーをとどめられないのは不利益だが、ユーザーにしてみたらアプリの枠は制限でしかない。言うまでもなく、数多くのアプリをユーザーが効率的に活用でき、ユーザーが必要な情報やコンテンツに素早くアクセスできるようになるのが望ましい。そのためにはアプリのディープリンクが今後、重要な役割を担うことになる。

アフィリエイトネットワークでダイナミック・セグメンテーションを実現

米国でIbottaというリベート/クーポン・サービスを提供するスタートアップが、アプリ間リンクを用いた報酬プログラムを開始した。「初のapp-to-appアフィリエイト・プログラム」と呼ばれている。

Ibottaという名前を初めて聞いたという人も多いと思うが、2012年に米国でサービスを開始してから着実にユーザーを増やしており、メンバー数は1900万人を超えている。成長の理由は、スマートフォンを利用したデジタルネイティブなサービスであること。ユーザーはIbottaのモバイルアプリを使ってクーポン/リベートをアンロックし、ローカルの小売店でその商品を購入した後にスマートフォンを使って商品のバーコードをスキャン、さらに領収書を撮影して送信すると、現金リベートがアカウントに加算される。切り抜いたクーポンをレジで精算してもらったり、リベートを郵便でやり取りする手間に比べると、スマートフォンを使ってスマートに割引きや現金リベートを得られる。

クーポン/リベートの利用がすでに浸透しているローカル小売店向けのサービスでユーザーを開拓したIbottaは、将来に向けてモバイルショッピングへの報酬プログラムの拡大に乗り出した。Netflixがデジタルネイティブ向けのDVDレンタルからスタートし、ストリーミング配信に事業を拡大したのに似ている。

当初は提携する小売店やサービス事業者のモバイルサイトを結ぶサービスを試みたが、モバイル端末でのWebサイトの動作は緩慢で、またサイトごとに利用体験に差があり、中には不快と呼べるようなサイトもあった。

それでは顧客が根付かないとモバイルサイトを結ぶのをあきらめ、モバイルアプリのネットワーク構築に切り替えた。課題はシームレスな利用体験の実現である。複数のアプリを切り替えながら使ってもらうのは快適な体験とは言いがたい。そこでアプリとアプリを結ぶディープリンクソリューションを開発するButtonと提携、同社の技術をIbottaに組み込んだ。

その結果、提携する全ての小売店やサービス事業者のクーポン/リベートをIbottaでブラウズし、そのままその店/サービスのアプリを使って商品やサービスの購入を完了させて現金リベートを受けられるようになった。Ibottaが複数のショップをまとめたショッピングモールのようで、使っていて快適であり、また効率的に買い物を節約できる。

Ibotta内で、Jet.comのリベートをアンロックし、Jet.comアプリを使って買い物を完了、15%のキャッシュバックを受けるIbottaのApp-to-appの流れ

ButtonのソリューションはUberやOpenTable、Ticketmasterなど、著名なサービスにも採用されており、たとえばOpenTableアプリでレストランを予約し、そのままUberアプリを使ってレストランまでのUberを呼ぶということが可能になっている。普通に考えたら、これらはあるべき利用体験なのだが、私たちスマートフォンユーザーは面倒なステップを踏みながらスマートフォンを使っているのが現状である。

IbottaはButtonが提供するアプリのディープリンクに報酬プログラムを統合した初めてのサービスであり、そして「ダイナミック・セグメンテーション」を実現している。たとえば、提携する小売店が新規ユーザーを増やしたければ、その店で買い物したことがないユーザーにより大きなリベートを提示できる。逆にリピーターへのリベートを大きくして定着を図ることも可能。ダイナミックに分類される利用者に対して、マーケティング戦略に応じた報酬やコミッションをリアルタイムに調整して提示できる。

アプリ間リンクによって小売店やサービス事業者はIbotta内で競争しなければならないというデメリットに直面するものの、新たなアフィリエイトネットワークのマーケティング効果と利用者の購入意欲を高める快適な利用体験の組み合わせは大きな成果を生み出す。Ibottaによると、ベータテストを通じてapp-to-appアフィリエイトのコンバージョン率は21%だった。