Oha.naというビジュアルニュースレターを作成して家族や友だちに送るサービスを開発していたGaston LabsがFacebookに加わった。このニュースに気づいた人は少ないと思う。Gaston LabsはBusiness Insiderの「シリコンバレーのスタートアップ、注目の25社」の1つに選ばれているが、設立は2012年。まだ生まれたてのスタートアップで、会社というよりチームという規模である。FacebookはInstagramの時のようにサービスを買収したのではなく、Gastonのスタッフをまとめて雇用したようなものなのだ。だから、ニュースとしてほとんど報じられていない。しかし、シリコンバレー周辺ではちょっとした話題になった。というのも、Gaston Labs共同創設者の1人David Weekly氏はHacker Dojo (ハッカー道場)の道場主なのだ。

知らない人の多くは「ハッカー道場」と聞いて危ない集団を思い浮かべるようだが、Hacker Dojoは「ギークのための非営利コミュニティセンター」、具体的にはプログラマーや起業家のためのコ・ワーキングスペースである。Wi-Fi接続のブロードバンド回線が完備されていて、広いスペースにテーブルや机、ビーンバッグ、卓球台、バーベキューセット等々が置かれている。コピーやFax、サンプルやプロトタイプ作りに必要なツール類も揃っている。試作したモバイルアプリを試すために、モバイル端末を借り出すことも可能だ。イベントやクラス、交流会も充実していて、数年前にはまつもとゆきひろ氏の講演が行われた。公式イベント以外にも普段から道場のいたるところで、様々な集まりやプロジェクトが見られる。メンバー料金は月額100ドル。メンバーになると24時間いつでも自由に施設を使用でき、無料でイベントやクラスに参加できる。メンバー以外は、オフィス時間(月-金、8AM-10PM)の間なら1日10ドル(寄付)で利用できる。

閉鎖騒動のあった前Hacker Dojo。改修費用は集まったが、最終的には同じマウンテンビュー内でより便利な建物に移転した

現在のHacker Dojo。少し狭くなったものの、裏にネット/電源を無料で使える大きなカフェがあるなど便利になった

コ・ワーキングスペースとしては設備もサービスも乏しい。プログラマー/エンジニア向けになっているものの、単純にオフィスとして使うならもっと実用的な選択肢がいくつもある。しかし、そこに集うメンバーがHacker Dojoをユニークなものにしている。場所はGoogle (本社)、Microsoft、Symantec (本社)、LinkedInなどのほか、EyeFi、Bump Technologies、Looptなど数多くのスタートアップが拠点を置くマウンテンビューである。スタートアップ専門の投資会社YCombinatorのオフィスも近い。ギークたちが夜な夜な集まって、趣味のプログラミングやモノ作りに興じる。有名になって住みにくくなったシリコンバレーにおいて、昔のガレージ起業の雰囲気が残された場所であり、まさにギークたちのコミュニティセンターになっているのがHacker Dojoの魅力だ。例えば、Pinterestの構想がHacker Dojoで練られ、話題のスマートウオッチPebbleの開発チームはDojoを西海岸の拠点にした。

昨年、Hacker Dojoが閉鎖の危機に陥った。どうも設立時に集会を行う場所として登録していなかったようで、1つの部屋に50人以上が集まるイベントを行うには施設の対応が不十分であると市から指摘された。設備投資に必要な費用は25万ドル。ローカルニュースに取り上げられたりもしたが、その調子は「消えゆくギーク・コミュニティ」という感じだった。ところが、すぐにたくさんの個人や会社がサポートを表明。Kickstarterでの資金集めも成功した。その時はHacker Dojoが生き残ったこと以上に、Hacker Dojoコミュニティの予想外のパワーと大きさが話題になった。

Hacker Dojo創設者のDavid Weekly氏は起業家としても注目されているが、シリコンバレーにおいてはプログラマー/エンジニアの愛すべきコミュニティを作り上げた人物として評価されている。そのWeekly氏がFacebookのPlatformチームに加わった。Facebookのエコシステムを育む役割を担う部門であり、サードパーティとの関係作りが重要なポイントになる。

開発者との関係再構築に乗り出したFacebook

振り返ってみると、Facebook Connectの開発者の1人であるDave Morin氏 (現Path CEO)が3年前にFacebookを離れた頃から、次第に同社のクローズドな部分が強まり、サードパーティの開発者がFacebookに振り回されるようになったと思う。Facebookに対する開発者の不満が募り始めた。

ネットに浸透するのが主目的だったスタートアップから、商業的な成功が問われる企業への成長の痛みなのかもしれない。だが、Facebookの急成長を支えたのはサードパーティの開発者である。2007年の第1回のF8カンファレンスでFacebookがソーシャルグラフの概念を打ち出し、それにサードパーティが呼応してから快進撃が始まったのだ。

いまFacebookはモバイルに市場を広げようとしている。そこで、ふたたび(モバイル)開発者との関係づくりを模索し始めた。それは、モバイル向けのサービスやアプリをフィーチャーした最近のFacebookの発表会の様子から明らかだ。Weekly氏がFacebook Platformチームでどのような役割を担うのかは不明だが、開発者との共栄を探るのに適した人材であるのは間違いない。またGaston Labsを打ち切ってまで、同氏にFacebook入りを決断させたものにも興味を引かれる。おそらく今年はF8カンファレンスが開催されるだろう。はたして2007年のサプライズを再現できるか。その内容が今から楽しみだ。