Twitterが暫定CEO体制になってしばらくたつが、新CEOに関する情報が伝わってこない。前CEOのDick Costolo氏の辞任は投資家の圧力によるものとの見方が強い。アナリストの予想よりも早い時期からユーザー数が伸び悩み始め、上場したものの黒字化の見通しが立たないことに株主の不満が蓄積していた。Facebookも上場直後に株価が急落し、Mark Zuckerberg氏の経営者としての手腕が問われた時期もあったが、同社は半年で黒字化を果たし、その後は順調に株価を上昇させている。

上場後のTwitterとFacebookの歩みは不思議な感じがする。ユーザーの視点で比べると、FacebookとTwitterにそれほど大きな差があるようには思えない。むしろ、個人的にはTwitterの方が自分の生活には欠かせない存在になっている。

この違和感は一体何なのか? ユーザーの満足と投資家の満足が一致していないのだ。そして投資家が満足することを迫られ、その実現に奔走しているのが今のTwitterである。だからといって、投資家を満足させられたとしてもTwitterの成功には結びつかないだろう。それを同社傘下のPeriscopeが指摘している。

DAU/MAUよりも視聴時間を重んじるPeriscope

Periscopeは、スマートフォンを使ってライブ動画を配信できる、いわゆる生中継サービスを提供している。3月末に一般提供を開始し、それから8月の最初までの利用データをまとめた「Periscope, by the Numbers」を8月12日に公開した。

一般サービス開始からわずか4カ月、8月2日に1000万ユーザーを突破。DAU(Daily Active Users:1日当たりのアクティブユーザー数)やMAU(Monthly Active Users:1カ月当たりのアクティブユーザー数)も着実に増えており、同じようなペースで1日当たりの視聴時間も順調に伸びている。8月の初めに40年(約35万時間)/日を超えた。

Periscopeの1日当たり視聴時間の伸び

ソーシャルサービスの成長の物差しとしてDAU/MAUの規模や成長ペースが用いられている。DAU/MAUの数字から、ここ1年ぐらいのFacebookとTwitterの決算発表では「Facebookモバイル好調」「Twitterユーザー伸び悩み」といった報道が繰り返されている。

しかし、PeriscopeのKayvon Beykpour氏とJoe Bernstein氏はレポートの中で「DAU/MAUを伸ばすことは、人々が使いたくなるような製品を私たちのチームが作るモチベーションにはならない」と明言している。DAU/MAUの増加を目標にしたら、バイラルを生み出すメカニクスやグロースハッキングのホスティングに力を注がなければならない。それは、Periscopeが考える成功の道先案内にはならないという。だから、Periscopeチーム内では、成長の物差しにPeriscopeのコアバリューをより濃く反映する「視聴時間(Time Watched)」を用いている。今は、DAU/MAUの伸びと視聴時間の伸びが一致しているが、いずれズレが生じるようになったら視聴時間で評価してほしいというわけだ。

では、Perisopeの価値とは何か。同サービスが3月末に一般公開された時に、ニューヨーク市でビルが倒壊する爆発火災が起こった。その様子をPeriscopeユーザーが生放送し、ビルが黒煙を上げる様子を多くの人たちがリアルタイムで、その場に居合わせたかのように視聴した。

4月にメリーランド州ボルチモアで暴動が起こった時もPeriscopeは話題になった。英GuardianのPaul Lewis特派員など、何人かの報道関係者がiPhoneを持って街に飛び出し、Periscopeを使って生配信したのだ。暴動発生直後、テレビ局の速報はストリートを占拠する人々の様子を遠く空から撮影した映像を流すのみだった。同じ時間帯にLewis氏は抗議する人々が暴徒化する様子を間近からライブ中継し、街の人々の生の声を伝えた。

5月からPeriscopeの成長ペースが加速しているが、ジャーナリストがPeriscopeを使ってレポートしたり、メディアの生放送にも使われ始めたりするなど、高品質なライブコンテンツがフィードに増えるようになって視聴者が積極的に参加するという良循環が生じ始めたそうだ。「Periscope, by the Number」の視聴時間にはブラウザで視聴するperiscope.tvが含まれていないが、メディアのライブ放送などの増加によってperiscope.tvの視聴時間も伸びているという。

おそらく、PeriscopeとTwitterは同じ成長哲学を共有しているだろう。Twitterの共同創業者の1人であるEvan Williams氏はFortuneのインタビューで「Facebookはウォールストリートを納得させる指標(DAU/MAU)づくりで素晴らしい仕事をした」と、皮肉たっぷりに述べている。

例えば、Facebook Connectだけを利用して、Facebook自体のサービスに深く関わっていないユーザーも日常的に使用しているユーザーの1人に数えられている。9月期の決算では、これまで以上にTwitterのDAU/MAUの数字、収益性に注目が集まると思うが、投資家を満足させられるようにDAU/MAUを改善することがTwitterの成功ではない。その点でTwitterとFacebookは目的が異なるようだ。

Twitter共同創業者の1人であり、現在暫定CEOを務めているJack Dorsey氏が、まずやるべきことは絞られる。FacebookがDAU/MAUでウォールストリートを納得させたように、またPeriscopeが「視聴時間こそPeriscopeの価値」とアピールしているように、Twitterも同社の本当の成長を私たちがすぐに理解できる方法を示すべきである。Twitterが必要としているのは同社らしい成長を遂行できるCEOであり、ウォールストリートが納得するようにTwitterを変えるCEOではない。