5時間がかりで、ようやくGoogleのNexusブランドの最新スマートフォン「Nexus 4」の購入が完了した。実店舗に並んだのではない。オンラインストアなのに5時間超である。

今回は米Google Playストアの再入荷分である。初回分の「数分で完売!」という報道が効いて購入希望者が殺到したのか、同ストアが買い物客に全く対応できなかった。正午の販売開始と同時にエラー表示が出始め、たま~~に商品をカートに入れられるものの、支払いに進むとカートから消えてなくなる。商品ページに戻ると「完売」という表示。しかし、ページを数回読み込んでみると購入ボタンが現れる。

そんなことをしばらく繰り返していたら、ストアページの最上部に「処理の障害でご迷惑をおかけしていますが、Nexus 4はまだ完売していません」と表示されるようになった。そんな案内を出せるなら「完売」が表示されないようにできないのかなと思いながら40分。少し落ち着いてきたらしく、カートに入れた商品が消えなくなった。それでも支払いには進めず、代わりに「支払いは、後ほど済ませてください」と出てくる。結局、5時間後に支払いに進めるようになって完了した。

オンラインサービスがダメだ、ダメだと言われるAppleでも、iPhoneやiPadのオンライン予約はスムースなものだ。Google Playストアの、この混乱ぶりは一体どうしたことだろう。

肝心な機能が欠けた最新Nexusスマートフォン

筆者がNexus 4を購入したのは端末に惹かれたからではない。GoogleのAndroid戦略の今後を左右する端末として興味を覚えたからだ。

Nexus 4はLGのOptimus GをベースにしたハードウエアにAndroid 4.2を搭載した最新のAndroidスマートフォンである。Nexus携帯なので通信キャリアや端末メーカーの色に染まっていない"ピュアGoogle"の状態で利用できる。しかも8GBモデルが299ドル、16GBモデルが349ドルと、アンロック状態のスマートフォンとしては安い。

「Nexus 4」高性能かつ自由で、そして安い。運良く初回入荷分を手にできたユーザーの反応も良好である

しかし、Nexusスマートフォンとしては不完全なのだ。LTEをサポートしていない。他のAdnroid端末ならともかく、最新のAndroidの力を存分に引き出す役割を担うNexusブランドの最新スマートフォンに、現時点でスマートフォンのフラッグシップ機能と呼べるLTEが欠けている。ちぐはぐである。それでもNexus 4として発売したところに、今GoogleがNexusで直面している課題が現れている。

The VergeからLTE非対応について問われたAndroidチームを率いるAndy Rubin氏は、現状のLTEを幅広くサポートすると通信部品が増えて端末の薄型・軽量が難しくなり、またLTEの消費電力も問題になると説明した。LTE機能を備えたGalaxy Nexusは「十分に満足できるユーザー体験を提供できなかった」とも述べている。

これは昨年、AppleがLTE非対応のiPhone 4Sをリリースした後に、Apple CEOのTim Cook氏がLTEについて語った内容に近い。でも、それは1年前のことだ。今年AppleはよりスリムなiPhone 5にLTE機能を搭載し、最小限のモデル数で幅広い市場に対応している。NexusのLTE対応も決して不可能ではないはずだ。そのため、Rubin氏の説明を「言い訳に過ぎない」と見る向きが多い。

VergeのDieter Bohn氏は「Nexus 4でGoogleはハードウエアを売ることに本気で取り組んでいるが、通信キャリアとの駆け引きにはそれほど真剣ではないようだ。LTEを機能させるにはキャリアの説得が不可欠である」としている。John Gruber氏の指摘はもっとストレートだ。「LTE対応はGoogleがコントロールできる範囲ではない。キャリア次第であり、キャリアに"ノー"と言われたのだ」。

Googleはスマートフォン市場を席巻するiPhoneに数で対抗するために、通信キャリアや端末メーカーに自由を与えてきた。Androidをコントロールする権利を渡したと言っても過言ではない。結果的にAndroidデバイスの断片化が起こり、それが対応アプリ開発の妨げになり、ユーザーの使い勝手にも悪影響を及ぼした。

そこで路線を修正し、昨年から同社はユーザー体験に軸足を置いて、Androidおよびそのエコシステムのコントロールを徹底しようとしている。Nexusは、それを具現化する存在である。だが、一度得た自由を通信キャリアが簡単に手放すはずがない。GoogleはNexusでピュアGoogleとユーザー体験の追求にこだわり、キャリアはGoogleによるコントロールを警戒した。その結果がLTEを使えないNexus 4である。

AppleはiOSとエコシステムのコントロールを維持しながら、通信キャリアと対立することなく、むしろキャリアの協力を得ている。それは長い時間をかけて、同社が通信キャリアを攻略してきた結果である。米国ではAT&T Wirelessとの独占契約からスタートし、iPhoneの爆発的なヒットを武器に、Appleの言い分を飲むキャリアを少しずつ増やしてきた。今でこそiPhoneを取り扱わないキャリアに逆風が吹くような状況だが、かつて逆風を受けていたのはAppleの方だった。

スマートフォン市場でのシェアではAndroidがiPhoneを上回っているが、それはAndroid全体とiPhoneの比較である。ピュアGoogle(=Nexusブランド)なスマートフォンのシェアは小さく、Nexusスマートフォンにキャリアを従わせるような力はない。むしろGoogleには初期のAndroidをサポートしてくれたキャリアに対する恩義が、まだ重しになっている。

プラットフォームのコントロールする力という点では、AppleとGoogleの差はまだまだ大きい。その差を縮めるためには、AppleがiPhoneの1キャリア独占から、キャリア間でiPhone取り扱いの奪い合いを生み出したようなキャリア戦略がGoogleにも求められる。Bohn氏が言うようにGoogleが「通信キャリアとの駆け引きにはそれほど真剣ではない」のだとしたら残念なことだが、LTE非対応のNexus 4の投入は消費者への直接的なアピールであると期待したい。

現時点でNexus 4の販売台数は不明だが、この販売の混乱ぶりから想像するに相当な人気であるようだ。通信キャリアのサービスに縛られず、自由に使えて、価格が手頃なスマートフォンが消費者に支持される証である。それを武器に、次は通信キャリアとの駆け引きだ。今は、米携帯4位のT-Mobile USAがNexus 4の取り扱いキャリアとなっているが、米国市場を制しようというような野心あふれるキャリアと組んでこそ理想的なNexusスマートフォンを実現する道が開ける。その点ではソフトバンクが買収に乗り出して話題になったSprintは、4G戦略に舵を切り、また現在の上位2社(AT&T、Verizon)による米モバイル市場独占を崩そうと意欲的なので面白い存在である。

キャリア戦略を含めてGoogleが理想とするNexusスマートフォンを設計できるようになってこそ、(Androidではなく)Nexusを擁するGoogleが本当の意味でAppleの脅威になり得る。それは全てのスマートフォンユーザーにとって、歓迎すべき競争になるはずだ。