Twitterには公式以外にも、様々なクライアントが存在する。自分の必要を満たすツールを選んで利用できる自由さを、Twitterの魅力と感じている人も多いと思う。しかし近い将来に、Twitterユーザーは公式クライアントの使用を強いられることになるかもしれない。

Twitterのプラットフォーム開発を率いるRyan Sarver氏が11日に、Twitterコミュニティ開発者の今後のビジネスチャンスに関して、Twitterクライアントの開発にストップをかけるメッセージを発した。

「Twitterクライアントのメインストリームのユーザー体験を真似た、または再現したクライアントアプリを作るべきかと開発者から問われたら、答えは"ノー"だ。既存のクライアントアプリの開発者が引き続きユーザーに製品を提供するのは構わないが、整合的な利用体験を実現し、ユーザーのプライバシーを保護する厳しいスタンダード (利用規約)への準拠をわれわれは求める」(Sarver氏)

今後はTwitterの公式クライアントしか認めないと言っているも同然だ。理由として同氏は、Twitterの利用体験の断片化を挙げている。サードパーティのクライアントの中にはTwitterのデザインガイドラインに従わず、必要な機能を盛り込まなかったり、機能に独自の名称を付けているものがあるという。利用体験という点では複数のプラットフォームが林立しているような状態であり、クライアントによって大きく異なるTwitterの利用方法に戸惑うユーザーが少なくないそうだ。

そこで、ツイートの表示、リツイートやリプライなどTwitterの基本機能をユーザーが同じように利用できる環境を整えようとしている。TwitterによるTweetie買収と、公式Twitterクライアントの提供は、その手始めだった。こうしたTwitterの狙いはすでにユーザーに浸透しており、同社の独自調査ではサードパーティのコンシューマ向けクライアントアプリの市場シェアが急速に縮小し、公式クライアントの利用が約90%に達しているという。

Mac OS Xアプリ版Twitter

Twitterのコア機能の維持と利用体験の統一は、同サービスの肝であるネットワークの拡大を促す。Twitterのヘビーユーザーが増加し、その間をより多くの情報・データが行き交うようになれば、付加価値コンテンツの提供 (Formspring、Foursquare、Instagram、Quora)や、リアルタイムデータ分析 (Klout、Gnip)、キュレーション (Mass Relevance、Sulia)といった分野において、Twitterのエコシステムの可能性が広がるというのが同社の言い分だ。

しかしながら、Twitterのエコシステム拡大に貢献するために、これまでTwitterクライアントを手がけてきた開発者もいる。手のひらを返したように開発者コミュニティを仕分け始めたTwitterに裏切られたという思いを抱いている開発者も少なくない。

その1人であるSteve Klabnik氏が早速、3月23日にrstat.usというシンプルなマイクロブログ・サービスを立ち上げた。サービスはTwitterに似ているが、分散型で全てにオープンソース技術を採用している点で大きく異なる。「いかなるソフトウエアも1つの組織や企業に支配されていたら、悪用される可能性に直面する」とKlabnik氏は語る。rstat.usはTwitterのコア機能を再現したSiatraアプリケーションだが、Ostatusプロトコルを用いたマイクロブログと互換性がある。例えばIdenti.caのユーザーを、シンプルなURLのコピー&ペーストだけでrstat.usにおいてフォローできるのだ。またユーザーがデータを所有することも可能だ。

公式クライアントからのツイートは58%!?

優れた利用体験という名目でエコシステムをコントロールしようとするTwitterと オープンな代替サービスを目指すrstat.usは、AppleのiOSとAndroidの関係を彷彿させる。

Twitterが数多くの開発者を惹きつけてきた自由な場所であり続ける方がエコシステムの拡大を促すという声もある。しかし、それは無理な相談なのだ。Twitterはもうユーザーとつぶやきをただひたすら増やせば良かったスタートアップではない。3000万を超えるユーザーから、いかに売上げを生み出すかを考えなければならない時期にある。投資家が納得できるビジネスモデルを示せなければ、ブームが過ぎる前の売却を迫られるだろう。GoogleやFacebookによる買収の噂が根強いが、合併交渉をまとめるにしてもTwitterが利益を生みだせる本物のビジネスであることを証明しなければならない。

Twitterは90%のユーザーが公式クライアントを利用していると主張するが、Sysomosの調査によると3月11日の2500万ツイートのうち公式アプリが用いられたのは58%だった。どちらの数字が正しいというよりも、Sysomosの調査がツイートを基にしていることから、Twitterのヘビーユーザーほど公式アプリへの移行が進んでいないと考えるのが自然だろう。現在、Twitterの主な収入源はデータAPIのライセンスだが、今後広告などの展開も考えているとしたら、まずは58%と90%の大きな差を埋める必要がある。Twitterがビジネスを追求し、サードパーティ製クライアントの排除に乗り出すのは理に適った展開なのだ。

一方でTwitterが主張するように、その利用体験の向上が目覚ましいのも事実である。rstat.usは、多くのオープンソース・プロジェクトに見られるように利用体験には無頓着だ。Androidの場合はモバイルWeb広告を収入源とするGoogleが猛烈にけん引しているからiOSに対抗する勢力になり得ているが、オープンなマイクロブロギングだけを訴求点にrstat.usが一般ユーザーにサービスを広げられるかは疑問符が付く。

Twitterがスタートアップから本物のビジネスに舵を切り始めた今、これまでTwitterの市場に食い込めなかった対抗勢力にチャンス到来と言える。rstat.usほどひたむきにオープンでなくても、わずか10日でrstat.usを作り上げるほどの開発者の怒りを受け止める存在が出てきてほしいと思う。

震災後の混乱において、Twitterは情報交換の手段の1つとして活用された。コミュニケーションツールとしての有用さを実感すると、マイクロブログは電子メールのように互換性に優れた仕組みとして確立されるべきではないかとも思えてくる。「昔は色んなクライアントを選べたよね」という思い出に変わる前に、われわれユーザーもマイクロブログがどのような形で存在するべきなのか、議論を深める必要がありそうだ。