「3月15日でFacebookが完全に閉鎖される」、そんな噂が週末のネット上で大きな話題になった。「(Facebookを)経営するストレスが自分の生活を台なしにしている。こんな狂気はすべて終わりにする必要がある」というCEOのMark Zuckerberg氏の一言が発端らしい。アカデミー賞の有力候補になるほど話題になっても、どうやら映画「ソーシャル・ネットワーク」を観ていない人がまだまだ多いみたいだ。

さらにこんな明白な悪ふざけを、Sophosが「Facebookは3月15日で終わりじゃない。山火事のように広がる偽ニュース」と題して真面目に打ち消しているからびっくりする。それだけ今のFacebookは数多くの人に使われ、そしてユーザーの生活に深く浸透しているということなのか、それとも今のFacebookならなんでもあり得るということか……。

さて、Facebookに関する実際の新年の話題というと、Goldman Sachs (4億5,000万ドル)とDigital Sky Technologies (5,000万ドル)による総額5億ドルの出資だ。Facebookの企業価値を500億ドルと評価。これにより同社が2012年前半に上場するといった報道が過熱している。

だが、Facebook本社を見たことがある人ならわかると思うが、話題性に比べて同社はずいぶんと小規模だ。知らなければ通り過ぎてしまうようなオフィスビルで、とても500億ドルの時価評価見積もりがつく企業には見えない。実際、社員数はまだ2000人強で、上場のインパクトを考えるとやらなきゃいけないことがまだまだたくさんありそう。となると、気になるのは5億ドルの資金の使い途である。そんな素朴な疑問に対する議論が今ひとつ盛り上がっていないのが不思議なところだが、VC CircleSndarshana Banerjee氏が追加資金を得たFacebookのいくつかの可能性に言及している。

カリフォルニア州パロアルトのFacebook本社

Zynga買収のような大胆な一手を打てるか?

まず「グローバル対応の強化および雇用の拡大」。すでにFacebookは70以上の言語に対応しており、米国以外のユーザーが約70%に達している。しかしながらFacebookの雇用は開発寄りであり、拠点は北米と欧州に集中している。今後はすべてのタイムゾーンにまんべんなくサポートセンターを配置するなど、開発のみならずサービス運営/サポート面でもグローバル企業への脱皮を図ると見ている。

VC Circleはインド系の媒体であり、800人以上のFacebookユーザーがいるインドの視点からの希望も含む予想と言える。しかし人は言語や文化の壁を超えてつながるのだから、国際事業の強化がFacebookの今後の課題のひとつになるというのは的を射ていると思う。

モバイル強化」。モバイルデバイスを使ってFacebookにアクセスしているユーザーはおよそ2億人。世界60カ国の200以上のモバイルキャリアがFacebookをサポートしており、Facebookは今後あらゆるモバイルデバイスへの最適化をさらに進めていくと見る。

Facebookは多様なモバイルデバイスのサポート実現に邁進しているが、iPad専用のFacebookアプリがいまだに登場していないように、納得しないと出さない姿勢も見せているから面白い。昨年Zuckerberg氏はFacebook携帯の登場をきっぱりと否定したが、GoogleがGoogleサービスを使うために開発したNexusシリーズとその他のAndroid携帯の関係を考えると、Facebookを快適に使うためにFacebookが作った携帯やブラウザを見てみたい気がする。もちろんFacebookが納得するものを……だ。

製品強化/拡大 - メッセージングシステム、検索、マルチメディア」。Facebookユーザー同士の範囲ならFacebookはコミュニケーション革命を起こしている。これを土台に、ライバルが電子メールにとどまっているのを尻目にソーシャルベースのメッセージ事業を開拓する。検索とマルチメディアはソーシャルグラフが大きなビジネスにつながる可能性を秘めながらもFacebookが活かしきれていない分野だ。ソーシャル検索、写真やビデオの基本的な編集機能やより高度な共有機能の追加はFacebookユーザーの利用体験を引き上げる。

昨年シリコンバレー企業の人材の移り変わりでもっとも驚いたのは、GoogleでGoogle MapsやGoogle Waveの開発を率いてきたLars Rasmussen氏のFacebook入りだった。同氏は「GoogleではGetting Things Done (GTD: 物事を成し遂げる)ができない」と嘆いていた。FacebookでWaveの構想をGTDしてしまったら、それこそFacebookのメッセージングシステムはスゴいものになりそうだ。検索とマルチメディアに関しては、たしかに使っていて不満を覚える。

買収を通じた拡大 - Twitter、Zynga?」。FacebookとTwitterはライバルであり、そしてどちらも潜在価値の評価に対して十分な収益を生みだせていない。この2つは市場や広告主が間違いなく歓迎する組み合わせであり、相乗効果が2社の抱える問題のソリューションになり得る。Zyngaについては、ソーシャルゲームFarmvilleをプレイできるからFacebookを使っているメンバーも多い。Zynga買収を通じて、FacebookならではのソーシャルなゲームをFacebookの一部として提供できるメリットは大きい。

Facebookの過去の大きな買収というとParakeyとFriendFeedだ。ソーシャルグラフとウエブプラットフォームづくりというFacebookの理念にかなった買収だった。Facebookは上り調子であっても、ライバル排除や事業を拡大するための無闇な買収は行っていない。またZyngaを含めてパートナーと共存共栄を図る傾向を強めており、ここから買収戦略に転換するかは興味深いところだ。

Facebookの場合、これまでのFacebookのままであり続ける可能性も否定できないから厄介である。だからこそ、以下のように成否の行方が見えにくいとBanerjee氏も指摘している。

FacebookとはZuckerberg氏であり、Facebookはビジネスのみを追求していない」。2006年にYahoo!がFacebook買収に乗り出したときに、誰もが売り抜けるべきだと考えたがZuckerberg氏のみ抵抗した。その結果、今日のFacebookは当時のおよそ50倍の価値に到達した。「世界をよりオープンに結びつける」というZuckerberg氏の理想、「ハッキングこそFacebookの文化の中枢」とする同氏のこだわりが生み出した成功と言える。だが市場独占をめぐるビジネスは熾烈なゲームである。いまやFacebookは丁々発止の世界に巻き込まれている。Googleは検索市場での独り勝ちを広告に結びつけて巨大化した。ソーシャルグラフづくりで勝ち抜けたFacebookは、成長の一途だが、そこからどうやって儲けるのか。成果を評価するのは大学の教授ではない。納得できる道すじを示せなければ、投資家たちは厳しい対応に転じるだろう。

映画の影響からか、世間一般では成功のためには裏切りもするFacebookというポジションに落ち着いているが、個人的な印象は逆だ。オープンを旗印に悪魔にならないように気を配りながら広告で大儲けしているGoogleと対照的な存在に思える (今のところ)。Zuckerberg氏のこだわりがソーシャルネットワーキングにおける独り勝ちを生み出したとすれば、500億ドルという見積もりは過去4年のサプライズに対する評価と言える。だが、それを基盤にしたビジネスモデルを確立する上で「Facebook=Zuckerberg」は機能するのか? まだ、何も証明されていない。CEOとしてZuckerberg氏も成長したという指摘は数多いが、それでも疑問符は拭いきれない。「3月15日でFacebookが完全に閉鎖される」なんて都市伝説が、まことしやかに流布してしまうのは、その証しのひとつと言える。