米国で11月の第4木曜日は感謝祭の祝日だ。翌日からクリスマス商戦の幕が開き、中でも初日はブラックフライデーと呼ばれる1年間で最も盛大なショッピングの日になる。大型セールに買い物客が殺到し、小売店が軒並み黒字になるから"ブラック"である。しかしながら、今年はネット情報とモバイルデバイスを駆使した賢い買い物客に小売店側が苦戦を強いられている。

ブラックフライデーはまだ夜も明けないうちに小売店が開店し、激安商品を狙った買い物客が深夜から長蛇の列を作る。だが、本当に安い商品は限定数で、多くの買い物客は朝早くから繰り出したけど、なんとなく店内をぶらぶらして、なんとなく安いものを買うだけで終わる。その様は、よくカジノにたとえられる。ジャックポットの看板にひき付けられてつい入ってしまうが、大当たりすることはめったになく、でも遊んでいかないともったいないような気になって持ち金を投じてしまう。つまり、"ブラックフライデー"という言葉に刺激されて繰り出してくる買い物客を、いかに店内に引き込むかが小売店側の勝負であり、だから開店時間がどんどん早くなって日の出前(午前5時とか)のオープンになっている。

開店と同時に店内に殺到、セール商品をカートに山積みしてレジに直行

しかし近年、ブラックフライデー・セールの情報をまとめたWebサイトなどが登場し、無闇に開店前の列に加わらず、本当に欲しいものを安く買えそうな店にだけ行く買い物客が増えてきた。そしてスマートフォンの登場である。買い物をしながらその場で、最新のセール情報を交換できるので闇雲に1軒の店に捕らわれずに済む。長い間、買い物客はブラックフライデー・セールという小売店側の仕掛けに踊らされてきたが、近年は逆に買い物客側が情報を上手くコントロールできるようになってきた。

スマートフォンの影響はショッピングシーズンだけではなく、普段の買い物も変えている。代表的な例が、スマートフォンのカメラで商品のバーコードを読み取り、オンラインショップを含めて価格を比較できるアプリの活用だ。近くの店で実物を確認し、オンラインショップで購入する人が増えたため、一時は商品にスマートフォンをかざすだけで店員から注意されるほど店側から嫌われた。Best Buyのように客との対立を避けるために、商品を特定できるバーコードをはがした店もある。

しかし、買い物客の行動を店側が抑え続けられるものではない。Deloitteの「2011年度ホリデー調査」によると、アンケートに協力した5,000人のうち、42%がスマートフォンを所有し、27%がホリデーショッピングに活用すると回答した。こうした買い物客の進化を、今年のホリデーシーズンに小売店側が受け入れる兆候がみられる。例えば、NordstromやMacy's、Searsなどのデパートが無料のWi-Fi接続を店内で提供し始めた。注意したところで、スマートフォン所有者は3Gネットワークを使って、どこからでも価格を比べられるのだ。だが、彼らが調べるのは価格だけではない。Deloitteの調査によると、小売店で調べてオンラインで購入したことがあるという人が39%であるのに対して、オンラインでリサーチして小売店で買ったことがあるという人が47%だった。商品の詳細情報やレビューなどをネットで調べて、価格に納得できれば、信頼できる小売店で購入するという人が意外と多いのだ。それならば、店内で快適にネットで調べてもらおうという戦略に切り換えた。またMacy's、Target、Best Buy、Toys"R"UsなどはShopkickを使ってモバイルアプリ経由でセールス商品をアピールし、チェックイン・クーポンを配布してネットユーザーを店舗に呼び寄せている。

ブラックフライデーの週末に十分な買い物をできなかった人たちが、翌日に職場などからオンラインショッピングをし始めたことから、00年代半ばごろから感謝祭明けの月曜日がサイバーマンデーと呼ばれるようになった。これまでオンラインショップは月曜日にセールのピークを設定していたが、今年はサイバーマンデーを待たずに小売店に対抗するようなセールを仕掛けるオンラインショップが目立つ。ネットで情報を集めて賢く買い物をする人たちが、必ずしもブラックフライデーに出かけるとは限らないからだ。加えて、タブレット普及の影響だ。週末の3日間すべてを外出するのではなく、金・土で効率的に回って、日曜日はゆっくりと自宅でタブレットを使ってオンラインショップをチェックする女性が増えるのではないかと予想される。そのため"ソファ・サンデー"という言葉が使われ始めた。

Best Buyはブラックフライデーの0時に開店。感謝祭当日もBestBuy.comでサンクスギビングセールを展開

おそらく今年のブラックフライデーの週末は、外に繰り出す買い物客が減少する。それは不況の影響ではない。モバイルデバイスを駆使する買い物客を小売店がサポートし始め、オンラインショップとの本格的な競争が生まれた結果、むしろ今年は小売売上高が予想を上回るのではないかと期待されている。

スマートフォン片手に人々がホリデーシーズンの買い物をするのを味気ないという人もいる。激安商品を手に入れられなくても、買い物客で混雑した場所を楽しむのがホリデーシーズンであり、誰もが効率よく行動したらホリデーシーズンの賑わいが失われるというのだ。しかし近年、ブラックフライデー商戦がどんどん過熱して、感謝祭の数日前からセールス攻勢を仕掛ける小売店が出てきた。買い物欲に感謝祭が侵されているとして、Facebook上で「Respect the Bird(感謝祭は家族が揃って七面鳥を食べるのが習慣)」というキャンペーンが展開されるほどだ。スマートフォンを活用して深夜の行列を避け、タブレットを使って自宅のソファの上で静かに休日を過ごす人が増えるなら、個人的にはモバイルデバイスによってホリデーシーズンのあるべき姿が取り戻されているのではないかと思う。