「大学中退でもGoogle」と聞いて、「楽して、なんとかなるのか!」とニンマリする人がいれば、「ガンバレば、キャリアを変えられる」と奮起する人もいるだろう。あなたが前者なら、残念ながらそんな甘い話はない。現実はキビしい。もし後者で、プログラミングが大好きな人だったら、Business Insiderに掲載された「How I Landed An Engineering Job At Google Without A College Degree」(大学の学位のない私がGoogleのエンジニアリング職を得た方法)というコラムを読むことをお勧めする。

これは執筆者であるデビッド・バイトウ氏の個人ブログからの転載されたもので、オリジナル記事のタイトルは「Four Steps to Google, Without a Degree」(学位なしでGoogleへ、4つのステップ)だった。バイトウ氏はこの"Googleへの4ステップ"よりも前に、「ABC: Always Be Coding - How to Land an Engineering Job」(ABC: いつでもコーディング - エンジニアの職を得るには)という記事を公開していた。それがHackers Newsなどで話題になり、「コンピュータサイエンスの学位なしで、どうやってGoogleのエンジニアに?」という質問が多数寄せられたためGoogle入社の経緯も公開したのだ。

Androidの人形で有名なGoogleキャンパスのAndroidチームのオフィス

バイトウ氏の場合、大学中退が出遅れの始まりではない。まず高校のGPA(成績評価点平均)が2.45と低すぎて、希望の大学に入れなかった。ちなみにGPAは、各科目のA(優)を4、B(良)を3、C(可)を2とポイント化して平均を算出したもので、大学進学を目指して3未満は厳しい数字と言わざるを得ない。結局、同氏はパデュー大学のサテライトであるパデュー大学カルメット校のコンピュータサイエンス(CS)科に通い始めた。その時にWebサイト作成のアルバイトをしていた会社で作ったゲームの買い取りを提案してきた会社に、自分を売り込んだところ採用され、わずか2学期だけで大学を中退してカリフォルニアに向かったのだ。それが後々、良くも悪くもエンジニアとしてキャリアを切り開くのに影響した。

「正式なCS学位を持っていない私は、基本的な知識が不足していた。例えば、物理エンジンをインプルメントしようにも、ダイナミックプログラミングの問題を自身で解決することはできなかった。そのギャップを埋めるために、私は人から聞いたり、調べたりして得たデータ構造やアルゴリズムの知識を総動員した」

「誰もが欲しがる卒業証書、それを持たない私には"ホンモノのエンジニア"ではないという葛藤があった。もしGoogleに雇われれば、それを乗り越えられると思って申し込んだ」

上は悪い影響。でも、CS学位がないというコンプレックスを抱えていても、バイトウ氏がコーディングを止めることはなかった。Googleの入社までの経緯や、面接試験時の様子は同氏の記事を読んでもらうとして、学歴のハンデに苦しみながらも同氏はDouble Helix、Namco Bandai、Google、Obvious、Squareなどでエンジニアとしてのキャリアを積むことに成功した。記事の中で同氏は、修得すべき言語やチートシートの活用、参照すべきリソースを勧めているが、それらはTipsに過ぎない。ハンデを乗り越えられるかは、ABC (Always Be Coding)なのだ。長時間、常にコードを書いていても苦にならない。問題を解決するのが楽しい。それができる人なら、多少のハンデを抱えていてもいずれチャンスが訪れる。Tipsやテクニックも覚えれば、チャンスをつかむ確率がグンと高くなる。「好きこそものの上手なれ」だ。

バイトウ氏の2つのコラムを読むと、逆の問題の存在に気づかされる。ABCが楽しくない人、苦痛な人は、たとえCSの学位を持っていても、その資質の不足が後々トラブルになり得る。もしシリコンバレーで本当に成功したいと望んでいれば、ABCは欠かせない。学歴の不足は経験などを通じて後々埋められるが、ABCは努力でなんとかなるようなものではない。

最近、我が家の目と鼻の先に新しくGoogleのオフィスが開設され、またたく間に隣近所に住む人たちがGoogle社員になってしまった。それで、彼らの日常に触れる機会が増えたのだが、関心するほどよく勉強する。ウチの隣りの場合、調べ物がインターネットでは間に合わないと図書館に足繁く通い、いつも本や資料を抱えて歩いているところに出くわす。一人じゃない、夫婦揃ってそうなのだ。Google色が強まったことでウチの周りが大学キャンパスみたいになってしまった。でも、Google社員だから勉強熱心というわけではないようだ。プログラマーとして、一個人でプライベートの時間もコーディングに費やしている。学歴ではなく、こういう人がGooglerになるのだと最近実感させられている。

先週、GitHubのトム・プレストン-ワーナー氏が、世界中に目を向けてこそ最高の才能を集められると述べたことが話題になった。それは正論だと思う。シリコンバレーを目指さなくても、実力と資質を備えたプログラマーがチャンスをつかめる機会は今後増えるだろう。ただ現状ではシリコンバレーほど、ABCに喜びを感じるような人たちが快適に過ごせる場所、交流できる場所は他にはないと思う。それが今でもシリコンバレーをユニークな場所にしている。