10月31日にJ.D.Powerが公表した「2013年米タブレット満足度調査 Vol. 2」において、Samsungが僅差でAppleを上回って1位になった。総合点はSamsungが835ポイント、Appleは833ポイント。Appleがこだわるユーザー満足度で、Samsungが上回ったというのだから事件である。しかし、この結果を見て数多くの人が大きな疑問符を付けた。理由は下の5つ星チャートだ。

2013年米タブレット満足度調査 Vol. 2 (出典: J.D.Power)

「総合的な満足度」「性能」「使いやすさ」「ハードウエアデザイン」「機能」の全てでAppleは5つ星評価を獲得、唯一「価格」だけが2つ星である。一方、Samsungは「総合的な満足度」だけが5つ星。単純に獲得した星数を比べてもAppleが27個、Samsungが23個。しかも、Samsungが3つ星の「性能」と「使いやすさ」は評価の重要度の比率がそれぞれ26%、22%と高い。Samsungが上回っている「価格」は16%なのだ。それでも結果はSamsungの方が上である。

J.D.Powerの調査期間は2013年3月から8月で、所有期間が1年以内のユーザーが対象だ。Samsungが新製品を投入し、iPadの新製品は登場しなかったAppleには不利な期間であった。だが、4月に公開された米タブレット満足度調査 Vol. 1ではAppleがライバルを圧倒していたのだ。Vol. 1では平均を下回っていたSamsungがトップに躍り出るほど、半年の間に劇的な変化があったようには思えない。J.D.Powerが評価方法を変更したとしか考えられないという訳だ。

J.D.Powerによると、Samsungは5つの評価ポイントすべてでポイントを上げ、価格は総合点でAppleを上回るのに十分な差があったという。また「総合的な満足度」を除く5つのポイントは主要な評価ポイントであるものの、それらが全てではなく、総合評価に影響した他の要因もあった。

と説明されても、納得できずにネットで声を大にしている人もいる。例えば、起業家のMarco Arment氏は、AppleとSamsungの同程度のスペックのタブレットを比較したら同じような価格帯の製品が多いと指摘した上で、「SamsungのタブレットがAppleを上回っていると、彼ら(J.D.Power)が結論づけようとしている可能性があるのはなぜか?」として、Samsungが莫大な広告費を投じているマーケティング活動の効果を挙げている。

フィーチャーフォンのようなタブレット

Arment氏の言う通り、同程度で同じぐらいの価格の製品はある。しかし、iPadはストレージ容量を1つ上の製品にすると100ドルプラスになる。これはストレージに支払うコストとしては、長くApple製品を使っている筆者でも割高に感じる。

J.D.Powerによる"操作"を疑いたくなる気持ちも分からないではないが、米タブレット満足度調査はまだ始まったばかりで、調査や分析の方法が定まっていないところもあるだろう。そもそも、SamsungはGalaxy Note、Galaxy Tab、そしてNexus 10と、Appleよりも幅広い価格帯のタブレット製品を提供している。それを大ざっぱに「Appleのタブレット」と「Samsungのタブレット」に分けただけで満足度を比較するのは無理があるのでないだろうか。

iPad AirとRetina搭載のiPad miniが発表された後、英国のアナリストのBenedict Evans氏が価格について書いたブログの中で、「フィーチャーフォンのようなタブレット」の存在を指摘している。中国を中心とした新興市場における低価格タブレットの使われ方は、いわゆるiPadの使われ方と全く異なるという。Webブラウジングやゲームはおまけのようなもので、少しの電子書籍、ほとんどは動画視聴だという。見た目も機能もタブレットだけど、競争相手はiPadではなく、テレビなのだそうだ。

米国市場でタブレットのライバルがテレビということはないが、「当たらずとも遠からず」なことを先日シリコンバレーにある検索大手に勤めている人が言っていた。低価格帯のタブレットのユーザーはアプリを使った活用にあまり関心がなく、コミュニケーションとエンターテインメントだけで満足する傾向が強い。これもフィーチャーフォンのようなタブレットの使われ方と言ってもよいのではないだろうか。ちなみにAmazonのサービス向けにカスタマイズされたKindle Fireは、J.D.Powerのランキングで前回が829ポイント、今回が826ポイントと安定した評価を得ている。

iPadはminiでもiPadとしての機能と性能を備えている。ただ、iPadの利用体験を求めるタブレットユーザーばかりではない。今やKindle Fireが便利というユーザーもいれば、Androidの標準アプリだけで十分というユーザーもいる。J.D.Powerのタブレット満足度調査はフィーチャーフォンとスマートフォンをひっくるめて携帯電話の満足度をランキングしているようなもので、評価の軸足が定まっていないからフル機能や低価格のそれぞれの価値が見えてこない。だから前回はSamsung製品ユーザーの、今回はApple製品のユーザーから不満が噴出することになった。ランキングは分かりやすく伝えるのに効果的だが、せめてユーザーのニーズに合わせて満足度を読み取れるように分割したランキングを作る必要がありそうだ。