しばらく前に「(ホンモノのティーンエイジャーが書いた)ティーンエイジャーのソーシャルメディア観」というMedium記事が大きな話題になった。「若い層のFacebook離れ」が議論になっているように、ティーンエイジャーの動向がソーシャルメディアの行方を左右する昨今、たくさんのアナリストや記者、研究者がティーンエイジャーのライフスタイルを分析している。

しかし、世間のおじさんたちはティーンエイジャーのソーシャルな輪の中に入れてもらえないから、おじさんたちはなかなかティーンエイジャーの気持ちをつかめない。そこで、テキサス大学の19歳の学生が現役ティーンエイジャーの率直な意見を公開した。Facebook、Instagram、Twitter、Snapchat、Tumblr、Yik Yak、Mediumなどについてコメントしているので、その一部を紹介しよう。

Facebook:自分たちの間ではもう終わっているも同然。中学生だった頃はクールで熱中したけど、今は避けたいけど避けられない気まずい家族のディナーパーティのようだ。今でも時々Facebook使っているのは奇妙なことだし、面倒なことだけど、もしFacebookアカウントを持っていなかったら(みんな使っているFacebookを使わないというソーシャルプレッシャーに直面するのは)、もっと奇妙で面倒なことだ。

Instagram:今のところ僕たちの世代が、最も活用しているソーシャルメディアだ。Facebookにほとんどの知り合いがいるけど、実際に僕たちが何かをポストするのはInstagram。Facebookで1500人の友達を持つ友達が投稿した写真が25件しか"いいね!"を得られなくても、(800フォロワーの)Instagramでは253件も獲得できるのだから興味を引かれる。

Twitter:Twitterはアイデンティティを示しながら、多くの知らない人同士がフォローまたはフォローされる場である。正直なところ、僕たちの多くはTwitterにピンときていない。どこの学校にも熱心にツイートするグループがいるし、ツイートをチェックもしくはリツイートするだけのグループもいるけど、その他の大勢は使っていない。

Tumblr:Tumblrはアイデンティティを示すことなく、多くの知らない人同士がフォローまたはフォローされる場である。たくさんの人が利用しているけど、誰もそのことを話さない秘密結社のようだ。

ティーンエイジャーがティーンエイジャーのソーシャルメディア観を公開すること自体は珍しくないが、この記事は単純に読んで面白い。書き手が洞察力に富んでいて、サービスの比較が軽妙でわかりやすいからだ。こんなにうまい文章で書きつづったティーンエイジャーのソーシャルメディア観を、ティーンエイジャー以外の層に向けてMediumで公開したら、爆発的に広まるのもうなずける。

メディアも踊らされていて、Business Insiderは「Facebook、Instagram、Snapchatなどについて、大人がわかっていないことをティーンエイジャーがずばり解説」、Gigaomは「ホンモノのティーンはどのようにソーシャルメディアを使っているのか」と取り上げていた。

「鋭い!」といっても、書いたのは19歳の白人大学生であり、その声を"ティーンエイジャーの声"としてもてはやすのは危うい。ティーンエイジャー研究の第一人者であるDanah Boyd氏は、冷静に「(Medium記事を書いた)アンドリューの声は届けられるべきだし、彼の率直な意見は読んでいて楽しい。でも、彼の分析はすべてのティーンエイジャーに当てはまるものではなく、そのように見なすべきではない」とクギを刺している。

例えば、記事ではTwitterの価値に「ピンとこない」としているが、Twitterはマイノリティのティーンエイジャーの間で活用されており、最近では黒人青年射殺問題で議論の場になった。

そんなBoyd氏ですら「ティーンエイジャー全般の声に最も近い」と認めているのが、Facebookに関するコメントだ。「もう終わっているも同然」という結構ショッキングな表現だが、米国の都市部や地方都市のティーエイジャーなら「違和感を覚えない」という。

そんな現状をFacebookもよくわかっているのだろう。1月14日、同社は仕事用のFacebookと呼べる「Facebook at Work」の試験的な提供を始めたことを公表した。

仕事中に「Facebookでサボる」というイメージ

Facebook at Workは個人用Facebookと同じツールを、仕事のコミュニケーションやコラボレーションに利用できるようにする。個人用のアクティブユーザーは13億人を超えており、それほど多くの人が使い慣れているツールであるというのは大きな武器である。

ユーザーが仕事をしている時間は、Facebookにとって未開の大きな市場であり、そこの攻略に乗り出すのは理にかなっているように思う。だが、簡単なことではないのは、今までこの時間にうまくリーチできていなかったことが証明している。

個人向けFacebookと同じように仕事の情報もアップデート

「ティーンエイジャーのソーシャルメディア観」を読んでわかるように、ティーンエイジャーや大学生、20代の若い層にとってソーシャルメディアは"娯楽"なのだ。会社で隠れて娯楽ツールとしてFacebookを楽しんでいた人が多かったから、社内でのFacebookの使用を禁止している企業も多い。そんなサービスに、扱いを慎重にするべき業務関連の情報を任せたいと思う経営者はいないだろう。

もっとも、市場はあるので、Slack、Yammer、Honeyといった仕事のためのソーシャル機能を提供するスタートアップが次々と現れている。だが、いずれも市場を支配するような存在になり得ていない。数人程度のグループならともかく、たとえ小規模であっても会社のワークフローを整えるのは骨の折れる作業だ。導入が容易で、かつ、誰でも簡単に使いこなせて、小規模ビジネスの負担にならない程度の費用で、しかも信頼に足るサービスが登場したら、仕事環境を変える存在になりそうだが、なかなか難しい。

ティーンエイジャーのFacebookに対する冷めた反応は、個人向けサービスとしてのFacebookには影を落とすが、だからこそ新たな可能性が開ける。「ティーンエイジャーのソーシャルメディア観」で、ティーンエイジャーがFacebookを使う理由として挙げているのは「グループ機能」「メッセージング」、そして「パワフルな検索機能」の3つだ。Facebookは娯楽ツールではなく、無料で高度なコミュニケーションやコラボレーションを行えるプラットフォームとして認められている。

だから、娯楽を求めるティーンエイジャーにとって、Facebookは「もう終わっている」となるが、見方を変えると、それは「ティーンエイジャーのソーシャルメディア観」で取り上げられている他のソーシャルメディアにはない魅力である。

今、娯楽ツールとして多くの人々を魅了してきたFacebookは、個人向けソーシャルメディアから業務向けソーシャルメディア市場を攻略できそうなユニークな立場にある。世間はティーンエイジャーのソーシャルメディア観を気にしている。だが、Facebookが変えようとしているのはソーシャルメディアをティーンエイジャーの娯楽ツールと思っている年代層のFacebook観である。それができたら、「導入が容易」で「すでに多くの人が使いこなせる」というFacebookのメリットは、仕事のためのソーシャルツール市場を開拓する強力な武器になる。