サンフランシスコを拠点とする写真のオンラインストレージサービスのスタートアップ「Everpix」がサービス終了を発表した。

知名度はいまひとつだが、知っている人からはEvernoteやDropboxが登場した時に比べられるなど大きな期待が寄せられていたスタートアップだけに、そのニュースは驚きをもって受け止められた。The VergeはすぐにCEOにインタビューし、「Out of the picture: why the world's best photo startup is going out of business (消滅する : 世界一の写真スタートアップはなぜつぶれるのか)」という記事を掲載している。筆者は今年に入ってから使い始めたばかりだが、それから日常的なつきあいになっていただけに、ユーザーの1人として使えなくなるのはとても残念だ。

Everpixはパソコンやモバイルデバイス、ソーシャルネットワーキングサービスなどからオンラインストレージに写真を収集し、それらを見やすいように整理してくれる。デジカメ、スマートフォン、タブレットなど、写真を撮るデバイスは増える一方だ。しかもスマートフォンやタブレットでは、直接オンラインサービスに写真をアップロードして共有できる。写真がどんどん身近に、そして便利になっているというような気がする。

しかし、実際のところ撮影できるデバイスや写真を扱えるオンラインサービスが増えるほどに、写真があちこちに散らばって収拾がつかなくなっていないだろうか。必要な時に、探している写真がどこにあるのか分からない。Everpixは、そんな問題を解決してくれる。

クラウドベースの写真サービスなんて目新しいものではないと言う人も多い。確かに筆者もEverpixを使う前はFlickrに写真を集めて管理し、それなりに満足していた。ただ、Flickrだとユーザーが努めてFlickrにアップロードする必要があった。

Everpixはとてもシンプルで空気のようなサービスなのだ。設定を済ませたら、あとはiOSデバイスで写真を撮影、または写真管理ソフトやオンラインサービスに写真を取り込むだけで、自動的にEverpixに全ての写真がアップロードされる。努めてアップロードしなくても、Everpixを開いたら自分の全ての写真がそこにあるという環境ができあがる。この手軽さはAppleのiCloudのフォトストリームに近いが、フォトストリームのようにクラウドに置ける写真枚数の制約はなく、無制限にアップロードできる(有料サービス : 月4.99ドルまたは年49ドル)。サービスは安定していて、WebインタフェースそしてiOSアプリも高速にレスポンスよく動作する。写真を1枚ずつ分析して自動的にまとめたりカテゴリ分けしてくれる機能も優れていて、クラウドに数千・数万枚の写真が貯まっても効率よく快適に写真を閲覧できる。個人的にEverpixは、ただ撮るだけ状態になろうとしていた写真を、再び見て楽しむものにしてくれたサービスだった。

パソコンで同期するソース(デバイス、フォルダ、ソフトウエアのライブラリなど)を設定

Webで同期するソーシャルサービスを設定

同じ日や同じイベントから特徴的な写真を選んで表示する「Highlights」、たくさんの写真をすばやく閲覧できる

豊富な情報と共に写真を大きく表示するWeb版

EverpixのiOSアプリのレーティングは1000以上のレビュー平均が4.5だ。無料サービスユーザーの半分が毎週サービスにログインし、毎月ログインしている無料ユーザーは60%を超える。無料から有料ユーザーへの移行率は12.4%。これはフリーミアム・モデルとしてはとても高い数字だ。Everpixを取り上げた記事を読んでも、ほめ言葉だけが並んでいる。

それでもサービスを運営していくのに十分なユーザーを集められずに、ついにAmazon Web Servicesの費用が払えなくなってサービス終了に追い込まれた。

創設者らが自分たちの製品に確固たる自信を持っていたのが、逆に仇になったかもしれない。CEOのPierre-Olivier Latour氏は製品開発に時間を費やすばかりで、成長戦略やマーケティングをおろそかにしたのが間違いだったと振り返っている。

Everpixは2011年にTechCrunch Disruptに参加し、そこで注目されて180万ドルの投資を得た。普通なら成長戦略を練って、ユーザーの増加ペースに合わせて体力が保つようにバランスよく資金を配分するものだが、Eperpixは180万ドルのほとんどを一気にサービス構築につぎ込んでしまった。その結果、マイルストーンに到達した時には運転資金が底を突き、製品が形になったのに最初の破産の危機に直面した。そんな会社なのだ。

TechCrunch Disruptの後、FacebookやDropboxがEverpix買収に関心を示したというが、当時のEverpixはサービスの独立にこだわった。最終的に破産直前にPathへの身売りが決まりかけたものの、Pathの財務状況が悪化して契約締結直前に破談になった。今年に入って追加投資を模索したベンチャーは開発チームを評価するだけで、Everpixの将来については懐疑的。AppleのiCloud、Instagramを買収したFacebook、Google+、生まれ変わったFlickrと無料の写真サービスの競争が激化する中、有料で使ってこそ価値のあるEverpixが勝ち残るのは難しいと見たようだ。

Everpixはブレイクするタイミングを逃したというのが大方の見方だが、僕はうまくユーザーの不満にアピールできれば、今でもブレイクのチャンスはあると考えている。iOSデバイスやMacにおいてiCloudを写真置き場にしたら便利だが、その便利さはAndroid端末では使えない。逆にAndroid端末のカメラ機能はGoogle+と組み合わせてこそシンプルで便利だが、iOSデバイスでGoogle+フォトを使うのは一手間だ。モバイルデバイス・ユーザーにとって重要度が増している写真は、プラットフォームにユーザーを囲い込む武器に使われている。だから、写真があちこちに散らばって収拾がつかなくなる。この問題はさらにひどくなっていく可能性が高い。

Everpixは、その垣根を取り払おうとしたサービスであり、創設者らの信念のまま受け入れて垣根を取り払ってしまったら囲い込み戦略に影響が出る。Everpixの身売り先が決まらなかったのは、新味に欠けたからではない。創設者らが頑固で、その信念が有効なソリューションになり得るから敬遠されたのではないだろうか。少なくとも筆者にとってEverpixは、写真に関して抱えていた問題を見事に解決してくれる優れたサービスだった。

それ故に支援を得られずに倒産するのだとしたら、とても残念なことである。