2006年1月にRSSリーダー「SearchFox」からサービス終了のメールを受け取ったMichael Arrington氏がTech Crunchで以下のようにコメントした。

「RSSリーダー市場にはいくつもの様々な選択肢が登場し、激しい競争が繰り広げられている」

たしかに当時、RSSリーダーはWebで発信される膨大な情報を効率的にフィルターする"未来"だった。ところがほんの7年前のことなのに、いま読むと違和感しか残らない。原因は、2005年10月に登場したGoogleのフィードリーダーサービス「Google Reader」である。いきなり"強力な無料サービス"との競争を強いられたことで、当時次々にRSSリーダー市場に参入したスタートアップが一掃されてしまった。どんなサービスが激しく競争していたのか、今ではさっぱり思い出せない。

さて、Googleが2回目の春の大掃除でGoogle Readerの終了を告知した。7月1日から同サービスを利用できなくなる。筆者はGoogle Readerのヘビーユーザーだ。本家のWebアプリに加えて、Google Readerクライアントの「Reeder」「Mr. Reader」も使っているから正直ショックだった。

Google Readerを開くと現れる通知でサービス終了を知った人も多い

終了の理由として、GoogleのUrs Holzle氏 (Googleフェロー)は「近年の利用者の減少」を挙げた。それは筆者も実感していた。気になったサイトを登録し続けていると、すぐに未読記事でGoogle Readerが埋めつくされる。価値のある情報を掘り出しにくくなるばかりで、効率的に情報を収集できているとは言いがたい。一方でSNSから活きのいい情報を得られるようになり始めて、RSSリーダーの重要性が急速に減少していた。

ただ、その「利用者の減少」を生み出したのはGoogle自身だろ……と言いたくもある。RSSリーダーの標準と呼べるようなサービスなのに、どうもパッとしない。RSSリーダー市場の進化を牽引しようというGoogleの"やる気"がさっぱり感じられなかった。Reederのような素晴らしいクライアントが登場しているものの、エコシステムが繁栄するような環境を整えているとは言いがたく、同期の障害などトラブルが少なからず起こっていた。市場シェアトップのサービスなのに、使っているとGoogleがそれほど重要視していないのが伝わってくる。なんとも、もったいないことである。フィードの表示方法、ユーザー体験、サードパーティとの連携など、Google Readerを向上させる余地はまだまだあったと思う。

完成前からキャンセルに直面していたGoogle Reader

Googleが2回目の春の大掃除を発表した日に、Google Readerの生みの親と言われるChris Wetherell氏のインタビューをGIGAOMが掲載した。タイトルは「Google Reader lived on borrowed time」。「九死に一生を得て生きのびたGoogle Reader」という感じだろうか。とにかく最初からGoogle経営陣はGoogle Readerに懐疑的で、プロジェクトチームは製品完成前からスケジュールが遅れたらキャンセルというプレッシャーをかけられていたそうだ。それは製品公開後も続く。常に打ち切りの危機に直面していたから、これほど長くGoogle Readerが生き残れることなど想像できなかったと述べている。

Google Readerを延命させたのは熱心に使い続けたユーザーである。開発チームはGoogle Readerのデータをマネタイゼーションするチャンスを感じていたという。現在TwitterのCEOを務めるDick Costolo氏 (創設したFeedBurnerを07年にGoogleが買収)が、当時Google Readerに関してたくさんのマネタイゼーションのアイディアを出し続けた。それにも経営陣は耳をかたむけず、2007年にGoogle ReaderはGoogleラボを卒業したものの、そのビジネスモデルが模索されることはなかった。

こうしたインタビューを読むと、Google Readerの終了はむしろ歓迎すべきことと思えてくる。Google Readerの終了によって、RSSリーダー市場はしばらく混乱するだろう。Google Readerが支配的なサービスだっただけに、まずはGoogle Readerユーザーを引き継ぎ、Google Readerの機能を再現するようなサービスに注目が集まると思う。しかし、Google Readerの亡霊を追いかけるだけでは、Google Readerが発展的な成長を遂げられなかったこれまでと何ら変わらない。

Google Readerの終了宣言で「RSSは終わる」というような声も耳にするが、むしろ逆ではないだろうか。たとえRSSリーダーを使わない人でも、別の形でRSSを使っているはずだ。ポッドキャストだったり、Flipboardのようなニュース閲覧サービスだったり、電子雑誌の購読、アプリケーションのアップデートなど、様々な用途でRSSは活用されている。

RSSは十分に完成された技術であり、シンプルで安定していて、数年前のコードが"今でもしっかりと機能"する。セキュリティを脅かす深刻な脆弱性も存在しない。また、誰でもRSSを用いたサービスやアプリケーションを開発できる自由でオープンな技術でもある。RSSはネットの理念に沿ったオープンで柔軟なインフラであり、TwitterやFacebookのクローズドな仕組みに左右されることが増えた昨今、そこに魅力を感じる開発者は多いはずだ。また7年前と違って、今やサーバ側の導入コストが下がり、小規模の企業でも自前でRSSサービスを展開することが不可能ではなくなった。

Google Readerの終了に、Googleがこのタイミングを選んだ理由は分からない。ユーザー離れが進んでいるとはいえ、今でもRSSリーダー市場が健在なのは終了宣言後の騒動で明らかだ。ただ、このままGoogle Readerが停滞し続けたら、いずれGoogle ReaderがRSSリーダー市場を枯れ果てさせるだろう。

Googleが提供するReaderだから、ユーザーはそれなりに満足し、Googleに挑戦してまでRSSリーダー市場を奪おうという新サービスも現れなかった。言うなれば、RSSリーダーは負のスパイラルに陥っていた。Google Readerの終了によってRSSリーダー市場にはぽっかりと大きな穴が空く。しかし、市場が元気な今なら「Webサイトやブログからすばやく、そして効率的に情報を得る」というRSSリーダー本来の目的において、RSSの価値を生かした発展的なソリューションが成長し得る。再び「競争」と「選択」の時代が訪れるという期待を持てる。