「624ドル」と「379ドル」、どちらかがPC、そしてもう片方がスマートフォンの平均販売価格である。

379ドルから説明すると、これはStatisticaのデスクトップPCの平均販売価格(グローバル)だ。2014年は417ドルだったが、前半が終了した時点で2015年は400ドルを下回ってしまった。624ドルは、スマートフォンといっても、iPhoneの平均販売価格(グローバル)である。

デスクトップPCの世界平均販売価格の推移 出典:Statistica

7月に入って、各社から4-6月期決算が発表され始めたが、コンシューマー向けPCに関しては厳しい結果が続いている。原因はPC需要の低迷による出荷数の減少だ。Gartnerのレポートによると、第2四半期は前年同期比9.5%減の6840万台。タブレットを含まないIDCのレポートだと、同11.8%減の6610万台である。ちなみに、1-3月期のiPhoneの販売台数は6117万台。

Appleが21日に発表する4-6月期決算について、アナリストは5100~5300万台程度のiPhoneの出荷台数を予測している。PC全体の販売台数には届かないものの、624ドルという平均販売価格を考えると驚嘆に値する数字である。

もっとも、スマートフォンすべてが高い値札をつけて売れるわけではない。iPhoneが例外なのだ。Android端末の平均販売価格は185ドルである。ハイエンド端末が伸び悩み、PCと同じように低価格競争の泥沼にはまり込んでいる。しばらく前に、スマートフォン・メーカー8社(上場企業のみのためXiaomiやMicromaxは含まれない)の営業損益を推測したCanaccord Genuityのレポートが話題になったが、2015年第1四半期の営業損益において、Appleの営業利益が全体の92%を占めた。

もう1つ付け加えると、PCがまったく売れていないわけでもない。不振のPC市場にあって、Macだけは好調な伸びを維持している。Macの平均販売価格は1200ドルを超えるが、IDCの6月期のMacの出荷台数予測は16%増である。

飽和後市場を制するApple

Appleは先週、第6世代のiPod touchを発表したが、気づいたらAppleを除いて今もデジタル音楽プレーヤーを扱っている大手メーカーはソニーぐらいである。デジタル音楽プレーヤーは斜陽市場になり、iPodはAppleのWebサイトのメニューから消えるような存在になったものの、デジタル音楽プレーヤー市場を独占するiPodは決して小さな存在ではない。

iPodは消えていく存在ではなかった、iPhone 6に匹敵する性能にアップデートされたiPod touch

AppleがiPodを今も提供し続けられるのは、同社がプラットフォームの会社であるからだ。新しいiPod touchがApple Music用の端末やゲーム端末として優れているように、iTunesやApp Storeのエコシステムの上でiPodは生き伸びている。iPhoneユーザーがiPhoneを入り口にMacも使い始めるなど、"ハロー効果"が今日のApple製品の躍進につながっている。

しかし、数年前にはMacが高すぎると言われていたし、1~2年前には低価格スマートフォン市場への参入が急務と言われ続けていた。Apple製品同士を使う相乗効果があるとはいっても、そもそもApple製品は安くはないし、Appleは安売りをしない。もっと安い端末でそろえられるプラットフォームだって選択できるのに、Appleは堅調な伸びを実現している。

注目すべきなのは、PC市場でも、デジタル音楽プレーヤー市場でも、同社が"飽和後の市場"においてライバルを寄せ付けない存在になっているという点だ。スマートフォン市場でも、そうなる兆候が見え始めている。

成長から飽和に向かう過程において、Apple製品は低価格な製品にシェアを奪われるが、より安くを目指す競争の先は質の低下と市場の衰退である。Appleのこだわりはブランド価値、デザイン、体験、そしてユーザー満足度であり、価格で競争する気は毛頭ないようだ。高くて売れない製品だらけになる可能性もあるが、実際には米国など飽和にさしかかろうとしている市場において、Android端末を数台使い続けた後にiPhoneにスイッチして定着するユーザーが増えている。

デバイスやサービスを使いこなせるようになったユーザーは、使い続けることを考え始める。最初は疑心を抱いて出費に消極的でも、もっと便利に使うために効果的に投資し始めようとする。そんなユーザーが求める価値の提供が、ユーザーとのしっかりとした関係に結実する。

価値を生み出し続けるのは容易に実践できることではないが、ユーザーを導くビジョンが確かなものであれば、市場の成長・成熟・衰退の波に左右されずに長く安定した存在でいられ続ける。今日のAppleの好調ぶりから学べることは多い。