Amazon.comのジェフ・ベゾスCEO

「多くの場合において正しい判断を下す人は、ひんぱんに考えを変えてきた人である」。

先週の木曜日にAmazon.comのCEO、Jeff Bezos氏がシカゴにある37signalsの本社を訪れ、90分にわたって同社のスタッフに製品戦略について語り、最後にスタッフからの質問に答えた。その中のアドバイスのひとつが冒頭の言葉である。

「change one's mind (考えを変える)」は"移り気"と受け止められ、リーダーの資質として一般的に歓迎されるものではない。誰もがブレないリーダーを求め、信頼する。しかしBezos氏は一貫して変わらない考えを良しとせず、「今日のアイディアと相反するアイディアを明日に信じていたとしても、それは健全なことであり、むしろ(そうした柔軟さを)勧めている」という。

Bezos氏がこれまで賢明だと感じた人々は、その考えを継続的に修正し、すでに解決した問題ですら見直しを繰り返す。新しい視点(new points of view)や新しい情報、新しいアイディアにオープンであり、自身のそれまでの考え方を否定することや矛盾を恐れない。

これは一本筋の通った考えを持つことを否定しているのではない。Bezos氏のいう「ひんぱんに考えを変える」とは、確固とした自分の考えを持つのが前提であり、しかし大きな区切りに到達しても、それをゴールとは見なさない。自分が到達した考えは一時的なものであると自覚する柔軟さも、また大切であるという意味だ。

ForbesのテックブログでBezos氏のアドバイスを取り上げたAnthony Wing Kosner氏は、フローモデルに喩えて説明している。「人のマインドを気流や海流のようなフローシステムのようなものだと見なすと、Bezos氏のアドバイスは分かりやすい。情報や他の人々との交わりが、マインド(の形)を文字通り変えていくのだ」。「彼ら(正しい判断を下せる人)は、新しい情報の流れによって、そのマインドの形が変化していくのを厭わない」。

473回: 7.85インチのiPadとマジックプライス"199ドル"」で、Steve Jobs氏が過去に一度は否定したものを製品として世に送り出した例がいくつもあると紹介した。例えば、動画再生機能を備えたポータブル音楽プレーヤー、携帯電話、電子書籍リーダーなどである。矛盾ではあるものの、ある種の否定は関心や興味の裏返しなのだ。

では逆に、Bezos氏が成功を危ぶむタイプはというと、1つの視点にこだわり、細部にとらわれる人である。「細部に陥ることから脱し、様々な角度からものごとに接して大局を見通せなければ、往々にして判断を誤る」。

Apple、MS、Googleの「change their minds」の行方は?

今週から来週にかけて、Apple、Microsoft、Googleが大きな製品発表や製品リリースを行う。それらでは「change their minds」が話題のひとつになりそうだ。

米国時間の23日にAppleが開催するスペシャルイベントでは、2010年にJobs氏が完全否定した7インチタブレットに相当するサイズのiPadの登場が予想されている。「スマートフォンと競争するには大きすぎるし、iPadと競争するには小さすぎる」とJobs氏が指摘した小型タブレットについて、同社がどのような存在意義を与えるかが注目である。

26日にMicrosoftがWindows 8の一般提供を開始するが、米国では同時にWindows RTを搭載した10インチタブレット「Surface with Windows RT」が登場する。OSライセンスをビジネスモデルとしていた同社が、初めてパソコン分野において自らハードウエアを投入する。垂直統合と呼べるようなモデルへのシフトに、拒否反応を示すPCベンダーも現れている。

29日にはGoogleがニューヨークでイベント開催を予定しており、Nexusブランド製品の大幅な拡充が予想されている。Androidがオープンなモバイルプラットフォームであることに変わりはないものの、"ピュアGoogle"を訴求点とするGoogle印のNexusファミリー製品が、今やAndroidの大きな流れになろうとしている。

「change their minds」は、パートナーやユーザーから"裏切り"と見なされる可能性をはらむ。Apple、Microsoft、Googleのいずれの変化に対しても、「あの時のあれは何だったんだ」という批難が出てくるだろう。しかし細部にこだわると、大局が見えてこない。矛盾のようでいて、実は技術の進歩やユーザーの変化、環境の変化などに応じて考えを修正した末の判断の場合もあるのだ。今回の3つはいずれも、それに当てはまる (流れを読み切った上での、現時点で正しい判断であるかは別として……)。過去にこんなに大きな流れが、同じタイミングで変わろうとしたことがあっただろうか。当然、フロー同士の変化も互いに作用する。気象や潮流が変わるような規模の大きな変化が、いまモバイルの世界で起きようとしている。