ポストGoogle Readerレースの先頭を独走するRSSフィードサービスの「Feedly」がかねてから予告していた有料サービス「Feedly Pro」を発表した。秋に一般提供開始になる予定で、料金は月額5ドル (または年額45ドル)。マイナビニュースの読者ならFeedlyを使っている方も多いと思うが、あなたならRSSフィードサービスに毎月500円を支払うだろうか?

Feedly Pro

FeedlyはProサービス発表と共に、すぐに同サービスを使用開始できる5000人限定の特別メンバーシップを販売した。現時点でProメンバーのみが受けられるサービスは以下の4つだ。

  • 記事検索
  • https接続
  • Evernoteノートブックへのワンクリック保存
  • プレミアム・サポート

特別メンバーシップは8時間で完売になった。これは早いようで、早かったとは言いがたい。というのも、特別メンバーシップは99ドルを一度支払えば終身プロメンバーの権利を得られる特典価格で販売されたからだ。Feedlyを使い続けていこうというユーザーなら20カ月で元が取れる。かなりお得な料金である。それでも8時間なのだから、Proサービスの内容に価値がないと判断した人も多かったのだろう。実際、Proメンバー向けの4つの追加機能/サービスに対して「どうして、こんな基本的な機能に出費しなければならないんだ」というような厳しい反応が数多く見られた。

筆者はというと、Proサービスの4つの機能/サービスを見て即決で購入してしまった。確かに得られる機能はまだ少ないけど、筆者には価値のあるものばかりで、こんな風にサービスを拡大するFeedlyを見直した。同時に、カジュアルにFeedlyを使っている一般ユーザーならともかく、IT記者やアナリストから少なからずネガティブな反応が出てきたのは意外なことだった。

ポストGoogle Readerの第1候補はFeedbinだったが…

ポストGogole Readerを検討していた頃、Feedlyには全く期待していなかった。だって、利用者が減少し始めたとはいえ、Google Readerはまだまだ人気サービスだった。それをGoogleは突然提供打ち切りにしたのだ。この調子だと、電子メールがGoogle+を広める上での障害になる日が来たらGmailだって打ち切ってしまうかもしれない。無料Webサービスを使うリスクを自覚させられた後だったから、次は継続維持されるサービスを使いたいと思った。そこで有料のFeedbinを第一候補としていたのだ。最も話題になっていたFeedlyについては、コマーシャル色が強く、無料サービスなので将来ユーザーを振り回しそうで危ういという印象だった。

そんなFeedlyに対する評価が変わったのは、同社がWebインタフェースの提供を開始した時だ。使ってみると使いやすく、ユーザーのことを考えた工夫がユーザーインタフェースの端々にちりばめられている。多くのライバルサービスがなんとかGoogle Reader終了前に体裁を整えたという感じだったのに、Feedlyはしっかりとした製品を用意し、Google Readerユーザーの受け皿になれるだけの技術力とサービス基盤を持っていることを示した。

一方、期待していたFeedbinは機能が乏しく、サービス改善や新機能提供のスピードも遅い。次第に月額2ドル (現在は3ドル)が、サービス料金ではなく、寄付のように思えてきた。これでは料金を支払い続ける意味がない。

Feedly Proに話を戻すと、確かにProユーザー向けの機能/サービスはまだ少ない。でも、筆者の場合、毎日大量の記事をチェックし、過去の記事も調べることが多いから、本当に機能的な記事検索を備えていれば、それだけで料金を支払う。今にして思えば、Webを日々クロールしているGoogleの持ち味を活かしたGoogle Readerの検索機能はキラー機能と呼べるような存在だった。Feedly Proの検索機能は、日本語の検索が遅く、2文字以下がエラーになるなどまだトラブルも多いが、英語だとGoogle Readerを彷彿させるスピードで探している記事を効率的に見つけられる。不安定ながらも、すでに重宝している。

https接続のサポートに関しては、情報保護のための機能を有料サービスに限定するのはどうかと思う人も多いだろう。その点はFeedlyもわきまえていて、Proサービス発表後にCEOのEdwin Khodabakchian氏が公式ブログで、いずれhttps接続を無料サービスに取り込むことを約束した。現時点で真っ先にhttps接続をProサービスに盛り込んだことからは、RSSフィードサービスでもhttps接続にこだわるようなユーザーにProサービスをアピールしたいというFeedlyの狙いが読み取れる。

Evernoteとの連携には「なぜEvernoteだけ!?」と疑問に思っている人が多いようだが、Evernoteと言えば、フリーミアム・モデルで最も成功しているネット企業の1つである。無料サービスから有料サービスへの移行率が非常に高い。Evernote連携に魅力を感じる人は、Evernoteの有料サービスを契約している可能性が高く、FeedlyとしてはEvernoteを優遇サポートすることで価値のあるサービスに対して料金を支払うユーザーを真っ先にProサービスへ引き込める。

有料サービス20カ月分に相当する99ドルという特別メンバーシップの価格、そして地味で乏しいと言われる4つの特別メンバー向けサービス/機能はアーリーアダプターを絞り込むふるいである。残るのはRSSフィードサービスのヘビーユーザーばかりだろう。Feedlyは全てのFeedlyユーザーを有料サービスに引き込もうとしているのではない。一般ユーザーが十分に満足できる機能を無料で提供し、基本機能では満足できないユーザーに有料サービスで対応する。無料サービスでは無料の、有料サービスでは有料の価値を提供してこそフリーミアム・モデルが成り立つ。まずはFeedlyを存分に活用する5000人のヘビーユーザーを集め、そのグループを核に有料サービスを成長させる。ユーザーの棲み分けを実現する理にかなった方法である。5000人の特別メンバーからの売上は、Proサービス一般提供に向けたハードウエア購入に充てるそうだ。安易にKickstarterやIndieGoGoなどを頼みにせず、新サービスを拡大するための資金調達を自ら解決しているのも頼もしい。

これまでFeedlyを見てきて、同社の意外な先見性に何度も驚かされた。Googleが突然Google Reader終了を宣言するのをまるで知っていたかのようにすばやく対応し、ユーザーの要望を満たしながら、着実にサービスを強化してきた。おそらく、こうした事態が起こり得ることを想定して準備を進めていたのだろう。今回のProサービスの立ち上げにも、同社の周到さがよく現れている。

興味深いのは、その次である。RSSフィードサービス自体がすでにピークを過ぎたサービスになっていることから、有料版どころか、無料版も遠くない将来にユーザーの伸びが頭打ちになるはずだ。そのままFeedlyは衰退してしまうのだろうか?

Khodabakchian氏は「(広告に頼らない)Feedly Proの提供はユーザーが商品ではなく顧客であるというメッセージを送るものだ。われわれは顧客の満足を中心に据えたビジネスモデルの構築に取り組んでいる」と述べている。

数カ月前までのFeedlyのことを「Google Readerユーザーを引き継いで一儲けしようとする会社」と思っていた。しかし、それから同社のしたたかな事業展開に触れ、実際に製品を使ってみて印象がずいぶんと変わった。同社は、ただGoogle Readerユーザーの受け皿に甘んずるような会社ではない。Googleから獲得した顧客をベースに情報収集の分野で新たな展開を打ち出す …… そんなところまでシナリオを描いているんじゃないかと期待したくなる。