Appleの次期OS Xが"Mountain Lion"と名付けられて(OS Xの通称はすべて猫科の名前)、シリコンバレーではニヤりとした人が多かったと思う。出るのだ、時々。マウンテンライオンが……。まさに今朝、ロスガトスの住宅街で木の上で横たわるマウンテンライオンが確認されたとローカルニュースで報じられていた。

シリコンバレーに移ってきたときに、テレビで「マウンテンライオンが目撃されたので注意してください」と呼びかけられていて、聞いたことのない単語に「マウンテンライオンって何だろう?」と思った。この辺は海が近いから、言葉の感じから真っ先に思い浮かんだのがシーライオン(=アシカ)。そのマウンテン版だから、陸に上がっていつも寝転がってるアザラシみたいなものかな……とのん気に想像していたら、そんなかわいらしい動物ではなかった。数時間後のニュースで重傷者が出たと報じられ、あわてて調べてみるとマウンテンライオン=クーガー/ピューマ。見かけはライオンというより普通の猫に近いが、意外と大きく、成人男性の頭を丸かじりしたという出来事も過去にあったようだ。そんな怖い動物がひょっこり出てくると知って以来、ジョギングの時とかに茂みで「ガサっ」とか音がすると思わず「ビクっ」である。

最近は少ないが、00年代前半から中頃には春から夏にかけて度々マウンテンライオン警報が出ていた。シリコンバレーでマウンテンライオンと言えば、「突然アタックしてくる猫」なのだ。だから、なんの噂も、前触れもなく、いきなり現れ、そして夏後半にリリースされる次期OS Xは、まさにマウンテンライオンである (実際のところは単なるライオンつながりの命名だと思うが……)。

アタックといえば、Mountain Lionにいきなり襲われたと思った開発者もいたのではないだろうか。OS X LionでiOSの機能をMacに取り込む"Back to the Mac"に乗り出してから、AppleはOS Xへのサービスの統合に積極的だ。Twitterのようにプラットフォーム同士が融合している例もあるが、Appleが同社のエコシステムの拡大に貢献してきたサードパーティのライバルに転じた例もある。例えば、Safariの「リーダー」や「リーディングリスト」などは、iOSデバイス向けで人気の高い"あとで読む"サービス「Instapaper」と衝突する。サービス統合はMountain Lionでさらに押し進められる模様で、早くも新機能の「通知センター」によってMac向け通知ソフト「Growl」が危ないとささやかれている。Growlは対応ソフトが多く、重宝して使っているユーザーも多いため複雑な心境を吐露する人が少なくない。

そこがサービス統合の悩ましいところで、これでInstapaperやGrowlが消えていくようなことになれば、Appleのプラットフォーム向けにサービスやソフトを開発していこうというサードパーティの意欲を削ぎかねない。結果、エコシステムの広がりが鈍ってしまえば、元の木阿弥である。

通知センター、メッセージ、リマインダー、メモなど、数多くの新機能を備えた「OS X Mountain Lion」

そのような中、Growlチームを率いるChris Forsythe氏がブログでコメントを公開した。意外なことに、当の本人は通知センターの登場がGrowlにとって新たなチャンスになり得ると考えているようだ。これまでの報道から推測すると、通知センターはMac App Storeで配信されるアプリケーションに利用が限られそうだ。一方、GrowlはMac App Storeで配信されないアプリケーションもサポートし、Growl自体はMac App Storeで販売されているので、幅広いアプリケーションの通知を通知センターに橋渡しする役割を担える可能性がある。また通知を細かくカスタマイズしたい人には、機能豊かなGrowlの方が役立つだろいう。通知センターの登場で通知センターに切り替えるユーザーも多いだろうが、パソコンでの通知機能が一般的に利用されるようになれば、Growlのチャンスも拡がると期待しているようだ。

これは面白い関係である。Appleのサービス統合は、Appleのプラットフォームにユーザーをしばり付けるものである。しかし、それを嫌うユーザーも多い。それにOSへのサービス統合が進めば、独禁法違反うんぬんという指摘も受けやすくなる。Growlは、そうした不満のガス抜きや、抜け道になり得る。Growlにとっては、Mac App Storeに認められている価値が大きいから、Macの利用体験を大きく損なうわけにはいかない。必要以上に抜け道を広げるようなことはしないだろう。

シンプルかつ安全にMacを使いたければ、Mac App Storeの範囲にとどまれば良いし、少ないリスクでもっと世界を広げたければ、GrowlのようなAppleのお墨付きを得たツールという選択肢がある。自由を重視するなら、今ならまだApple IDの世界を最小限に止めることも可能だ。こうした棲み分けがAppleの意図であるかは分からないが、通知センターとGrowlがこのまま共存できるような方向に進むのならば、Appleの箱庭はまとまりのない自由よりも、多くのユーザーにとって分かりやすく、そして快適な世界になるように思う。GrowlがMountain Lionに襲われることなく、共栄の道が開けて欲しいものだ。

ちなみにマウンテンライオンは単独行動する動物なので、本来は無闇に人を襲ったりはしないそうだ。互いのテリトリーを尊重し、自分のテリトリーに人が入ってきてもじっと観察する。ただ人の生活圏とマウンテンライオンのテリトリーが重なり過ぎるようになって、人が襲われ、過去にはマウンテンライオンが害獣として駆逐された。