Facebook傘下の写真サービスInstagramが20日頃に動画機能を発表すると噂されている。この記事が公開される頃には、もう発表済みかもしれない。Twitter傘下の6秒動画サービス「Vine」に対抗する機能追加だ。モバイルデバイス向けの写真サービスを制して動画サービスに機能を広げるInstagramと、6秒動画という新しいソーシャルメディアを開拓したに過ぎないVine。単純に比べたらVine不利。あっという間に飲み込まれそうだが、今のVineの勢いを止めるのはInstagramでも容易ではなさそうだ。

6月21日に米国で公開されるブラッド・ピット主演の「ワールド・ウォーZ」とDisney - Pixarの新作「モンスターズ・ユニバーシティ」の宣伝にVineが用いられるそうだ。

ADWEEKは「Marketers Have Found a Way to Use Vine Box-office yields」(ボックスオフィスに利益をもたらすVine活用法を見つけたマーケッターたち)という記事で、Vineを使った広告がこの夏にブレイクする可能性を伝えている。

「マーケッターが飛びついたセカンドライフがブレイクしたか?」という声が聞こえてきそうだが、まさにその通り。アーリーアダプターの盛り上がりに広告代理店が飛びついても、一時的に話題になっただけで、一般にユーザーを広げられずに消えていったサービスは枚挙にいとまがない。アーリーアダプターは理屈で動く。作り手の先見性やセンス、使われている技術や機能、ビジネスモデルなどを評価してくれる。一方、ごく普通の人たちは気持ちで動く。理屈ではない。だから、よくできていているサービスがブレイクできずに終わったり、逆に完成度が低くともユーザーの気持ちに届くものがあると一気にブレイクしたりする。

下のVineビデオは、ブラジルの抗議デモの様子だ。このビデオは投稿されると瞬く間にTwitter上を広がった。

ニュースや新聞で報道の写真を見た人は多いと思うが、決して映りが良いとは言えないこの6秒ビデオの方が抗議デモの規模の大きさをダイナミックに伝えてくれる。

「ハドソン川の奇跡」がTwitterのアクセス数を跳ね上げた時は「Twitterって何?」という人も多かったが、Vine動画は見てすぐにVineとは何かが伝わる。それゆえに入りやすい。かつてGoogleが「Google it」(ググる)と動詞として使われたように、Twitter上で「Vine it」と使われているのを見かけることも増えてきた。

Vineユーザーとは?

VineユーザーはVineを使って何をやっているのか? そう考えたハッカーのJohn Muellerleile氏がTwitterデータを10日間クロールして約400万のVineビデオを収集し、「vinecrawler」というデータベースを作成した。誰でもタグやメンション、キーワードで検索できるように公開されている。

Vineユーザーのサンプル「vinecrawler」

Vineユーザーは1日におよそ1200万本のVineビデオをTwitterに投稿しているというので、vinecrawlerはサンプルとして小さすぎるが、それでもVineユーザーの大まかな傾向をつかむ資料にはなる。

「たくさんの人がVineを使っている。自分みたいなシリコンバレーのいかした奴のことを言っているんじゃない。普通の人のことさ。地域、収入、性別、年齢、人種、経歴、あらゆるタイプの人たちがいる」とMuellerleile氏。

まんべんなく、数多くの人に使われている理由として同氏は秀逸なユーザーインタフェース(UI)を指摘する。録画と停止のコントロールは指1本、画面に触れたら録画、離せば停止。記録したいもの、共有したいものにスマートフォンを向けて、指1本の操作を繰り返すだけ。「テクノロジーがぴったりとはまっていれば、それはあらゆるところに広がっていくと思い知らされた。自然で、直観的に使える。考えようによっては魔法のようだ。マグネット、重力、少し人生にも似ているところがある」とべた褒めだ。

画面をホールドしたら動画撮影開始、離したら停止。6秒の間で何回でも撮影できる

vinecrawlerを試したAtheatlantic.comのAlexis Madrigal氏の感想はちょっと違う。「私にはVinersと呼べる世代が目立っているように思えた。夏の昼下がりのモールのフードコートよりも、全体に対するティーンエイジャー率が高い (※ティーンエイジャーがものすごく多いと言いたい)。どう判断すべきか結論はまだ出ていないが、Vineは20代後半から30代前半のいわゆる"デジタルネイティブ"ですら移民のように思わせる最初のソーシャルメディアではないか」としている。

筆者もまんべんなくというよりは「Vinersは若い!」と思った。Instagramの動画機能追加の噂に対するコメントを読んでいると、熱心なInstagramユーザーだったけど「最近は面倒……」と告白している人も多い。Facebookが若さをキープしたくて買収したInstagramだが、とたんにユーザーの間で「Instagram疲れ」が見られるのはデジタル世代のスピードを実感させられる。

Instagramの噂が本当だったとして、でも「Vineのような……」と呼ばれるサービスでしかなかったら、Instagramは20代後半から30代前半のためのサービスで終わりかねない。とはいえ、Instagramもかつて写真でモバイルデバイス世代に革新をもたらしたサービスだった。もしVinersの気持ちに訴えるような独自のショート動画サービスを打ち出してきたら、とても面白いことになりそうだ。後者が起こることを期待したい。