調査会社Strategy Analyticsが26日に出したプレスリリース「2013年第2四半期にSamsungが世界で最も高収益なハンドセットメーカーに」が先週末に物議を醸した。

Strategy Analyticsは、2013年4-6月期にSamsungのハンドセットの営業利益 (グローバル)が52億ドルに達し、Appleの46億ドルを上回ったと推測している。2012年にSamsungはNokiaを抜いて携帯電話出荷台数でトップに立っており、Strategy Analyticsの推測が正しければ、同社は収益でも世界一の携帯電話メーカーになったことになる。一方、AppleはiPhone 5が精彩を欠き、同機種よりも低価格なスマートフォンとの競争の影響でハンドセット事業の利幅が薄くなっているとしている。

2009年第3四半期から3年半も続いたトップの座からAppleが陥落したというStrategy Analyticsのレポートは、様々なニュース媒体で紹介された。しかし、Strategyの分析に違和感を覚えた媒体もあった。中でもApple Insiderが過激に反論した。

「確かな情報というより、真実から目をそらさせてSamsungに肩入れするための粉飾決算のようだ」(Apple Insider)

JP MorganのアナリストがSamsungのフラッグシップモデルGalaxy S4の販売鈍化と営業利益の下降を予測したのをきっかけに、同社の株価が下落したのは記憶に新しい。逆にAppleは4-6月期にiPhoneの販売が好調で、売上・利益ともに市場の予想を上回った。Apple Insiderの言う"真実"とは、低価格製品を量産するSamsungが厳しい状況に直面する中、Appleが地道に成長し続けていること。そして"粉飾"とは、Samsungの52億ドル、Appleの46億ドルという営業利益の数字だ。肝心のこれらの数字が曖昧だという。

Samsung、Appleともに、ハンドセット事業のみの営業利益を公表していない。

Samsungの場合、IT & Mobile Communications事業の営業利益が明らかだが、それには携帯電話のほか、タブレット、PC、ネットワーキングなども含まれる。4-6月期のIT&M事業の営業利益は約56億4000万ドル。その92%に相当する52億ドルをハンドセット分としている根拠が不明なのだ。

Appleについても46億ドルをどのように導き出したのかが分からない。こちらは全体の営業利益92億ドルをざっくり半分にした数字(46億ドル)をiPhoneの営業利益としているのはないかとApple Insiderは推測している。それが事実なら、ずいぶん大ざっぱな見積もりであり、それらを持ってSamsungを世界一の携帯メーカーとしているのなら納得できない……というのが、週末の騒動の経緯である。

Appleの決算発表でチェックすべきポイント

Strategy Analyticsの数字は推定だし、Apple Insiderの反論も推測に過ぎない。どちらの主張が事実なのかは、もっと確かなデータが得られない限り分からない。でも、SamsungとAppleの「どちらの利益が大きいか?」というなら答えははっきりしている。「Apple」だ。

AppleはiPhoneの端末販売からだけではなく、その後のアプリやサービスの販売からも収益を上げている。それらは別という人もいるが、Appleのハードウエアとソフトウエア/サービスは切っても切れない関係だ。一方Android (またはWindows Phone)頼みのSamusungのスマートフォン売上の多くはハードウエア販売によるものだ。しかも、Androidを牽引するGoogleはビジネスモデルの軸足を広告とWebアプリに置いている。アプリやサービスを含めた統合的なプラットフォームを1社で提供しているのが、ライバルにはないAppleの特徴であり、しかもハードウエア製品とソフトウエア/コンテンツがお互いの売上増に寄与する良循環を起こせている。それが、Appleの大きな強みである。

2四半期連続の減益ながらもiPhoneが好調で市場の予想を上回る6月期決算だったApple

4月-6月期の決算発表のカンファレンスコールでAppleは2つのポイントを強調した。6月期としては過去最高になったiPhoneの販売台数、そしてiTunes/ソフトウエア/サービスの伸びだった。前者は大きく報じられたが、後者はあまり取り上げられなかった。iTunesストアでの音楽、映画・TV番組の販売、iOSデバイスやMac向けのソフトウエアの販売などは副次的な売上と捉えている人が多いからだろう。しかし、4月-6月期のiTunes/ソフトウエア/サービスの売上高は39億9000万ドルで前年同期比25%増。今年に入ってから3回の決算発表で、iTunes/ソフトウエア/サービスは22%増、30%増、25%増と安定した伸びで推移しており、このままだと遠くない将来にiTunes/ソフトウエア/サービスの売上高がMac事業を上回る可能性が高い (4月-6月期のMacの売上高は49億ドル)。

実は、AppleがiTunes/ソフトウエア/サービスの売上高をまとめて公表し始めたのは今年1月の2012年10月-12月期の決算発表からだ。これによってiPhoneやiPad、Macの販売台数/売上高と、ソフトウエア/コンテンツの売上高が明確になった。つまり、新体制になってからの変更であり、そして新体制になってからAppleは決算発表でiTunes/ソフトウエア/サービスを以前よりも念入りに説明し、そして業績を強くアピールするようになった。

おそらく、新しいAppleはiTunes/ソフトウエア/サービスを同社のプラットフォームの成長の柱と見なしているのだろう。iPad miniのような安価な製品を投入した結果、iPadの販売台数が増えても売上高が減少したり、9.7インチのiPadが市場を食われたとしても、iTunes/ソフトウエア/サービスが順調に拡大していれば、それはAppleのプラットフォーム全体の成長につながる。iTunes/ソフトウエア/サービスはAppleの今後数年の成長を支える基盤と言える。最近また安価なiPhoneの噂が再燃しているが、Appleがソフトウエアとサービスを軸としているのなら、iPad miniがそうであったように、安価なiPhoneもiPhone 5ユーザーが使える全てのサービスとアプリを利用できる端末になるはずである。

ここ数カ月の間にSamsung経営陣が慎重な見通しを示しているのに対して、4-6月期決算においてApple経営陣は楽観的と思えるような見通しを示した。iPhoneのシェアがじり貧状態に見えるのに、安価なスマートフォンの台頭に同社が危機感を覚えているような感じではない。なぜか? SamsungとAppleを同じようにハードウエアメーカーとして扱って販売台数などから分析するだけでは、今日のAppleの強みは見えてこないのだ。