連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した米書店チェーン大手Bordersが、縮小対象の200店舗において19日(現地時間)から閉店セールを開始した。書籍は20%オフ、雑誌が40%オフ。土日は混雑するだろうから3連休最後のプレジデントデー(21日)に行ってみたら、それでもレジに長~~~い行列で、結局店内を1周しただけで帰ってきた。

閉店セールが始まったBordersのサンノゼ店

セール3日目でもレジには長い列

Bordersは広い図書館と快適なリビングルームが共存した空間を目指して成功し、さらに買収や吸収合併を経て米書店チェーン2位に成長した。Barnes & Nobleよりも立ち読みしやすく、個人的には大手書店チェーンの中でもっとも利用している。電子書籍はEPUB形式とPDF形式を販売しており、オリジナルのリーダー端末は用意せず、Kobo eReader、Sony Reader、Velocity Micro Cruzなど幅広い端末を扱っている。

さて、Bordersの破産の理由として「オンライン書籍販売の影響」「電子書籍の台頭」が挙げられているが、原因はもっと根深いところにありそうだ。電子書籍へのシフトうんぬん以前に、同社の閉店セールの様子を見ていると明らかに書籍に対する消費者の関心が薄い。全品セールス中の店内で賑わっていたのは、MANGA(主に日本の漫画の英語版)、絵本・児童書、ハウツー(パソコン/インターネット、料理/レシピなど)、雑貨など。いずれのコーナーも広い書店の一角を占める程度でしかない。逆に店内の半分程度を占領している小説や専門書はまだたっぷりと売れ残っていた。2割引きでも売れているのは一部のベストセラーのみで、残りは閉店日近くの投げ売りが始まるまで動きそうにない。加えて書籍に次ぐ大きなスペースを取っているDVDや雑誌に対しても、お客さんの関心が意外なほどに低かった。DVDを購入したり、書店で雑誌を買って情報を得るというスタイルが思っているよりも早く消えつつあるのかもしれない。こちらはWebベースのサブスクリプション型DVDレンタルや映画/TV番組のストリーミングサービス、Web情報の影響だろう。

Bordersでよく売れているのは主力以外の製品であり、それらは広大な店舗全体の1/4程度のスペースでしかない。いっそ一部の店舗を漫画と絵本の専門店に切り替えてみてはどうかと勧めたくなるが、米国の書店は音楽やDVDに広いスペースを割くのは許せても、書店のコミックストア化には抵抗する。MANGAコーナーが登場する以前も、歴史的にコミックブックを限定的にしか扱ってこなかった。「武士は食わねど……」なところがある。ならば、電子書籍/オンライン販売の伸びとローカル店舗の削減でバランスが取れるかというと、よほど割り引くまで消費者の食指が動かないというのは、書籍というスタイルではなく、そのコンテンツに対する関心が薄いことを意味する。これは入れ物が電子書籍に変わっただけで改善するものではない。消費者をコンテンツに惹きつけられなければ、電子になっても書籍は衰退の一途である。

「BookLending.com」に続いて「Lendle」登場

Kindleのレンタル機能を使ったKindleブックの貸し借りを仲介する「Lendle」というWebサービスが米国でスタートした。すでに「BookLending.com」 (旧Kindle Lending Club。Amazonからのクレームで名称変更)という同様のサービスがあるので、仕組みをご存じの方も多いと思う。

メンバーになり、所有しているKindleブック (貸せる本)と借りたいKindleブックのリストを作成する。あとは借りたり人または貸してくれる人が現れるのを待つだけだ。LendleやBookLending.comの利用は無料であり、サイトの運用はAmazonのアフィリエイト収入で賄っているという。借りられる期間は14日間……と、このように説明すると、多くの人がどんどん目を輝かせ、Kindleの購入を真剣に検討し始めたりする(レンタルした本はKindleアプリでも読める)。だが「ネット経由で本を借り放題!」とはいかないのだ。Kindleブックの場合、貸し出せるのは出版社や著者が許可した作品のみで、しかも1冊につき1回に限られる。そこから「そりゃ、なかなか成立しないでしょ」という話になってしまう。しかし、借りられる本の中から借りたい本を選んでリクエストを出せば、意外とすんなり借りられる。1冊1回よりも、むしろ貸し出し不許可な作品が多いことの方が障害になっている。

2つのサービスを比べると、BookLending.comは貸し借りの仲介役に徹しているが、Lendleは本のソーシャルネットワークを目指している模様。たとえばBookLending.comでは貸せる本しか登録できないが、Lendleは所有している本を登録でき、貸し出し許可がなくて貸せなくてもLendle上で同じ本を持っているメンバーを確認できたりする。サイト内をブラウズするのが面白く、そうしたアクティビティはおすすめに反映され、面白そうな作品と出会えるチャンスはLendleで借りるだけではなく、Amazon.comからの購入にもつながる。ソーシャル機能はまだまだ開発途上ではあるものの、「本との出会いを促す」という狙いが感じられる点でLendleはおすすめだ (現時点で本を貸し借りできるのは米Amazonのアカウント所有に限られる)。一方、今のところBookLending.comには良い印象を持っていない。単なる貸し借りの場で、本と出会う場になっていないから「借りればタダ」という側面ばかりが強調されてしまっている。それでは本の世界は広がらない。サービスの本質は同じでも、2つのサービスには大きな隔たりを感じる。

Lendleの書籍ページ。編集レビューのほか、所有しているメンバー(Lendlers)数、貸し出し可能な冊数、リクエスト数、貸し出された回数などを確認できる

Forrester Researchが昨年11月にリリースした書籍市場レポートによると、米国の消費者が本を入手する方法のトップ2は「友だちから借りる」「図書館から借りる」だった。本を読む人は無料の方法でたくさんの本に触れて本を好きになり、そして本を購入してもいるというのだ。

今オンライン書店が伸びているのは、印刷書籍に手軽に触れられる場が残っているからではないかと考えたら、思い当たる節がある人は多いのではないだろうか。しかし、Bordersのような広いスペースでのんびりと立ち読みできる本屋が減っていき、印刷書籍そのものも減少していくと、このままでは本に興味を持てる場が乏しくなる。だから、電子書籍においても無料でコンテンツに触れられる仕組みが確保されるのは大切なことだと思う。出版社はKindleブックの貸し出し許可に前向きになってほしいし、同時に素晴らしいコンテンツにより多くの人が興味を持てるように、電子書籍の貸し借りやエンドユーザー間の権利譲渡の仕組みなどについてもっと議論が起こるべきだと思う。