今年になって初めて「Google Glass」に電源を入れて装着したら、随分と古ぼけたデバイスに感じられた。動作が遅いとか、デザインが流行遅れになったというようなハードウエアの劣化ではなく、肝心の使い勝手が古ぼけた感じがするのだ。以前のようにGlassをかけたら情報が身近になるという感じはなく、かけている時の"装着してる感"が増した。

開発プロジェクトが一区切りしてから、しばらく仕舞い込まれていた「Google Glass」

今回、Google Glassを使ったことがない友達数人のリクエストで持ち出したのだが、以前のようには盛り上がらなかったというか、「これじゃあ、ダメだよね」という反応が返ってきた。一致した意見が「なぜ音声コマンドで全部できないの?」だ。

例えば、写真を撮りたい時は、頭を上に向けてスリープ解除、そして「OK Glass, take a picture」と言うと、カメラ・アプリが立ち上がって自動的に撮影まで完了する。ハンズフリーのとても快適な使用体験だ。ところが、次の撮った写真をGoogle+に保存するか、それとも削除するかを決める画面では側面のタッチパッドを使わなければならない。初めてGlassをかけた人の多くは、それも音声でできると思って「Save」または「Delete」と叫び、音声コマンドでできないと気づくと「なんだ、そりゃ!?」になる。

そもそもハンズフリーになれるのがスマートグラスの大きなメリットであり、最後まで音声コマンドで完了できてこそ快適な利用体験じゃないか、というわけだ。

でも、2013年にGoogle Glassを手に入れた頃、試した人は誰も「すべてを音声コマンドで操作できるべき」なんて言わなかった。わずか1年半ぐらい前のことだが、ガジェットはタッチパッドやボタンで操作するのが当たり前で、むしろ撮影だけでも音声コマンドでこなせると「シャッターチャンスを逃さないから便利!」と言われたものだ。

それから、Androidで「OK Google」が使えるようになり、MicrosoftがCortanaを投入、AmazonもFireシリーズに音声検索を採用するなど、音声検索や音声コマンドをさまざまな製品で利用できるようになった。そうした変化によって、Google Glassのユーザーインタフェースに対する評価も変わったようだ。Glassの場合、タッチパッドを操作するために目の横辺りまで手を上げる必要があり、しかもメガネの側面をなぞるという不自然な操作である。だから、余計に音声操作が便利に思えるようだ。

カメラの後ろの側面部分がタッチパッド

Google Glassを使っていて今も色あせないのは、通知の便利さだ。外した時にだけロックされるように設定すると、装着し続けている限りは、届いたメールなどは頭を上げるだけで簡単に確認できる。スマートフォンに手を伸ばす回数が圧倒的に減少した。これでタッチパッドまで手を上げずに、音声だけで操作できたら最高なのだが……。

Apple WatchとGoogle Glass、共通の目標

この1週間で2度、Apple Watchを体験したが、その使用体験はさすがである。メッセージやメールを確認するためにiPhoneをアンロックするのが面倒だと思ってる人には有効なソリューションになるはずだ。メッセージが届くと、着信音と共に画面をコツッとたたくような感じの振動が伝わり、腕を上げるだけでメッセージを確認できる。デジタルクラウン、感圧タッチ(タップと押しているのを区別可能)を活用したユーザーインタフェースは、流れるような操作を可能にしている。また「Hey Siri」と呼びかけるだけで、Siriの音声アシスタントを受けられる。

メガネのようにかけて目の前にディスプレイがあるGoogle Glassのほうが、Apple Watchよりもパーソナルなデバイスに思われがちだが、ディスプレイまでの距離がすべてではない。Apple Watchは聴覚と触覚にも語りかけ、スムーズなインタフェースによってユーザーが情報やコンテンツにより集中できる。腕に巻くApple Watchのほうが身近なデバイスに感じられるのだから面白い。

私を担当したApple Storeのスタッフが勧めていたのはミラネーゼループ。デザインも良いが、バンドが柔らかく着脱しやすいため、スタッフの間でも人気があるそうだ

Apple Watchを使ってみて、Google Glassが目指していたところは「ココだよなぁ」とも思った。2013年にGoogle創業者の1人であるSergey Brin氏がTEDカンファレンスにおいて、スマートフォンを頻繁にチェックするのは、人々を孤立させ(anti-social)、活力を奪う(emasculating)習慣だと指摘していた。その解決策を目指したのがGlassである。

だから、製品化に至らなかったGoogle Glassが失敗だったと言いたいのではない。Glassがなかったら、これほど早く音声やウエアラブルの活用は広まらなかっただろう。「スマートフォン依存を和らげるソリューション」の実現という点で大きな前進を生み出したのだから、GoogleがGlassプロジェクトを展開した価値は十分にあったと思うし、そのソリューションをAppleがマスに広げるタイミングで、プロジェクトをリスタートさせるのは賢明な判断だ。Apple Watchの登場は多くの人がスマートウォッチとの付き合い方を考え直すきっかけになる。そのうえで今度はGoogleがAIの活用など次のステップへと導いてくれると期待したい。