Appleの新しい「MacBook」のポート類は、ヘッドフォンポートを除くとUSB Type-Cポートが1つだけだ。1つでUSB 3.1のデータ転送と電源、ビデオ出力(HDMI、VGA、DisplayPort接続)に対応するが、さすがに「1つは少ないんじゃないの」という声が聞こえてくる。同じくUSB Type-Cを採用したGoogleのChromebook「Pixel」は左右に1つずつUSB Type-Cポートがあって、左右どちらにも電源アダプタのケーブルを接続できるし、もう片方を外付けストレージやUSBハブなどとの接続専用に使用できるので便利だ。それに比べるとUSB Type-Cポート×1個に絞り込んだ新しいMacBookはやっちゃった感が強く、USB Type-Cポートが増えるかもしれない次世代モデルを待とうという人も多い。

でも、個人的にはパフォーマンスに不満があるならともかく、USB Type-Cポートの数を理由に次世代モデルを待とうとは思わない。USB Type-Cポートが2個以上に増える可能性は低いと考えているからだ。

Appleが3月に開催したイベントで、Phil Schiller氏(ワールドワイドマーケティング担当SVP)が新MacBookを発表した際に「これがノートブックの未来のビジョン」と述べて見せたのが下の写真だ。

3月にスペシャルイベントでの新MacBook発表で、そのビジョンを表現した写真

電源アダプタやLAN、外付けストレージなどのコードがぶら下がっていないコードフリーのノートブックだ。iPadのように常に内蔵バッテリーで使用し、インターネットへの接続はWi-Fi経由。Macからコード類を外す手間なくすぐに持ち出せて、さっと取り出して使える。最高にポータブルなPCである。

ただ、こうした使い方は別に新しいMacBookでなくても可能だ。実際、筆者はこの2年ほどMacBook Airを、Appleが新MacBookで提唱しているようなスタイルで使い続けている。メインのMacとして仕事机ではハイブリッドHDDを搭載したMac miniを使っていて、MacBook Airはベランダや近所のカフェなど持ち出し専用。その電源供給元は常に内蔵バッテリーである。

この使い方で気をつけなければならないのが、充電の時の電源アダプタ以外は何も接続しないこと。コードを外すのが面倒になるからではない(それもあるけど……)。うっかり何かを接続したままにしてると、使いたい時にバッテリー残量がないということが起こってしまうからだ。

MacBook Airはスリープ状態からしばらく経過するとスタンバイモードに入る。Macの使用状態をSSDに保存し、ハードウェアサブシステムへの電力も遮断してしまう。スタンバイモードに入ってしまえば、充電せずに1週間ぐらい放置してもバッテリー残量はほとんど減らない。それぐらい電力を消費しないうえに、スリープほどのインスタントオンではないものの、電源オフに比べたらずっと素早く復帰してくれる。

ただし、スタンバイモード時にはRAMやUSBバスに電力が供給されないから、USBデバイスや外部ディスプレイを接続していたり、SDカードスロットにSDカードを挿入にしていたりするとスタンバイモードに移行しないのだ。たまに写真を転送したSDカードをうっかり入れっぱなしにしたままにし、スリープ解除した時にバッテリーが減っていて「うわっ、作業できない」ということが起こる。普段は意識しないが、そんな時ホントにスタンバイモードのありがたさを実感する。

たかがスタンバイモード、されどスタンバイモードである。作業が終わった時とほぼ同じバッテリー残量で再開できるから、次に何時間ぐらい使えるかを予想できるし、充電のタイミングを計りやすい。内蔵バッテリーだけでMacBook Airを使い続けてきた経験から言わせてもらうと、使いたい時に使えるようにMacを維持してくれるスタンバイモードの活用は、内蔵バッテリーだけでMacBookを使うために必須である。

だから、Appleが提唱するコードフリーなノートPCの快適な未来を実現するには、ユーザーをスタンバイモードに導かなければならない。最も確実な方法は、スタンバイモードへの移行を妨げる接続をできなくしてしまうことだ。USBドライブも、SDカードも接続できなければ、間違いなくスリープからスタンバイに移行する。

筆者がMacBook Airを内蔵バッテリーで使うために電源アダプタ以外は何も接続しないと心掛けていることを物理的にやってしまったのが新MacBook……筆者はそう思っている。だから、Appleが新MacBookでコードフリーなスタイルを目指すのを止めないかぎりは、次世代モデルでも電源アダプタを接続するたった1つのUSB Type-Cポートを除いて一切の接続を拒否するのではないかと考えている。

USB Type-Cポートが1つしかないことを究極のシンプルという人もいるが、問題はそのデザインの意味

AppleはUSB Type-Cの採用が早かったが、PCにUSB Type-Cを採用すること自体は驚くようなことではない。これからPCにもたくさん搭載されていくだろう。そんなスペックの話ではなく、コードフリーのMacBook体験にユーザーを導くためにUSB Type-Cを使っているのが実にAppleらしい。Macから光学式ドライブを排除した時も、コンテンツをオンライン配信で楽しむスタイルにユーザーを導くように排除した。USB Type-Cもユーザーを新しい使用スタイルに導くように実装されているところに大きな意味がある。