今年に入って「Quora」の名前をあちこちで目にするようになった。たとえば、21日に発表されたTechCrunchのCrunchies Awardsで2010年のベスト新スタートアップ・プロダクトに選ばれた。総合でもベストスタートアップ・プロダクトの候補になっている。ちなみに他の候補はFacebook、Groupon (次点)、Twitter (受賞)、Zyngaなど錚々たる顔ぶれだ。エンジェル投資家のShervin Pishevar氏はQuoraを「ブログの未来」と表現し、有名ブロガーのRobert Scobble氏も、その革新性に同意している。Business Insiderは「Quoraの勢いはホンモノだ」と断言し、Twitter以来のWebスタートアップの成功になると予想する声も聞こえてくる。

しかしQuoraなんて名前、初めて聞いたという方も多い思う。米国でも一般的な知名度はさっぱりで、熱狂的な支持者はシリコンバレーやシリコンアレイに集中している。それは、これまでQuoraがメンバー数を限っていたからであり、意図的にテクロジ分野をテスト市場にしていたからだ。

今年に入ってQuoraは、一般開放に本腰を入れ始めた。ギークの間で実現した爆発的な人気を広く一般に広められるかに注目が集まっている。

スティーブ・ケースがネットバブルの原因を説く

QuoraはFacebookのCTOだったAdam D'Angelo氏が起ち上げた「Q&Aサービス」だ。Q&AというとAnswers.comやYahoo! Answersなど過去にいくつものサービスが現れたものの、いずれもハウツーや初心者向けの域を出ていない。古っぽいというか、オールドスクールなアイデアという感じである。そんなQ&AサービスからQuoraが新進のWebサービスとなっているのは、同サービスがこれまでになく非常に品質の高い回答を提供しているからだ。

たとえば、「90年代後半にインターネットバブルをはじけさせた要因は?」に対してSteve Case氏が回答している。そう、ネット企業としてTime Warnerとの合併まで登りつめ、そして大失速したAOLの共同創設者のCase氏だ。このコラムでも昨年11月に、Amazon.comの製品開発プロセスを紹介したときにQuoraのQ&Aを引用させてもらった。「Amazonでは製品開発と製品管理にどのようなアプローチを採用しているのですか?」という質問に対して、Amaozonのギフト事業担当シニアマネージャーのIan McAllister氏が丁寧に解説している。Amazonの担当者からの回答だから納得いく説明である。このように質問の対象となる企業のエグゼクティブやエンジニア、またはその分野の専門家やキーパーソンなども回答者として登場する。高いレベルのディスカッションがQuoraでは行われている。

Quoraがなぜ、こうした回答を引き出せているかというと、厳しいルールとガイドラインのある管理された環境だからだ。メンバーは基本的に実名で肩書きも公開しながらQuoraを利用する。すべてのメンバーが質問と回答を作成できるが、質問はコミュニティのものとして扱われる。どういうことかというと、たとえば一度公開した質問は目的を変えない範囲で、他のメンバーが手直しできる。これは優れた質問の存在がより良い回答に結びつくという考え方に基づいたもので、ディスカッションを深めることが優先され、コミュニティで質問が改善されるのだ。だから、質問作成者本人でも一度公開した質問を完全に削除することはできない。逆に、回答を誘導するような質問、攻撃的な質問、単なるジョーク、意味のない質問、長すぎる質問などはレビュー/引き下げの対象になる。質問は正しい文法で簡潔に、さらに大文字の使い方などを含めてガイドラインで細かく書き方が指定されている。

ズラリと並ぶQuoraの公式ポリシーとガイドライン

回答にはさらに細かな約束事がある。攻撃や誹謗中傷するだけの回答であってはならないというのが基本ルール。反論や批評は認められるが、建設的または生産的な議論を生み出す内容でなければならない。ガイドラインは数多すぎて、ここでは紹介できないが、たとえば「質問に含まれるいくつもの"なぜ?"に答えるべき」というのがある。「パロアルトで一番のタイ・レストランは?」に対して「Thaiphoonだろ!」と一言で終わらせてはケンカのもとになる。「メニューの中でイエローカレーが絶品で、パドタイも他店と食べ比べる価値あり。またサービスがフレンドリーで……」といったように理由と根拠をきちんと示すことで読者は納得するし、建設的な議論が広がる。こんなところまで指針で定められている。基本ルールに反する回答は削除され、またメンバーが回答に投票する仕組みがあり、ネガティブな投票が伸びた回答は流されてしまう(Collapsed)。

このように基本的に実名で素性を明かしたメンバーばかりなので、本当にメンバーが疑問に思っている質問だけが集まる。悪ふざけや意味のない批判や中傷だけの議論は認められない。生産的なディスカッションを生み出す環境が整っているから、真剣にコミュニティのために回答しようという気になるし、Quoraでの活動を通じて個人評価も高められる。その結果、他のQ&Aサービスには見られない高質な回答がQuoraには寄せられている。

つけ加えると、QuoraはTwitterのように他のメンバーをフォローしたり、特定のトピックスや質問を登録して個人用のフィードを構築する機能などを備え、検索機能も充実している。Twitter、Facebook、Digg、FrienFeedなどのメリットをうまくQ&Aサービスに取り込んだサービスとも言える。これまでにギークの間で爆発的にユーザーが増えたのは、招待制期間中のトピックがテクノロジにかたよっていたためだ。質問もテクノロジ関連に集中し、めったに話を聞くチャンスのないシリコンバレー界隈の有名人が参加し始めたことで一気に火がついた。

さて、Quoraをユニークなサービスにしている点は、そのまま今後の不安材料になる。いまのQuoraユーザーは詳細な決まりごとを楽しんでいるところがあるが、一般的には細かすぎるガイドラインである。"基本"実名制にしても、サインナップの際にFacebookやTwitterとリンクさせたり、または電子メールを通じた確認で成り立っているだけで、アイデンティティをごまかしたり、なりすましを行うのは容易である。現在のギークを中心としたコミュニティならQuoraの意図が隅々まで浸透しても、ユーザーが増え、トピックが広がるに従って秩序が乱れていくだろう。かつて貴重な人材を見つけ出せるコミュニティだったLinkeInが、メンバーの増加とともにあいまいな場になってしまったのと同じことがQuoraにも起こり得る。

だからQuoraはこれから、これまで以上に厳しくサイトの質をコントロールしながら、同時にサービスの大衆化を果たすという難題に挑むことになる。厳しいルールのもと、基本実名によるコミュニケーションがサービスの質を高め、それがQuoraが成長する原動力になってきた。このメリットを失っては、規模が大きくなっても失速するのは目に見えている。現在のQuoraを構築したD'Angelo氏は、当然この点を自覚しているだろう。現在のサービスをどのようにスケールアップさせるかお手並み拝見である。

すべてのトピックで現在のようなアカデミックなレベルを保つ必要はないだろう。エンターテインメントなどはカフェの雑談レベルで構わないと思う。しかし、その道の専門家や企業の代表が回答者として参加してくるような秩序はサービス全体で保たれる必要はある。

パーソナリゼーションも課題になるだろう。サービスが大衆化した後もTwitterがギークを引きつけている理由の1つに、受け取る情報のフィルタリングが挙げられる。フォローを通じて興味のある分野、興味のある人からの情報のみに絞り込めるから雑音は入ってこない。Quoraも大量のQ&Aの中から、ユーザーと関連性が高く、ユーザーが興味を持ちそうなコンテンツや人のみマッチングさせる仕組みを高めていく必要がある。すでにフォローと投票は採用されているが、一部の報道によると、これらに加えてユーザーの質を格付けするアルゴリズムの導入を進めているという。