米国の11,000カ所以上の公立図書館で、Kindle形式(AZW)の電子書籍の貸し出しが始まった。早速、近所の図書館で「Kindle Library Lending」を試してみたところ、これが非常に便利。米電子書籍市場におけるAmazonの優位を盤石にするものという印象を受けた。

米国では数多くの公立図書館がOverdriveの図書館向け電子書籍プラットフォームを採用しており、ウチの近所の図書館でもすでにEPUBまたはPDF形式の電子書籍を借りることができた。しかしEPUBやDRM付きPDFは、米電子書籍市場の最大勢力であるKindleのリーダー端末やリーダーアプリでは読めない。それが今年4月にOverdriveとAmazonの提携が発表されたことで、ついにKindleユーザーも電子書籍を図書館から借りられるようになったのだ。

電子書籍は公立図書館のWebサイトから借りる。ログインの際に有効な図書館カードの番号の入力が必要で、つまり実際に住んでいる町の図書館でしか借りられないのだが、メンバーである期間はWebサイトにアクセスするだけでどこからでも貸し出しを受けられる。

ウチの近所のマウンテンビュー公立図書館は、Northern California Digital Libraryという北カリフォルニア地区のいくつかの公立図書館が合同で運営している電子書籍図書館に参加している。10月3日時点で借りられるKindle書籍は2,032冊。PDF eBook (2,436冊)よりも300冊ほど少ないが、Kindle書籍の貸し出しが始まったのはつい10日前である。それを考えるとKindle書籍は充実している。

書籍ページには、書籍の説明やサンプルとともに「Library copies」と「Available copies」の数が記載されている。前者は図書館が所有している冊数、後者は図書館に残っている貸し出し可能な冊数だ。

「The Help」の電子書籍を図書館は7冊所有。これらをKindle形式、EPUB、PDFのいずれかで借りられる

電子書籍が人気なのか、それとも図書館利用者が意外と多いのか、ライブラリをブラウズすると、大部分の本が全冊貸し出し中になっていた。読みたい本が貸し出し中の場合、「Place a Hold (予約)」しておく。その本が返却されると、電子メールで通知が届き、それから3日間は取り置いてくれる。Northern California Digital Libraryで最も人気の高いキャスリン・ストケットの「The Help」は、図書館が7冊所有しており、10月3日時点ですべて貸し出し中。予約リストが88人となっている。

本を借りるには「Add to BookBag」をクリックし、フォーマット (Kindle版)を確認してチェックアウトするだけ。すると、自動的にAmazonのKindle書籍管理ページのログイン画面が開くので、あとは自分のAmazonアカウントで、借りたKindle書籍を転送するデバイスを指定する。Northern California Digital Libraryの場合、貸出期間は7日/14日/21日を選択できる。読み終わった本を期間中に返却して、すぐに次の本を借りることも可能だ。

予約していた本が返却されたので、ブックバックに追加して貸し出しプロセスへ

貸し出し期間を指定、フォーマットを確認してチェックアウト、すると……

Amazon.comのKindle書籍管理ページが自動的に開くので、Kindle対応デバイスに転送して完了

ほとんどの本が貸し出し中で最初はがっかりしたが、同時に8冊まで予約でき、予約して気長に待っていればいつかは借りられる。借りるプロセスはシンプルで分かりやすく、借りた本を図書館まで返却に行かないでいいから快適だ。Kindle書籍はメモやハイライトを書き加えると、それがクラウドにバックアップされ、Kindle版を再度借りたり、または購入すると過去の書き込みが自動的に反映される。筆者は鉛筆を手に本を読む人なので、図書館の本にも気兼ねなく書き込めるのも気に入っている。いやぁ、いい時代になったものである。

79ドルから、圧倒的に手頃な価格のKindle

Kindleは米国で最大シェアを持つ電子書籍プラットフォームである。AZWというKindle対応のリーダー端末やアプリでしか読めないクローズドな形式で、がっちりとユーザーを囲い込んでいる。その一方で国際電子出版フォーラムが普及促進するEPUBの採用が広がっており、EPUBのオープン性の脅威がじわじわとAmazonに迫っていた。特にOverdriveがEPUBをサポートし、公立図書館がEPUB形式の電子書籍を貸し出すようになると、Amazonも早晩EPUBに対応するという見方が強まった。

そのような中、OverdriveはAmazonがEPUBに門戸を開くのを待たずに、自分たちがAZWに対応する形で公立図書館システムにKindleを受け入れた。特に今回Kindle Library Lendingを使ってみて驚いたのは、図書館のWebサイトからAmazonのサイトに移動して本のチェックアウトが完了することだ。将来EPUB3でAmazonがEPUBに対応したとしても、この仕組みならAmazonはKindleユーザーを自身のクラウドライブラリに囲い込んでおけるし、図書館で本を借りるユーザーのデータをAmazonが収集できる。公共性が問われる公立図書館の貸し出しシステムで、このようなビジネス色の強い仕組みがよく認められたものだと思う。AmazonはKindleの出荷台数を公表していないが、公立図書館を譲歩させるほど米国におけるKindleユーザーの声は強いのだろう。

9月28日(現地時間)にAmazonはKindleの新製品4機種を発表した。Androidプラットフォームを採用した7インチタブレットのKindle Fireが199ドル(15300円)、従来型の電子ペーパーを用いたKindleは79ドル(6100円)と、同社は圧倒的に手頃な価格で攻めてきた。Kindle新機種のハードウエアについて、日本人の視点では「期待はずれ」「面白みに欠ける」という感想が出てくるが、汎用的で高機能なタブレットで読みたければ、iPadやハイエンドのAndroidタブレットも利用できるのだ。米国でKindleは電子書籍の標準のような地位を確立しつつあり、Kindle Library Lendingのような使いやすくて便利な公共サービスも始まった。それで79ドルからという価格である。米国においてKindleは紙の本以上に本を身近で手頃に感じさせる存在になりつつある。