先週、大学のオンラインプログラムに関して2つのニュースが目にとまった。

1つは、Udacityとサンノゼ州立大学の提携で実現したオンライン講義の提供が一時中断されること。UdacityはGoogleでロボットカーを手がけた元スタンフォード大学教授が立ち上げた。人工知能をはじめとする質の高いオンライン講義を提供している。いわゆるMOOC (Massive Open Online Course)の一つだ。MOOCというと無料で、誰でも受講できるのを特徴としているが、Udacityがサンノゼ大学と提供していた3つの数学のコースは、1クラスが100ドルで定員100人という枠が設けられていた。その代わりに、幅広く単位として認められる。

中断となった理由は、及第点を取れる学生が少なかったためだという。サンノゼ大では74%が単位を修得できるコースで、オンラインコースは44%以下だった。受講者の構成は20%が高校生 (米国では大学で受講した基本的な数学のクラスなどを単位としてを認めている高校が多い)。サンノゼ大学の学生も38%だが、過去に同様のクラスを落とした学生が多かった。切羽つまった学生はがんばりそうなものだが、実際のところ、こうした学生が及第に達するにはオンラインコースの講義以上に時間かける必要があったという。受講者の能力の幅が広いのだからオンラインコースの及第率が低くなるのは仕方がないとしても、受講者の幅を受け止められる柔軟性にオンラインプログラムは欠けていた。9月に始まる秋学期にはコースを提供せず、より効果的に学べるプログラムに改良して来年1月からの再開を目指すという。

もう1つはカリフォルニア大学バークレー校が修士課程で提供するデータサイエンスのオンラインプログラムだ。データサイエンスというと、ニューヨークタイムズのコラムニストNate Silver氏 (同氏がESPNにヘッドハントされたことも先週の話題だった)が、昨年の米大統領選の投票結果を完璧に予想したことで一般の人にも知られる注目の分野になった。UCバークレーのプログラムが話題になったのは授業料の高さだ。12カ月から20カ月で完了できるコースが60,000ドル (約600万円)。これを取り上げたWIREDの記事のタイトルは「Want to Be the Next Nate Silver? That’ll Cost You $60,000 ($60,000の費用をかけて、キミは次のNate Silverになりたいか?)」だ。

UCバークレーの主張によると、今サンフランシスコ地域ではエントリーレベルでもデータサイエンティストは年収110,000ドル-130,000ドルの仕事を得られる。60,000ドルの先行投資など、すぐに取り返せるというわけだ。これには少なからず反論が出ている。それに、例えば、Nate Silver氏はシカゴ大学の経済学部を卒業したのみで大学院には進んでいない。マネーボールでカギとなる人物として描かれていたPaul DePodesta氏も経済学士しか持っていない。たしかにUCバークレーのデータサイエンス修士はデータサイエンティストになるための近道である。でも、データサイエンス修士でなくてもSilver氏やDePodesta氏のようにデータアナリストとして活躍できる。

シチズンデベロッパがビジネスアプリ開発の大きな勢力に

先月ニューヨークタイムスに掲載されたGoogleのLaszlo Bock氏 (ピープルオペレーション担当SVP)のインタビューによると、過去の雇用記録を分析した同社は、新卒の採用を除いて大学の成績表や試験のスコアの提出を求めるのを止めてしまったそうだ。成績と入社後に活躍するためのスキルや能力に関連性が見当たらなかったためだ。ちなみに同社の面接というと、面接官から「飛行機の中にゴルフボールが何個はいるか?」というような奇問・難問をぶつけられることで知られるが、それも「それらからは何も分からない。インタビュワーが自分の賢さに酔えるだけだ」(Bock氏)という理由で止めてしまった。今は考え方やふるまい方をチェックする「Behavioral Interview」などで適材を見いだしているという。アカデミックな企業であるGoogleが成績表 (や出身校)を見なくなったというのは意外なことだ。結果、高卒の社員が増えており、同社のチームの平均人数は6人だそうだが、14%のチームに大学で学んだことがない社員が含まれるという。

Googleのプログラミングコンテスト「Code Jam」

日本語を読み書きできるのと、プロの記者や文筆家の技術が違うように、コードを書けるのと、ソリューションを生み出す力は異なる。大学のコンピュータサイエンス・プログラムは後者の力を効果的に伸ばせる場所の1つである。でも実際には、例えば落語家だったり、ブロガーがオピニオンリーダーになったりと、様々な場所で巧みに日本語を使いこなして活躍している人たちがいる。

Gartnerは、2014年には新しいビジネスアプリケーションの少なくとも25%は"シチズンデベロッパ"によって開発されると予測している。

同社はシチズンデベロッパを「企業のIT部門に承認された開発環境とランタイム環境を用いて、誰かのために新しいビジネスアプリケーションを作るエンドユーザー」と定義している。自分のためのパーソナライズを入り口に自然と開発者になってしまうエンドユーザーの増加、デジタルネイティブのメジャリティ化、サービス指向型のアーキテクチャの成熟、開発ツールの進化、そしてスケーラブルなコンピューティングリソースをサービスとして提供するクラウド環境などが、シチズンデベロッパの在り方を変えている。これまで企業のEUAD (End-User Application Development)の活用はリスクを考慮した限定的なものだったが、ガバナンスポリシーを含むシチズンデベロッパ・プログラムを整えれば、リスクを管理しながらEUADの力を引き出せるようになるという。管理を誤った際のリスクは高いが、シチズンデベロッパを活用することで、企業のIT部門はより複雑な問題に取り組めると指摘している。

Gartnerはこのレポートを2009年にリリースし、2011年に改訂したが、「2014年には…」という部分に変更はない。2014年は来年に近づいている。内容には「なるほど」と頷いてしまうが、そもそもシチズンデベロッパの台頭という視点自体が、筆者のようなマッシュアップにカルチャーショックを受けたような世代からの見方にも思える。デジタルネイティブにとっては、自らソリューションを組み立てたり、必要に応じてソフトウエア作りに挑戦するのは当たり前の感覚ではないだろうか。より便利にするために、自分で考え、そして作る。そんな変化を企業も感じているから、Googleが学歴や成績にこだわらなくなったりするのだろう。

Udacityとサンノゼ州立大学は、従来の大学システムを補うようなプログラムを提供して失敗した。オンラインコースは教育の進化であるはずなのに、プログラマを短期養成するブートキャンプの方が進んでいるような気がしてしまう。実際、ブートキャンプの方がたくさんの若者を引きつけている。筆者も以前は単位が認められるオンラインコースが増えてほしいと思っていたが、それは陳腐な考え方なのだろう。