下のチャートは3月16日から10日間のTwitterの株価と、3月25日から3日間のFacebookの株価の推移だ。SxSW Interactive (3月13日-17日)で「Meerkat」というTwitterを活用してスマートフォンからライブ動画を配信できるサービスが話題になり、続いて26日にTwitterから生放送サービス「Periscope」が登場した。Facebookは3月25日・26日に、米国サンフランシスコで開発者カンファレンス「F8」を開催し、初日に「Messenger」のプラットフォーム化を発表した。

SxSW Interactiveが始まった3月13日から10日間のTwitter株価、「Meerkat」と「Periscope」の話題でじわじわと上昇

開発者カンファレンスF8 2015 (3月25日-26日)期間中のFacebook株価

株価の推移を見ると、生放送サービスの話題でTwitterへの期待が高まっている一方で、FacebookのMessenger開放に対する反応は鈍い。ただ1年後を考えたら、Messengerに対する評価がどのように変わるのか、今から楽しみだ。"歴史は繰り返す"かもしれない。

Twitterに飛び込んできたビル爆発

Periscopeは「iPhoneを使って、いつでもどこでも簡単に生放送を開始できるサービス」である。そのように説明しても、使ったことがない人には、それがどんなもので、どんな風に利用できるのか想像しにくいが、Periscopeがリリースされた26日にニューヨーク市でビルが倒壊する爆発火災が起こった。その様子をPeriscopeユーザーが生放送し、ニュースよりも早くリアルタイムに火災現場の様子を伝えたことで、モバイル生放送の価値が一気に広まった。

PeriscopeはiPhoneでPeriscopeアプリを立ち上げ、[Broadcast]ボタンを押すとフォロワーにライブビデオ放送の通知が届く

そもそも、Twitterも事故をきっかけに成長したサービスだった。SxSWで話題になったものの、ニュース記事や口コミではミニブログの価値を実感しにくく、爆発的には広まらなかった。それが2009年にUS Airwaysの旅客機がエンジントラブルでハドソン川に着水し、乗客が自ら事故の様子をツイートしたことでTwitterの価値が一気に広まった。歴史は繰り返す、だ。

偶然にも前日の25日に、F8のオープニングキーノートでMark Zuckerberg氏がビデオの力を指摘していた。5年前は「テキスト」で行われていたFacebookのコンテンツ共有に、今は「写真」が用いられている。5年後は「ビデオ」が好まれるようになるだろう。さらにその先は「拡張現実(AR)/バーチャルリアリティ(VR)」で没入できるような体験を共有するようになると述べた。

奇しくも、Zuckerberg氏が予想したビデオを使ったコンテンツ共有の力を、5年を待たずにTwitterを活用した生放送サービスが証明した形になった。

コンテンツ共有はテキスト(過去)、写真(現在)、そしてビデオ(5年後)、AR/VR(未来)に

「UTILITY」化するFacebook

アクティブユーザーの伸び悩みに直面しているTwitterにとって、Periscopeの成功は成長ペースを再び加速できるチャンスである。問題は同社がそれを生かせるか、だ。

Littleincの共同創設者で、今はYahoo!で成長戦略を担当するArjun Sethi氏がコンシューマ製品の成長には以下の3つの段階があると述べている。

  1. WANT:製品独自の存在価値を示し、斬新なものであると認められる。
  2. NEED:人々の生活にとけ込み、繰り返し利用されるようになる。
  3. UTILITY:他の製品の機能としても利用されるようになる。

短期間でNEEDまで到達する製品は多い。しかし、3番目のUTILITYを達成できる製品はわずかだ。TwitterとFacebookは、その好例であるとしている。

ハーバード大学の学生ディレクトリーとして始まったFacebookは学生全体の3分の2がサインアップするほど話題になり(WANT)、2005年に写真のタグ付けを追加した時にFacebookを使っていた学生たちは同サービスから離れられなくなった(NEED)。そして学生ディレクトリーを脱して、ソーシャルユーティリティを標榜し始め、2007年にFacebookプラットフォームを公開した(UTILITY)。

Twitterは「ハドソン川の奇跡」をきっかけに成長ペースが加速(WANT)し、メディアや開発者もTwitterを活用するようになった(NEED)。しかしながら、マネタイズの段階でサードパーティのAPIアクセスを制限したことでエコシステムの成長が鈍り始めた。Google Trendを見ると、Twitterに関する検索は2012年12月をピークに下降し始め、現在は2011年の初めごろのレベルである。

Periscopeは瞬く間にWANTを達成し、NEEDにも進めそうだ。さらに、その先への成長に開発者の期待も高まる。しかしPeriscopeをリリースする直前に、先に生放送サービスを開拓していたMeerkatとTwitterの衝突が報じられた。Periscopeの公開準備を進めていたTwitterが、TwitterのソーシャルグラフをMeerkatが利用するのを制限したという。事実だとすると、UTILITYへの成長が怪しくなってくる。歴史は繰り返す、だ。

逆に、コンシューマ製品を"UTILITY"に進める術を熟知し、それを実践しているのがFacebookである。同社が発表した「Messenger Platform」はサードパーティがMessenger向けのアプリや機能を開発するのを可能にする。今後どのような展開になるかは、サードパーティのアイデア次第だが、Facebookは開発者を「ビルド」「成長」「マネタイズ」の3段階でサポートすると明言していた。開発者はMessengerのネットワークを生かして、ビジネスを構築できる可能性に高ぶったと思う。

一般ユーザーがMessengerプラットフォームに気付くのは、FacebookプラットフォームにおけるZyngaのような存在が登場し、これまでになかったメッセージが舞い込んでくるようになってからだろう。WANTからNEEDへのスピードは遅いかもしれない。だが、UTILITYにまで達するなら、そのエコシステムはとても巨大なものになる。