母の日企画で、ReadWriteWebに「The Best Mother's Day Gift Is A Six-Figure Blogging Income (母の日の最高のプレゼントはブログで6桁の収入)」という記事が掲載された。意訳すると「ママ・ブロガーにとって最高の母の日のプレゼントは、ブログに書けるネタを家族が提供してくれること」という感じだろうか。何だか身も蓋もない話だが、2009年頃から米国でもママ・ブログが急成長し始め、今や広告主にとって小規模なマーケティング費用で大きな見返りを期待できる市場になっているという。"収入6桁"のママ・ブロガーは「いるらしい……」という噂だけで、記者が取材した中で確認はされていないのだが、あるママ・ブロガーは「(ビジネスとして)ブログは書き続ける価値がある」と断言している。

しかし2009年というと、SNSに押されてブログが下火になり始めた時期だし、それよりずっと前からママ層にもインターネットは浸透していた。それなのに、なぜ近年になってママ・ブログがビジネスとして巨大になっているのだろうか?

Googleのニュース製品の責任者であるRichard Gingras氏が11日にハーバード大学のジャーナリズムを支援するニーマン財団で講演を行った。その中で同氏は、ソーシャルネットワークが活用されるようになってコンテンツ単位の情報の流れが加速し、それが広告主からの支持も得ていると指摘した。まさにママ・ブログは、その成功例の1つに当てはまる。

万人のための新聞という形を捨てる

Webサイトを通じて最新のニュースが無料で配信されるようになって、従来の新聞のビジネスモデルが崩壊の危機を迎えている。だが、Gingras氏はこれを2つの別々の時代と見なすのは誤りであると指摘する。時代が違うと捉えるのは、自ら過去にとどまっているに過ぎない。実際には何事もテクノロジと共に継続的に変化しているのであり、成功している企業や組織は過去に囚われず、変化の中で前進する。

だから同氏は、従来の形のまま新聞をWebに展開し、また従来の形の新聞をタブレットなどでも読めるようにする垂直型モデルに懐疑的だ。新聞が変えるべきは「万人向けに話題を網羅して提供する」という形だという。

一般紙は、政治・経済・社会・スポーツ・芸能、生活、3行広告など、あらゆる情報を扱い、あらゆる人が読者になるようにまとめている。まるでポータルサイトのようである。しかしWebにおいてはポータルは、すでに過去のものだ。インターネットが一般に普及し始めた時期にポータルでYahoo!が台頭した。だが、今のYahoo!にかつての勢いはない。「コンシューマが自らWebをナビゲートする方法を知り、自分の興味を満たすニッチなサイトを見つけ始めると、ポータルは不要になり、そして消えてしまった」(Gingras氏)。新聞もポータルのようなままでは、今のWebユーザーには受け入れられないだろう。Epicurious (レシピ)、Bleacher Report (スポーツ)、Business Insider(ビジネス)、PopSugar(芸能・スタイル)、Gawker (ゴシップ)、CafeMom (出産・育児)など、人気の高いWebサイトやブログは、新聞社のニュースサイトからの情報も利用しながら、ある分野に絞り込んで豊富な情報や話題を提供している。

今や発表イベントに多数のブログメディアが招待され、会場からのライブブロギングも当たり前に

3年前(2009年)は一般的なニュースサイトのトラフィックの半数が、サイトのホームページに集まったユーザーからもたらされていた。残りは20-25%が検索から、30-35%が記事ページを直接訪れた人たちで、ソーシャルネットワークからのトラフィックは存在しなかった。それが今はホームページの来訪者が25%に落ち込み、検索からが30-35%。残りは記事ページに直接アクセスする人たちで、その大部分にソーシャルネットワークが絡んでいる。

自分の興味のある分野やトピックを扱うWebサイトやブログを日常的に訪れ、それらが紹介する記事や、同じことに関心を持つ人たちから流れてくる情報をつたって、様々な新聞サイトの自分向きの記事だけを読む。コンテンツ単位で情報が流れている。

いかにもGoogleニュースの責任者が言いそうなことだと思うかもしれないが、Gingras氏はSalon Media GroupのCEOだった人で、かつての新聞のようなジャーナリズムをWebで実現しようと試行錯誤し、失敗を重ねた。講演の内容、特に今の新聞へのアドバイスにはその経験が良く反映されている。

今や出版の壁は崩壊したと言える。印刷して新聞を発行するようなことが、ネットによって誰でもできるようになった。だが、聞いたことをそのまま伝えることが、すなわち出版する能力ではない。オリジナルコンテンツを作るには時間と費用がかかり、適性も影響するのは昔も今も変わらない。だからこそ、優れた記者を抱えた新聞社の衰退が危惧されているのだが、Gingras氏は「コンテンツ市場は限りないほど巨大で、しかもコンテンツ作りは高くつく(誰でもできることではない)。ならば、(新聞社は)それをうまく利用することだ」と述べる。

例えば、Evergreen(いつまでも新鮮な)な記事ページだ。炭疽菌に関してWashington Postは資料性の高い優れた記事を数多く掲載してきたが、「Anthrax (炭疽菌)」を検索すると、Wikipediaの該当記事を下回る。新聞社はWebサイトでも紙の新聞と同じように毎日新しい記事を提供し続けるので、公開した日を過ぎると記事が急速に新鮮さを失ってしまう。Wikipediaでは同じ記事が継続的にアップデートされ、いつでも最新の記事と見なされる。

だが、新聞にも長く読み続けられるべき記事やトピックが多数ある。そのようなトピックを同じURLに固定して提供する。もちろん時間とともに手直しや情報の追加が必要だから、プロ(記者)が内容をアップデートする。例えば「スマートフォン徹底比較」というような記事でも、固定したURLでアップデートし続けると、いつでもそこにアクセスすれば最新の比較情報を確認できるので読者にとって便利だ。ある製品のレビューを検索したら歴代モデルのレビュー記事が並び、最新記事を探し直した経験を持つ人は多いと思う。

ブログやSNSに記事を浸透させるのは、商業的に傾くと見なされがちだが、価値のある記事は評価される。ここで言う価値とは、コンテンツの情報としての価値だ。ただ、新聞記事の価値には新聞社の看板による裏書きも含まれる。ところが、今のネットユーザーは看板(ホームページ)を見ずに、コンテンツを読んでいるのだ。看板に頼り切っているような記事は嫌われる。だから、記者が知識を持つプロであることが記事から伝わってくることもポイントになる。Webで人気の高い記者の記事というのは、背景にある知識や取材内容がにじみ出ていて、看板に関係なく面白い。

EveryBlock創設者のAdrian Holovaty氏がWashington Postでインターンを務めたときに、地域の公立小学校に関する調査記事に合わせて、読者が自分たちの子供が通う学校を調べられるページを用意した。記事以上に読者をトピックに結びつける機能といえるが、Postは紙面での記事掲載終了と共に専用の検索ページを閉じてしまった。公立学校の問題はその後も続くことであり、検索機能があれば、そこから特集記事や関連記事に読者を呼び込め続けたのに、その価値に当時のPostは気づかなかったのだ。工夫次第でWeb上の記事は単なるストーリー以上の役割を担う。

ここでは紹介しきれないが、ほかにもGingras氏はWeb版やデジタル版のフォーマット、トラフィックと売上げを最大限化する課金モデルと無料記事の組み合わせなどにも触れている。出版に関わる人だけではなく、普通のネットユーザーにも、こんなニュース配信があったら役立つだろうと思わせる内容なので、興味がある人は全てを確認して欲しい。

そうそう、Gingras氏の講演は小規模なもので公開もされていないが、参加したMITの研究者のライブブロギングなどによって、その内容は瞬く間にジャーナリズムに興味を持つ人たちに広がった。