日本ではKindle Unlimitedの開始が話題になっているが、米国ではAmazonとWells Fargoの提携が論争を呼んでいる。学生向けのAmazon Primeサービス「Amazon Prime Student」の加入者に、Wells Fargoの学生ローンの金利ディスカウントを提供するプログラムを発表した。Primeに加入すると学資融資もお得になるのだ。

Prime Studentユーザーに対する利率割引きは0.5%。Wells Fargoの4年制大学向け固定金利ローンは5.94~10.93%、大学院だと6.60~11.30%。仮に10年間で10,000ドルを借りたとして、0.5%は約300ドルのディスカウントに相当する。年会費49ドルのPrime Studentに関心があるなら利用する価値は十分にある。

米国ではキャンパス内にAmazonロッカーを設置している大学も多い

Prime Studentは、通常のPrime(99ドル/年)の半分の年会費で同じサービスを受けられる。Primeを利用した方が学生生活が便利になり、また節約できると契約する学生は多く、学生ローンの金利ディスカウントというオプションは歓迎されて然るべきである。ところが、Amazonの学生ローン参入に失望しているAmazonユーザーが少なくない。

金融ソリューションを強化するAmazon

Wells Fargoのような民間金融機関の学生ローンは、政府機関による学生ローン (米国では国の学生に対する融資も学生ローンと呼ばれている)よりも金利が高い。政府機関の4年制大学向けの固定金利は3.76%である。だから、まず学生は学費の融資を受けるなら低金利で保護プログラムも充実した政府機関の学生ローンに申し込み、それでも足りなかったら民間金融機関に頼る。

ビジネスだから民間金融機関のプログラムの利率が高いのは仕方がないことではあるが、学費に苦労している学生にとっては避けられるものなら避けたい存在である。特にリーマンショック後の景気減速、学費の高騰、就職難、学歴に起因する格差の拡大といった問題から、高金利な民間金融機関が学生を食い物にしているというイメージを強く持たれるようになった。だから、民間金融機関の学生ローンと手を組むというのは必ずしも社会貢献とは見なされない。

Wells FargoのJohn Rasmussen氏は「2つの素晴らしいブランドが協力して大きなチャンスを生み出す」と述べている。提携によって、AmazonはPrime Studentを拡大でき、そしてWells FargoはPrime Studentユーザーという有望な顧客候補にリーチできる。ただ、Win-Winの関係かというと、Amazonの場合、民間金融機関の学生ローンを推していると批判された時のダメージが大きい。そんなメリットと釣り合わないデメリットがあるのに、同社がWells Fargoとの提携に乗り出したことが議論となっているのだ。

過去を振り返ると、Amazonがリスクを取る時は未来への投資である。Amazonの学生ローン参入を好意的に受け止めている人たちは、学費の融資を受けて大学に進学するのが日常化した結果だと指摘する。スタンフォード大学の初年度の学費は約45,000ドル(約455万円)、UCバークレーでも州外からだと約36,000ドル(約364万円)である。中流家庭でも奨学金や学生ローンなしで子供を大学に通わせるのは難しい。学費の上昇と共に学生ローンが巨大なビジネスと化し、学生や親たちの重荷になっているのが現状である。見方を変えると、その重荷を軽減するソリューションもまたこれからのビジネスチャンスになり得る。

そもそもAmazonがAmazonのサービス以外の特典をPrimeに付けるのは異例なことである。今年4月、Money 2020カンファレンスにおいて、Amazonがフィンテック企業の買収に関心を持っていることを同社のPatrick Gauthier氏が明らかにした。Amazonが金融ソリューションを次の成長分野と見なして積極的に関わり始めたと考えたら、企業イメージを損なうリスクを厭わずWells Fargoとの提携に乗り出したのも納得できる。