Twitterの共同創設者Jack Dorsey氏(現会長)が設立したSquareが「Card Case」をアップデートした。Squareはスマートフォンやタブレットを利用した決済ソリューションを提供しており、小規模ビジネスや個人でもクレジットカード決済を扱えるようにする。Card Caseの新版はロケーション機能でベンダーと消費者を結びつけるなど、Twitter共同創設者らしいアイディアがつまっている。

米国では現金を持ち歩かず少額でもクレジットカードで支払う人が多い。そのため、たとえばフリーマーケットを中心に自作ジュエリーを販売するアーティスト、フードトラックのカレー屋などは支払いの受け取り方法に苦慮することになる。その問題をSquareは解決した。売り手側はSquareと契約し、同社が無料提供するカード読み取り用のドングルをネット対応のスマートフォンやタブレットに差し込めば、いつでもどこでもクレジットカードを使った支払いを受け取れる。

クレジットカード読取用のドングルを差し込むだけで、iPhoneがクレジットカード決済端末に

しかし、客側にしてみれば、ストリートベンダーや場末の小さなレストランなどでクレジットカードを手渡すのは怖い。最近はスキミングされたことを被害者に気づかないよう、注意深く少額ずつを引き出す詐欺が増えているという。そんな客側の不安を解消し、さらにクレジットカード決済をより便利なものにしてくれるのがCard Caseである。

Card Caseは客側用のスマートフォン・アプリ(iOS、Android)で、名前の通りカード入れのようなデザインである。「Explore Places」をタップすると、ユーザーの位置を中心に周辺のSquare対応マーチャントのリストが現れる。買い物をする店を選んで、例えばコーヒーショップのカードを開く(Open Tab)。その店の100メートル以内に近づいたら、コーヒーショップ側のSquare端末(スマートフォン、タブレット)にカードを開いているユーザーの情報が表示されるようになる。コーヒーを注文し、自分の名前を告げる。店側は名前と、ユーザー情報の顔写真(アカウント・セットアップ時に必要)を確認して課金する。Card Caseに登録してあるクレジットカードに請求が行き、同時にユーザーのアカウントに電子メールやテキストでレシートが送られてくる。

客側はクレジットカードを手渡さずに(読み取られることなく)、手軽に買い物ができ、店側は目の前の人物とSquareアカウントのユーザー情報(名前、顔写真など)を照合できるので安心して決済できるというわけだ。

Card Caseアプリ、カード入れにはよく行く店のカードを入れておき、Explore Placesをタップすると……

現在地の周辺でSquareで支払える店がリストされる

ひんぱんに訪れる店は、店のカードをカード入れにキープしておくとExplore Placesすることなく簡単にアクセスできるし、店に近づいたら自動的にOpen Tabさせるように設定することも可能だ。なじみの店(店員が自分の名前と顔を知っている店)で自動Start Tab有効ならば、スマートフォンを取り出す必要もなく、注文するだけで商品を受け取れる。

店のツイートを紹介しているなど、店カードの内容が充実している店には興味を引かれる

Auto Open Tabに設定すると、店に近づくだけで店のカードが開き、ポケットからスマートフォンを取り出すことなく支払いを済ませられる

Google Walletよりも使えるSquare

GoogleがAndroidのNFC対応を進めていることもあり、米国でもようやくモバイル決済の利用が芽吹こうとしている。とはいえ、多くの米国人はスマートフォンや電子マネー対応カードの利用にまだピンと来ないのが現状である。米国の一般消費者に、まだ上位機種のみのNFC対応スマートフォンや新しいICカードを入手させるのは難しい。その点、SquareはほとんどのiPhoneとAndroidスマートフォンがすぐに利用し始められる。このメリットは店側も同様で、スマートフォン/タブレットだけで、特別な端末を購入する必要はないからダメ元で導入できる。

Googleのモバイル決済ソリューションGoogle Walletを現在利用できるのは、Macy'sやWalgreens、Foot Locker、Peet's Coffee & Teaなど、全米規模の大手チェーンばかり。個人的にはカフェチェーンのPeet'sを除いて、ほとんど利用する機会はない。そのカフェも普段シリコンバレーやサンフランシスコにいる時なら、地元の小規模チェーンや個人経営の店に足が向いてしまう。そうした店にまでGoogle Walletが浸透するのはまだまだ時間がかかりそうだ。

Squareを利用できる店もまだ少ないのだが、Explore Placesで探してみるとけっこうユニークな店を見つけられる。SquareのWebサイトをブラウズし、モバイルアプリを使っていると、シンプルで洗練されたデザインへのこだわりが伝わってくる。店側のカードは各ベンダーが機能を追加でき、例えばメニューを掲載したり、店のツイートを表示させたりできる。サイフとしての役割以上に、キレイで使いやすく、店となじみ客のつながりを保つ機能に力を入れているのが、Squareの隠れた魅力と言える。だからSquareを上手に使っている店を実際に訪れてみると、センスのいい店であったり、サービスがきちんとした店であることが多い。

だからといって、Google Walletがもたついている間に、Squareがモバイル決済を支配する足場を固めるとは思わない。長い目で見れば、モバイル決済プラットフォームとして幅広く利用されるのは、Squareのようなスタートアップのサービスではなく、Google Walletのような大手のプラットフォームだろう。ただ、油断していると足元をすくわれかねない。Googleが本気でクレジットカードを持ち歩くライフスタイルを変えようとしているのなら、私たちにWalletを使いたいと思わせる何かを示す必要があると思う。

汎用クレジットカードの誕生は、実業家のフランク・マクナマラが財布を忘れてレストランで食事をし、会計の時に恥ずかしい思いをしたのがきっかけだった。その夜に「支払い能力があっても、なぜ手持ちの現金で消費が制限されるのか?」と疑問を抱いたことからダイナースクラブ・カードが生まれた。

多額の現金を持ち歩かずに済むのは便利で安心だが、当時クレジットカードへのシフトが起きたのは支払い能力やステータスを簡単に証明したい一部の金持ちの切実な要望を解決したからだ。その意味では、財布の中のクレジットカードやポイントカードを減らしてくれるだけのGoogle Walletよりも、クレジットカード・マーチャントになれないばかりにビジネスの機会が制限されている優良なベンダーの悩みを解決するSquareの方が存在意義を示している。