GoogleのTim Bray氏が昨年末に公開した「Year-end View of the Mobile Market (2010年末のモバイル市場見通し)」が面白い。ちょっとズレてるようで、しかしよく考えてみると「それもあり得る」と思えてくる。Googleと一線を画した個人の立場から、スマートフォン/タブレット市場全体に通底する見通しを大胆かつユニークな切り口で語っている。

(サービス契約の)重荷のないハイエンドのハンドセット(スマートフォン)が500ドル、(2年間の)サービス契約を交わすと同じデバイスが199ドルに割引きされる。どちらが得かというと前者である。これに気づいた誰かが冷蔵庫やTV向けと同じような支払いプランを用意してくれないかと思う

米国の携帯電話のビジネスモデルは欧州に類似していると思われがちだが、むしろ日本に近い。モバイル端末は通信事業者の専用品のような形で提供されている。SIMロックフリー端末はほとんど存在せず、またSIMロックフリー端末で利用できる通信サービスも充実していない。通信事業者はあの手この手でユーザーをサービスに縛りつけ、サービスバンドルを利用した方が楽で負担も少ないから多くのユーザーが2年縛りを受け入れているのが現状だ。

しかし急速に変化/成長するスマートフォン市場において2年間は長い。2007年6月の初代iPhone登場からまだ3年半しか経っていないのだ。その間に多種多様なスマートフォンが登場した。2年契約を途中解約し、さらにペナルティを払ってまで最新のスマートフォンに乗り換えた人を何人も知っている。2年縛りはモバイルウエブの前進にブレーキをかける要因であり、Googleとしては最新のテクノロジを積極的に使ってほしいから、Bray氏はサービスに縛られない500ドルの方が割安だと断言しているのだろう。そこが興味深い。

実際、サービスバンドルを避ける人は増加している。昨年12月に2代目Google携帯「Nexus S」が発売された時、取扱店のBestBuyではサービスバンドルではない529.99ドルのモデルが瞬く間に売り切れ、サービスバンドル版(199.99ドル)のみ売れ残っていた。昨年T-Mobile USAがSIMロックフリー端末で使いやすいプリペイドSIMを拡充したのも追い風となっている。このようにSIMロックフリーのハイエンド端末の人気が高まれば、他社も「常に最新のスマートフォンを使いたい」というユーザーを満足させる製品やサービスを用意する可能性は高い。

二代目Google携帯「Nexus S」、サービスバンドル版も含め全てSIMロックフリーで提供されている

米国ではまだまだフィーチャーフォンの人気が根強く、携帯ユーザー全体の中で価格よりも自由を優先する人はしばらくニッチであり続けるだろう。ただ、前述のように閉鎖的という点で米国と日本の携帯電話市場は似通っている。ニッチであれ、米国で自由を求める声が高まれば、それはSIMロック解除へと向かい始めた日本市場にも少なからず影響を及ぼしそうだ。

続いてApple vs. Androidについて。

来年(2011年)に途方もなく安いiPhoneが登場してAndroidと競争し、逆にAndroidがユーザーエクスペリエンスにおいてiPhoneや他のライバルよりも飛躍するようなことが起こるかもしれない。それらは確かに意外な展開ではあるが、しかし驚くようなことではない

あまり話題にならないが、Appleは今でもiPhone 3GSを99ドルで販売している。同モデルの製造が打ち切りになったという話も聞かないので、Appleは100ドル以下のiPhoneの存在価値を認めているのだろう。Bray氏は"dirt-cheap"な格安iPhoneが登場する可能性を指摘しているが、筆者はむしろ米国においてiPhone 3GSがプリペイドプランに広がる可能性の方が高いように思う。

現在Appleは「iPhone 3GS」の8GBモデルを99ドルで販売している

AndroidのUIに関しては、Android 2.3 Gingerbreadで初めて一本筋の通ったユーザーエクスペリエンスが実現された。まだまだiOSには及ばないものの、iOSの背中を意識した本気の取り組みが伝わってくるものである。だからBray氏が、Androidの可能性としてユーザーエクスペリエンスに言及しているのは不思議なことではない。

これらが意味するのは、2011年もiOSとAndroidは着実に市場を広げるということだ。その陰ではたしてRIMやNokiaは下落に歯止めをかけられるのか、またWindows Phone 7とwebOSは市場を開拓できるのか……そちらの方が気になる。

Appleは7インチデバイスを手がけるだろう。Galaxy Tabを使って本を読み、ゲームをプレイしている人は誰もが、手のひらサイズでありながらハンドセットよりもサイズが大きい何かがエコシステムの大きな空白を埋めると実感している。これ以上の議論は必要ない

2010年7 - 9月期の決算発表でSteve Jobs氏が7インチサイズのタブレットをこきおろしたが、正確にはスマートフォン向けのOSをそのまま使った7インチタブレットに対するコメントだった。いま片手で扱えるタブレットが求められているというのは衆目の一致するところである。だから、Appleが7インチタブレットを手がける可能性は確かにあると思う。もしかすると10インチのまま片手で操作できるタブレットを実現するかもしれない。いずれにせよタブレットを片手で扱うためには、そのためのソリューションが必要である。Bray氏とJobs氏は相対する立場だが、Bray氏のコメントにも"何か"という言葉が入っているあたり、まだ空白が埋められていないというニュアンスが含まれる。その点で2人の意見は一致しているように思う。では、何がソリューションにつながるのか?

たとえば、7インチタブレットはビジネス向けの利用が期待されているが、ビジネス向けタブレットに関してBray氏は以下のようにコメントしている。

遊びや読書のためのデバイスとしてならタブレットやハンドセットはコンピュータに取って代われるが、高速でスムースなテキスト入力のソリューションが実現しないかぎり仕事のツールとしては主流になれない。ただ、この分野にはドラマチックな前進が起こる可能性がある

最近気づいたのだが、ウチの裏に住む子供たちはスマートフォンをボイスアクションで操作している。聞いてみたら、そこの家の子供たちだけではなく、スマートフォンを持っている友だちは普通に音声機能を使っているという。久々にジェネレーションギャップに直面した……。

正直、端から「ボイスアクションなんて使いものにならない」と思っていた。だが、ボイスアクションを使いこなす中学生の方が明らかにすばやく携帯を操作している。彼らには、電話をかけるためにコンタクトリストをスクロールしたり、検索のためにソフトウエアキーボードを使って検索ボックスに1文字ずつ入れていく作業の方がひどく非効率的に映ることだろう。タブレットに"ドラマチックな前進"を期待するのなら、モバイルデバイスを使うわれわれも変わらないといけないのかもしれない。